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「美しい甲子園」の裏側

ケガも熱中症も“いい話”に! 美談が隠す甲子園の諸問題とストーリーを作り上げる新聞社

時代錯誤の登板過多もケガも美談的に報道

 さらに、美談が覆い隠す甲子園の大きな問題のひとつが、前述したエース投手の登板過多だ。

 現在の日本のプロ野球では、先発投手は中5~6日、メジャーリーグでは中4日程度の登板間隔を空けることが主流。またメジャーリーグでは100球前後の投球数で先発投手が降板することも通例となっている。

 一方の高校野球については、昨年11月に「大会期間中に1人の投手が投げる総数を1週間500球以内とし、3連戦を避ける日程を設定すること」という答申が高野連で承認されるまで、球数の制限等が一切なかった状態。ご承知の通り甲子園は過密日程で、中1日や2日での100球を超える連投もごく普通に行われてきた。そうした多投・連投は、大会中の故障リスクを上げるだけでなく、プロ入り後への悪影響も懸念されている。

「体の強さは個人差がありますし、一概にはいえませんが、高校時代の投げすぎがプロ入り後の故障の遠因になっている選手もいるでしょう。近年は松坂大輔、和田毅、藤川球児、ダルビッシュ有、大谷翔平といった投手がトミー・ジョン手術(ひじの内側側副靱帯の再建手術)を受けていますが、彼らは全員が甲子園で投げているピッチャーですから」(氏原氏)

 アメリカスポーツ医学研究所(ASMI)の見解では、トミー・ジョン手術に至る故障の原因のひとつには「若年時からのダメージ蓄積」が挙げられている。しかし日本では高校生の多投・連投が美談として報じられることが多い。近年では“金農旋風”で甲子園を盛り上げた吉田輝星(現・日本ハム)の報道がその典型だ。

 彼が18年夏の甲子園の13日間で投げたのは実に881球。ネット上では「酷使」「虐待」などと非難する声もあったが、メディアではその奮闘を好意的に取り上げる報道が目立った。その中で東スポなどが『金足農・エース吉田「球数問題」に現場から異論反論』といった記事を配信するようになったのは、近年の変化といえるだろう。

 また近年の高校野球では、エース投手を思いきって休ませる監督も出てきた。令和の怪物と称された大船渡高校の佐々木朗希(現・千葉ロッテ)は、19年夏の甲子園の岩手大会決勝を、監督の「故障予防のため」という判断で登板回避。結果、チームは敗れて甲子園出場を逃した。氏原氏はその決断について「監督は戦ったと思います」と称賛を送る。

「故障覚悟でエースを投げさせたほうが、監督も『全力で戦ったけど負けました』と言い訳がしやすいですし、負けても美談になりやすいですからね。でも監督はそのように逃げることはせず、選手の体調や将来を第一に考えたわけです。メディア側も、その勇気ある決断を好意的に報じていくべきですよね。『監督の英断により、2番手の投手が大舞台で投げた』という方向でも美談は描けるはずですから」(氏原氏)

 ケガのリスクを考慮しての登板回避が好意的に報じられにくい一方、選手の将来を考えれば大問題の「ケガをおしての出場」は美談の典型。「大ケガからの再起」といった物語も甲子園の報道では目にすることが多い。

「大ケガからの再起なども、美談として報じる前に『なぜその選手は大ケガをしたのか』をしっかり取材すべきです。中には監督が選手を壊しているような事例もありますから。そして根本的な問題として、人の不幸を利用して涙を誘うような感動主義の報道はやめるべき。高校野球ではドラフト特集の番組などでも、『その選手に大きなケガはあったか』『周囲に亡くなっている人はいないか』などと、涙を誘うようなことを真っ先に調査。震災を経験した選手に対しては、亡くなった同級生へのコメントを求めるなどしています」(氏原氏)

 なお19年には、朝日新聞デジタルが千葉県の高校について「失明した兄『なんで俺なんだ』 決意の弟は同じ野球部へ」という美談記事を掲載。その記事を兄本人がツイッターで「『なんでおれなんだ』なんて言ってないし思ったこともない」と否定し、ネットで朝日新聞に批判が集まった事例もあった。若手記者の起用については解説したが、それにしてもなぜこうした裏話的な美談記事が多くなってしまうのだろうか?

「高校野球はあくまでアマチュアスポーツ。プロ野球やJリーグ、相撲のように協会や運営組織によって取材が担保されているわけではないことも理由のひとつですね。取材をするには生徒、学校関係者と関係を作り、協力をしてもらうことが必要になるため、どうしても身内の話が多くなってしまうのです」(前出・記者)

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