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映画『女たち』公開記念インタビュー

あの話題作のヒロインらはこうして口説かれた 映画プロデューサー奥山和由が語る「女優たち」

現場で見せた女優たちのプロフェッショナルぶり

――養蜂場を女性ひとりで営む香織役の倉科カナさんも、印象に残ります。NHK朝ドラ『ウェルかめ』に主演した爽やかなイメージがありますが、実力も備えている女優ですよね。

奥山 倉科カナさんこそ、コロナ禍で大変な目に遭っていました。倉科さんは江戸川乱歩原案の舞台『お勢、断行』に出演するはずだったのに、政府からの自粛要請を受けて直前になって公演中止になってしまったんです。

 僕は公演初日に観にいくはずでした。せっかく稽古し、舞台の準備も整っていたので、劇場でゲネプロを1回だけやることになったんです。その日の僕は先約があって、世田谷パブリックシアターに駆けつけた時にはすでにゲネプロは終わっていました。倉科さんのマネージャーさんに案内されて楽屋まで会いに行ったんですが、ゲネプロを観ていないので何と声をかければいいんだろうと悩んでしまった。すると、向こうから倉科さんが華やかな舞台衣装のまま、あの“倉科スマイル”を浮かべながらこちらに駆け寄ってきたわけです。そのとき僕の口から出た言葉は、「ちょうど頼みたい役がある」でした(笑)。主人公の親友・香織は冒頭で死んでしまう役なので、受けてくれるかどうか分かりませんでしたが、倉科さんは脚本を読んですぐにOKしてくれたんです。しかも、香織になりきるために、髪をばっさりカットしました。今回の『女たち』は、芝居をしたくてもできないという、女優たちの心の叫びが反映された実録物と呼んでもいい内容になっています。

――主人公の美咲に対して、いつも笑顔を見せていた香織ですが、大雨の夜に自殺か事故死か分からない状態で亡くなってしまう。香織の心の葛藤を描いたこのシーン、かなり激しい雨が降っています。

奥山 石井隆監督の『GONIN』のクライマックスみたいでしょ? 最小限のスタッフと機材だけの撮影現場だったので、あのシーンは雨降らしではありません。僕も撮影に立ち会っていたけど、ロケ地の群馬だけその夜は大豪雨だったんです。本当は晴天の星空での撮影のはずでしたが、倉科さんのスケジュールがその日しか空いてなく、生憎の大雨になってしまった。倉科さん自らも「いっそのこと豪雨の中でやりませんか」と提案があり、雨雲レーダーを見て、いちばん雨量の激しい中での撮影を決行しました。カット割りなしの長回しでの撮影です。倉科さんは土砂降りの中で香織の最期を見事に演じてくれました。

 でもそのシーンの撮影が終わって、「お疲れさま。素晴らしかったよ」と倉科さんに声をかけると、「えっ、もう一回やらなくていいんですか?」と言うんです。スタッフはもう現場をバラしている。「本当にいいんですか? ここで帰っちゃったら、後悔しませんか? 最初のテイクがちゃんと撮れていれば、『リテイクは必要なかったね』と笑って済むだけですよ」と、あの完璧な笑顔で言うわけです。僕はハッとして、内田監督に連絡して映像を確認させたんですが、「大丈夫です」というので、その夜は終わりました。でもね、仕上がった映像を観ると、豪雨がライトを浴びてうまく映っていなかった。実際の雨はもっとすごかったんです。『女たち』で悔いが残るのはこのシーンだけ。倉科さんは豪雨の中で熱演しながらも、カメラの向きや照明の角度も頭に入っていて、状況を冷静に把握していたわけです。

――プロの女優、恐るべしですね。

奥山(うなずきながら)みんな、本当にプロフェッショナルな女優たちでした。障害を持つ毒親を演じ切った高畑さんもすごかった。篠原さんも真綿で首を締められているような日常を送る美咲になり切って、撮影後半の数日間は車の中に篭って、誰ともしゃべらなくなっていました。でも、クライマックスシーンの篠原さんは、本当に子どものような顔になって泣きじゃくりました。

 篠原さんと高畑さんが本気でぶつかり合ったラストシーンを撮り終え、僕自身もこの作品の本当のテーマを実感することができました。予算も撮影スケジュールも限られた現場でしたが、どんなにシビアな、矛盾した状況でも、真正面から全力でぶつかっていくことで出口へのひと筋の明かりを見つけることができるんだと。この映画を観ていただいく方たちも、観終わった後には希望が感じられる作品に仕上がったと思います。

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