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地下鉄サリン、東電OL殺人、秋葉原殺傷事件ほか平成30年を振り返る実話系犯罪映画ベスト10

行き場を失った派遣労働者が起こした惨劇

『ぼっちゃん』2013/秋葉原無差別殺傷事件

 2008年6月に起きた「秋葉原無差別殺傷事件」をモチーフに、大森立嗣監督は異色作『ぼっちゃん』を撮り上げた。犯人の加藤智大はネットの掲示板に犯行予告の文章を書き込んでおり、大森監督は加藤の文章に触発され、本作の脚本に着手したと語っている。

 社会からの疎外感を抱く主人公が犯行に及ぶシーンは、大森監督の独自の解釈によるものとなっているが、派遣社員が派遣先の職場で抑圧される様子はディテールたっぷりに描かれている。『SRサイタマノラッパー』(09)の水澤紳吾、『オカルト』(08)で怪優ぶりを発揮した宇野祥平が共演。インディーズ映画界の名優2人のやりとりが絶妙すぎ、ブラックコメディ要素の強い作品となった。実録犯罪ものを期待して観ると違和感を覚えるだろうが、格差社会の底辺でも行き場を失った人間は、野獣化せざるをえないというシビアな現実が浮かび上がる。

 大森監督は、真木よう子主演の官能作『さよなら渓谷』(13)では「秋田児童連続殺害事件」をモデルにしたエピソードを物語の導入パートとして描いている。現代人の心の闇、社会の歪みを見つめることで作家性を発揮する監督だといえるだろう。

迫真すぎたピエール瀧の演技

『凶悪』2013/上申書殺人事件

 2005年に死刑囚の告白を「新潮45」の記者がスクープ記事にしたことで、首謀者が逮捕されることになった「茨城上申書殺人事件」の映画化。薬物依存症の元暴力団組長役をピエール瀧が演じ、迫真の演技を見せている。

 藤井記者(山田孝之)のもとに、獄中にいる死刑囚・須藤(ピエール瀧)からの手紙が届く。須藤と面会した藤井は、まだ警察が気づいていない余罪と一連の事件には首謀者がいることを知る。半信半疑で取材を始めた藤井は、土地ブローカーの木村(リリー・フランキー)の足取りを追うことに。須藤が「先生」と呼んで慕っていた木村は、生命保険に入った老人を死に追い詰めるなどして億単位の大金を手に入れていた事実をつかむ。

 本作を撮った白石和彌監督は、『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(08)で知られる若松孝二監督の愛弟子。スキャンダラスな映画を撮り続けた若松監督を師匠として仰いだだけに、白石監督も実話を題材にした本作で思い切った演出を見せ、売れっ子監督への道を切り開いた。

 白石監督の作品は『孤狼の血』『止められか、俺たちを』(18)のどちらも、アクの強い“師匠”から主人公たちは大きな影響を受けることになる。本作にもそれがいえる。誤った師匠を選んでしまった男の哀しみが、ピエール瀧の演技には漂っている。

毒親、ネグレクト、無縁社会……断ち切れない負の連鎖

『子宮に沈める』2013/大阪二児餓死事件

 毒親による虐待を受けている児童の数は、1990年代以降年々増え続けている。中でも世間の大きな関心を集めたのが、2010年に起きた「大阪二児餓死事件」だった。織方貴臣監督はこの事件を含め、いくつかの児童虐待事件を取り入れた形で『子宮に沈める』として自主映画化している。

 夫と別れ、若くしてシングルマザーとなった由希子(伊澤恵美子)は2人の子どもを連れて、アパートでの新生活を始める。よい母親になろうと張り切る由希子だが、学歴も職歴もなく、なかなか割りのいい仕事は見つからない。育児と仕事の両立に疲れた由希子は、次第に男と遊ぶようになり、アパートには戻らなくなってしまう。母親の心の荒廃を反映したかのように、アパートの部屋は大量のゴミで埋もれていく。数週間が経っても母親が帰ってこない中、残された姉弟の姉はまだ幼い弟の世話を懸命に看ようとするが……。

 実際に起きた悲劇をネタにして商業映画にしていると、織方監督はネット上でバッシングを浴びることになった。事件を起こした母親を糾弾するための映画ではなく、シングルマザーの苛酷さを伝えたかったという織方監督のメッセージは、バッシングする人々の耳には届かなかった。事件を招いた加害者をいくら叩いても、ネグレクト問題は何も解決しない。『子宮に沈める』はそのことに気づかせてくれる。

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