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ヒップホップのタイプビートとは何か?

ビートリーシングは“音源版JASRAC”! ラッパーを地元の呪縛から解放! “タイプビート”ビジネスの可能性

ヒップホップへの入口を拡張する

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ビートリーシングは音源版JASRAC! ラッパーを地元の呪縛から解放! タイプビートビジネスの可能性の画像4
2020年代のヒップホップを提示しつつあったポップ・スモーク。今年2月にミックステープ『Meet The Woo 2』をリリースした直後、銃殺されてしまった

 では、実際に日本の若者はタイプビートをどのように見ているのか? ヒップホップ系の情報サイト「SUBLYRICS」を運営する現役大学生の山崎真弥氏は、このように語る。

「タイプビートをラッパーとビートメイカーの両者の視点で見ると、まずラッパーにとってはお目当てのビートが探しやすくなりました。一方でビートメイカーは、特に無名だとビートを届ける手段がなかったのが、YouTubeを介して世界中に発信できるようになりました。だから両者にとってメリットがあり、両者をマッチングさせたという意味でも革新的だと思います」

 そして山崎氏本人も、タイプビートを買っているひとりだという。

「僕は三重県出身ですけど、最近、地元のクルーと一緒にラップを始めたんです。クルーの中にはビートを作れる子がひとりいるんですけど、まだ勉強中で、僕もラップは初心者なので、まずはビートだけでもクオリティの高いものを、と思って。僕みたいな地方の素人ラッパーにとってはメリットしかないです」(山崎氏)

 ただし逆に言えば、周りにビートメイカーがいるラッパーにとってはその限りではない。

「実際、東京でビートメイカーをやっている知人やその周辺のラッパーは、タイプビートへの関心は薄いです。その理由としてまず、彼らはビートを提供したり、使用させたりしてくれる仲間が周囲にいることが大きいのですが、そのほかにも日本ではまだロールモデルとなるヒット曲が生まれていないことも挙げられると思います。もちろん『Cho Wavy De Go
menne』のような例もありますが、あの曲がタイプビートを使っているということ自体があまり知られていなかったりするんです」(同)

 確かに、日本でもヒップホップ人気は定着しているとはいえ、アメリカのようにチャートを席巻するほどではないし、山崎氏の言うように成功のロールモデルも少ない。

「ただ、僕自身はタイプビートに期待していますし、ヒップホップというカルチャーの入口として素晴らしいものだと感じています。国籍もキャリアも、田舎も都会も関係なく、ビートをやり取りできる場所が生まれているということ自体に意味があるんじゃないかと」(同)

ビートリーシングとJASRACの違いとは?

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全編にタイプビートを用いたDJ CHARI & DJ TATSUKI『THE FIRST』。

 このタイプビートおよびビートリーシングは、著作権的にはどうなっているのだろうか? 著作権法に詳しい弁護士の福井健策氏は、こう話す。

「まず、音楽にかかわる権利には、著作権と著作隣接権があります。前者は楽曲に対する権利であり、典型的なのは作詞家や作曲家、編曲家といった“楽譜に書ける情報”を作った人が持つ権利。後者は、その楽曲の実演や、実演を収録した音源(原盤/マスター)に対する権利です。タイプビートの場合、ビートメイカーが自ら楽曲と音源を作り、その音源をYouTubeにアップした場合、彼らに著作権も著作隣接権も認められるケースが多いでしょう。なお、アメリカの法律には『著作隣接権』という言葉はなく、著作権の一種として整理されます。要は、ミュージック(楽曲)の著作権とサウンドレコーディング(音源)の著作権があり、ビートメイカーはその両方を持っていると解釈できます」

 そして福井氏は、“音源版のJASRAC”が生まれたという意味で、ビートリーシングに可能性を感じるという。

「JASRACは著作権=楽曲の権利を集中管理する団体であり、そういう意味では著作隣接権=音源の権利の集中管理はあまり進んでこなかった。例えばYouTubeに『踊ってみた』や『歌ってみた』がアップされた場合、そこで使われた楽曲に対して、JASRACは作詞家・作曲家が持つ楽曲の著作権は処理できますが、主にレコードレーベルが持つ音源の権利に関してはたいていは未処理なんです。一方、ビートストアでは音源に関してもかなり幅広くライセンスしてくれます。注目したいのは、そこでYouTubeという巨大なプラットフォームがハブになっているということ。つまり、ほぼワンストップでライセンス可能という点でJASRACと同じなんです」(福井氏)

 もっとも、ビートリーシングのモデルは、JASRACの著作権使用料の徴収法とは本質的に異なる。つまり、JASRACの場合はその曲が使用されるたびに著作権者に使用料が払われる形が主だが、ビートリーシングの場合は定額の買い切りだ。

「ビートストアの仕様を見る限り、販売されているビートの価格には楽曲と音源双方の権利の対価が含まれていると思います。その理解で正しければ、仮にあるラッパーがビートストアで購入したビートを使った曲をリリースし、その曲がスポティファイなどで何百万回再生されても、ビートメイカーには追加は1セントも支払われない。ただ、ビートメイカーは自分でビートの販売価格をコントロールできるし、ライセンスを“Exclusive(独占使用)”にしない限りはひとつのビートを何回も売ることができます。また、おそらく“Exclusive”で売る際は、ラッパーとの配信収入における歩合の交渉なども可能でしょう」(同)

 一方のJASRACには、そのような個別交渉はほぼない。

「JASRACは基本的にどの曲も同じ条件で許諾することに相当こだわっていて、それが大量処理を可能にもしていますが、新ビジネスへの柔軟な対応を遅らせてもいる。かたやYouTubeをハブとするビートリーシングのモデルは、権利管理の自動化と柔軟性が両立しやすいという点で、フリーカルチャーやオープン・クローズ戦略との相性もよく、権利ビジネスとして可能性を感じます」(同)

 繰り返しになるが、日本においてタイプビートはまだ浸透段階にあり、仮に浸透しきったときには海外ではまた別のモデルが生まれているかもしれない。しかし、タイプビートにはローカルを越えた異種交配の促進、ヒップホップへの入口の拡張、あるいは新たな権利ビジネスの形など、さまざまな可能性を秘めていることは確かなようだ。

(取材・文/須藤輝)

「サイゾー」2020年4・5月合併号【特集:YouTube”新”論/実録・狂気の関西ラップ】より

最終更新:2020/06/14 09:00
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