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昼間たかしの100人にしかわからない本千冊 59冊目

21世紀に復活するヴァレリー・ソラナスと「男性皆殺し協会」──『I SHOT ANDY WARHOL―ポップカルト・ブック』

『I SHOT ANDY WARHOL―ポップカルト・ブック』(早川書房)

 日々、ネットで情報を見ていると、なんだかんだと論争を目にする。いかに自分の主張が正しいか、一歩でも後退すれば完全敗北かのごとく信者を煽動し、苛烈な意見を繰り返す論争。いったい、なんの利益があるのかわからないが、妙な使命感を持った主張が止まらない人は絶えることがない。

 でも、それを目にするたびに、とても平和な世の中であることに安堵するのだ。そりゃそうだ、どんなに主張が対立しても、相手が徒党を組んで攻めてくる、あるいは斬り合いとか撃ち合いが始まるなんてことは、そうそうない。

 中国の春秋戦国時代とか、さまざまな説客が入り乱れたわけだけど、一言でも言い間違えたり、言葉に詰まれば首を斬られたり、釜ゆでにされたり。ああ、日本でも江戸時代以前は、そんな感じだ。そう考えると、とても平和だ。

 さてさて、そんな平和な時代でも、やっぱり緊張感は必要。時には、肉体言語で言論の自由を振りかざす人がいないとは限らないからだ。

 そう、この『I SHOT ANDY WARHOL―ポップカルト・ブック』(早川書房)のヒロインであるヴァレリー・ソラナスのようにね。この本は1996年の映画『I SHOT ANDY WARHOL / アンディ・ウォーホルを撃った女』のシナリオに解説を加えた本。1968年6月3日、アンディ・ウォーホルを撃った女・ヴァレリーの人生の履歴をまとめたものである。

 ウォーホルを撃ったということで歴史に名を残したヴァレリーの人生というのは、かなりハードなものだ。両親の喧嘩が絶えない上に、父親から性的虐待を受けたりして、早くから非行に走ったヴァレリーは、寄宿学校を経て大学へと進む。彼女はそこでレズビアンとしての自覚を持つが、まだ時代は1950年代末。理解者を求めてたどり着いたのは、ニューヨーク。とはいえ、大都会といえども、そうそう承認欲求を満たしてくれる人に出会うことなどできるはずもない。売春婦をしたりして糊口を凌ぎながら、熟成されていくのは、世の中への憎悪。とりわけ男性への怒り。そうして彼女は一人で組織を立ち上げる。名付けて<Society for Cutting Up Men>。

 日本語訳すれば、男性切り刻み協会。もっと砕けた意訳をするなら「男性死ね死ね団」とか「男性皆殺し協会」といったところか。そして、その思想を「SCUMマニフェスト」として自費出版する。英語版のウィキペディアには詳細な解説が書いてあるし、ネットを探せば全文を読めるんだが、その思想はいわばブチ切れたフェミニズム。

 一部の女の味方をするヤツと同性愛者を除いて、男どもは皆殺しというわけである。この「SCUMマニフェスト」は、なんかとんでもないヤツが現れたなという感じで注目もされて、
出版の依頼も来たのだが、ヴァレリーはそれに満足せずに、ウォーホルを撃ちにいくというわけである。

 その話は別として、やっぱり思うのは歴史は繰り返すということだ。「#Metoo」やら、なにやらが盛んになった時、あれ、またそんな終わった論争を持ち出すのかと筆者は思った。キャサリン・マッキノンなんかが主張した、ポルノをレイプの教科書だと非難するような主張はとうの昔に論破されたと思ってた。

 でも、歴史は繰り返す。同じような主張は形を変えて復活し、また同じことが繰り返されるというわけだ。その流れの途上にいる現在、そろそろまたヴァレリーみたいなヤツが現れてくるのは必然だ。

 いやいや、そんなマジ●チにはとっとと退場願いたいというなら、もうSNSとかブログとかはやめて、ネットは見て楽しむだけに制限すればいい。どんな形であれ、世間に自分の主張を開陳するということは、どんな攻撃をされるやもわからないという緊張感の中にある。

 その緊張感があるからこそ、またペンを(パソコンで書いているけど)を走らせる。
(文=昼間たかし)

最終更新:2019/02/14 23:00
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