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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.534

この主人公に共感した人は、かなりヤバいかも!? サイコパスコメディ『ハウス・ジャック・ビルト』

文=長野辰次

ラース・フォン・トリアー監督、マット・ディロン主演作『ハウス・ジャック・ビルト』。サイコパスの主観で物語が進んでいく。

 SNS上で「いいね」をどれだけ集められるかが人気の目安となっている現代社会において、真逆の世界を突き進んでいるのがデンマークのラース・フォン・トリアー監督だ。絶望感たっぷりな『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(00)や『ドッグヴィル』(03)を見終わった後はぐったりするが、さらに『アンチクライスト』(09)や『ニンフォマニアック』(13)になると、人間の暗部をますますえぐり出すようになった。そして5年ぶりの新作『ハウス・ジャック・ビルト』(原題『The House That Jack Built』)は、観る者に共感を求めない孤高の作品となっている。

 往年の青春映画スター、マット・ディロン演じる殺人鬼ジャックが主人公。本作は5章仕立てとなっており、ジャックが12年間にわたって手を染める4つの殺人事件が描かれる。最初のエピソードは、雪道で立ち往生していた中年女性(ユマ・サーマン)をジャックが車に同乗させたことから始まる。この中年女性は態度がやたらとデカく、ジャックが運転する車に強引に乗り込み、お礼も言わずに文句ばかりダラダラとしゃべり続ける。その挙げ句に、「乗るんじゃなかった。あなた、殺人鬼かも」と言い出す。『キル・ビル』(03)で大暴れしたユマ・サーマンが、あっさりと撲殺される。これがジャック、初めての殺しだった。

 最初の殺人に味を占め、ジャックの犯行の手口はどんどん大胆かつ陰惨なものとなっていく。夫に先立たれた初老の女性(シオバン・ファロン)の自宅に保険の調査員だと偽って上がり込むや、彼女を殺害。完全犯罪をもくろむジャックは、犯行現場に血痕が残らないよう何度も何度も執拗に清掃を繰り返す。現場から離れられずにいるうちにパトロール中の警官が現われたため、慌てて逃げ出すジャック。袋詰めにした死体をワゴン車で引きずりながらの逃走となるが、ジャックは車が走った後の路上に延々と血痕が残されていることに気づいていない。強度の潔癖性なのに、やることはズボラ。ジャックの行動は支離滅裂で、理解できない。

 地球滅亡の日を描いたトリアー監督のSF映画『メランコリア』(11)は、壮大なブラックジョークの世界だった。どうやら、本作もそっち系の作品らしい。第2の殺人事件のブラックなオチを見たあたりから、ようやくそのことに気づく。サイコパスを主人公にした超絶なブラックコメディ、それが『ハウス・ジャック・ビルト』なのだと。ジャックの思考性や言動はまったく共感することができない。でも、それは彼がシリアルキラーなのだから当然だ。逆に快楽殺人鬼の気持ちがよく分かる、というほうがヤバいだろう。

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