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頑張っても這い上がれない「格差固定社会」は、すぐそこまで来ている/映画『パラサイト 半地下の家族』

※この記事には映画の内容に関する記載がございます。あらかじめご了承ください。

 優れて芸術的な映画作品に贈られる、カンヌ国際映画祭「パルム・ドール」は、映画界における最高の権威ある賞だ。これを初めて韓国映画にもたらした作品が、ポン・ジュノ監督による『パラサイト 半地下の家族』だった。

 近年の韓国映画の充実を考えれば、いまになって獲得したことは、むしろ意外に感じるし、ポン・ジュノ監督は、『殺人の追憶』(2003年)、『グエムル-漢江の怪物-』(2006年)、『母なる証明』(2009年)などなど、パルム・ドール級の傑作を10年以上前からすでにいくつも撮りあげているので、受賞は遅すぎた印象すらある。

 しかし、賞を獲得したことによる、ヨーロッパやアメリカの批評家、ショービズ界への影響は凄まじく、いまや誰もが、本作『パラサイト 半地下の家族』を賞賛しているという印象。ジュノ監督は、ジミー・ファロンのTVトークショーに出演するなど、英雄扱いである。

 さて、なぜ本作はこんなにも評価されているのか。その理由は、ジュノ監督ならではの、激烈に面白い娯楽性と、芸術的な演出の共存である。そして忘れてはならないのが、社会問題を映し出した現代的なテーマの見せ方だ。ここでは、日本も“人ごと”とはいえない、本作が訴える韓国の過酷な現実を見ていきたい。

 

映画『パラサイト 半地下の家族』(C)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
「半地下住宅」が象徴する「格差」の現実
 本作の重要な舞台となっているのが“半地下住宅”だ。

 韓国では、朝鮮半島全てが戦場と化し、国土が荒廃した朝鮮戦争の被害を教訓に、1970年代になってから、防空設備としての地下室や半地下部屋の建築が、法律によって義務づけられることになった。

 その後、経済発展にともないソウルの人口が爆発的に増えたことで、そこは本来の用途からは外れた、安価な賃貸住居として利用されるようになっていったという。義務化が廃止された現在、半地下住居は減少してきているが、依然として貧困層の住居として需要がある。

 『パラサイト 半地下の家族』の主人公となるのは、このような半地下部屋に住んでいる、父と母、息子と娘で構成される4人の貧困家族。一見、秘密基地のような楽しさもありそうな半地下生活だが、本作での家族の暮らしぶりの描写によって、実際にはそんな甘いことを言っていられない、過酷な現実があることを思い知らされていく。

 目立つのはトイレだ。下水管の位置が高いので、部屋の最も高い位置にトイレが鎮座するという異様な光景が、半地下住居の不便さ、生きづらさを象徴している。

 日光はほぼ当たらず、いつでも暗くじめじめとしていて、カビが繁殖しやすい。さらに、窓が外の道路の低い位置に面しているため、居住者のプライバシーが侵されている部分もある。

 本作では、家族団欒をしていると、酔いどれた男が窓のすぐ外で“立ちション”をするという、迷惑極まりない事態に見舞われる。家族にとっては、これも日常的な出来事であるようだ。

 危険なのは、豪雨などによって洪水が起こったときだ。完全に密閉されていなければ、居住スペースに汚水がどんどん流れ込むという、悪夢的な状況に陥ってしまう。

 日本では最近、温暖化による異常気象の影響か、豪雨の被害にさらされるケースが多くなっているが、東京の水害ハザードマップを確認すると、比較的地価の安い下町は危険だということが一見して分かる。半地下文化が根付いていない日本でも、同じような現象は起きているのだ。

 

映画『パラサイト 半地下の家族』(C)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
「生まれた環境で人生が決まる」。不平等な社会状況
 ソン・ガンホが演じる父親ギテクは、過去に何度も事業に失敗し、真面目に働く意欲を失っている。母親チュンスクはそんな夫に強くあたり、長男ギウは大学受験生で浪人中。長女ギジョンもまた美大に合格できず、予備校に通うお金もないまま、みんなでピザの箱を作る内職を続けながら日々を送っている。

