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昼間たかしの100人にしかわからない本千冊 61冊目

虚実ない交ぜで記される特務機関の戦い『特務諜報工作隊 秘録 雲南の虎と豹』

文=昼間たかし

    『特務諜報工作隊 秘録 雲南の虎と豹』(番町書房)

 時に1944年。重慶軍の攻勢に拉孟・騰越は玉砕。インパール作戦は失敗に終わり、ビルマ・シャン高原は風雲急を告げていた。

 そういう状況の中で、制空権を奪い次々と工作員を落下傘で送り込む英中と戦うために組織された雲南機関の諜報戦を描く物語。

 という内容が記された本が、『特務諜報工作隊 秘録 雲南の虎と豹』(番町書房)なのだが、回想録かと思いきや、どうも違う。後書きを読むと「ノン・フィクションは時にフィクションになり、フィクションはまたノン・フィクションになり、人間の感情は複雑に揺れ動くものだということをしみじみと感じた次第」と記されている。

 著者の丸林久信は、ビルマ戦線を生き延びた後に、戦後は黒澤明の映画のチーフ助監督を務めたことなどで映画史に名を刻む人物。どこまでが、真実かはわからぬが、自身が体験したビルマでの戦いが反映されたのが、この本ということか。

 この番町書房という出版社は、虚実ない交ぜの戦記読み物を多数手がけていた出版社なのだが、この本は特に煽りがスゴイ。「雲南の虎と豹の対決」「日・中・英入り乱れての諜報合戦」。そんな知られざる戦争の記録が……と、読み始めたら、まったく期待を裏切られる。

 現地の朝鮮人慰安婦といい仲になって逢い引きを繰り返したり、現地人の信頼を勝ち取るために村の娘と結婚したり。

 おまけに、各国の特務機関が入り乱れる高原のシーンは奇妙だ。たとえ敵の工作員に遭遇しても、しめたとばかりに撃ってはならない。なぜなら、周囲の現地人こそが、敵方かもしれないから。結果、英国側の工作員であるゴードン中佐とは、何度も邂逅し奇妙な友情が芽生える。

 ただ、いくら現地人を味方に付ける工作を行っても戦況は挽回されない。度重なる敗北に気の立った将校は、特務機関の意志を一顧だにしない。情報収集のために泳がしていた人物を、後先考えずに処刑してしまう。自暴自棄になった兵隊は、現地の娘を犯そうとする。

 ほんと、どこまでが事実なのかが判然としない状況が書き綴られる本。ただ、明日をも知れぬ戦場だというのに、描かれる風景は、どこか平和だ。そんな一時の平和を描写できるのも、著者自身の体験が記されているゆえか。
(文=昼間たかし)

最終更新:2019/11/07 18:31
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