 そんなある日、ギウはエリート大学生の友人に、家庭教師の働き口を紹介される。ギウは大学に入学してはいないが、書類を偽造してエリート大学生を騙り、若きIT企業社長パクの邸宅で、社長令嬢の高校生を指導することになる。これが、一家の“詐欺”の始まりだった。

 若く人の好い社長夫人は、ギウの口車に乗せられて、幼い息子のために美術の英才教育をさせることに同意する。指導するのは、もちろん半地下一家の娘ギジョンである。

 彼女は、ギウと家族であることを隠し、アメリカ帰りの優秀なプロの美術教育者として、パクの邸宅に入り込むことに成功する。そう、半地下一家は、身分を偽って、どんどんパク一家に潜り込み、働き口を確保して“パラサイト(寄生虫)”となっていくのだ。もちろん、これらは詐欺行為にあたるが、本作はこれを面白おかしく描いていく。

 興味深いのは、半地下家族たち、一人ひとりの意外に優秀な働きぶりである。家族はピザの箱作りはぞんざいにやっていて、業者から文句を言われていたが、責任あるポストを与えると急にピリッとして、いきいきと働き始めるのである。家族には、じつは優秀な人材としてのポテンシャルがあったのだ。

 では、なぜ半地下一家は、いまのような境遇に落ち込んでしまったのだろう。思えば、一家はパク家のように、家庭教師を雇ったり、高額な教材を揃えるなどの経済的余裕がない。だから、受験を突破するためには、全て自力で何とかしなければならない。

 最近、日本でも萩生田光一文部科学大臣が、入試に導入を予定している英語民間試験において、受験機会に不平等な部分があるという批判に対して、「身の丈に合わせて頑張って」という、経済的な余裕のない受験生を突き放す発言が問題となり、延期が決定される事態となった。

 これ以上、貧富の格差によって受験の合否が左右されてしまうようになっていけば、格差は事実上固定化されてしまう。市民が豊かな生活を送っていけるかどうかは、能力よりも家柄や金銭が優先されるのである。韓国も日本も、階級社会によって、不当に不利益を被る層が、すでに存在しているのだ。

 半地下一家の母チュンスクは、パク社長夫人の人の好さについて、「私だって、こんな邸宅に住んでいたら優しくなれるよ」と言い、父親ギテクは、「何かを計画してもどうせ上手くいかない」と語る。一家にとって、あり得た豊かな生活、あり得た幸せな未来は、貧富の格差という、半地下に象徴される“制約”によって手に入れ難いものとなっていることを、本作は描いていく。

 富裕層であるパク一家は、そんな人々が自分のすぐ近くに存在していることに気づかない。不平等によって自分たちが支えられているという現実を、当然のものとして、全く見ようともしないのだ。そして、半地下のカビくささに眉をしかめる。まさに「身の丈に合わせて頑張って」の境地だ。

 本作『パラサイト 半地下の家族』は、このような貧富の現実そのものを、娯楽表現とともに、“映像そのもの”によって、魔法のように見事に表現する。この鮮やかさに、世界の批評家は驚嘆することになったのである。ぜひ、その目で直にポン・ジュノ監督の天才的な演出に触れてほしい。そして、いま起こっているリアルな問題に思いを馳せてほしい。

映画『パラサイト 半地下の家族』
2020年1月10日(金)ほか全国ロードショー!

出演:ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、チェ・ウシク、パク・ソダム、イ・ジョンウン、チャン・ヘジン
監督:ポン・ジュノ(『殺人の追憶』『グエムル -漢江の怪物-』)
撮影:ホン・ギョンピョ
音楽:チョン・ジェイル
提供:バップ、ビターズ・エンド、テレビ東京、巖本金属、クオラス、朝日新聞社、Filmarks
配給:ビターズ・エンド
ⓒ 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED/2019年/韓国/132 分/PG-12/2.35:1/
英題:PARASITE/原題:GISAENGCHUNG
www.parasite-mv.jp

最終更新:2020/01/06 05:30
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