日刊サイゾー トップ  > 過疎化する地方行政の切実な実情と狙い
白鴎大学ビジネス開発研究所長・小笠原教授「勘違いの地方創生」【4】

能登町の“巨大イカモニュメント”批判は現時点では的外れ―過疎化する地方行政の切実な実情と狙い

イカのモニュメント設置の本当の狙いは?

――ただ、「イカのモニュメントを置いたら観光客が来るのか?」という疑問は残ります。

小笠原 そう、「コロナ禍の中でこんな事業をやって」というところではなく、「でかいイカを置くことで地方創生につながるのか」というところが本題なんです。コロナ云々とは一度切り離して考えなければいけないところなんですよ。

――ふるさと創生事業(1988~1989年)のときも、いわゆる“箱物”やモニュメントが全国でつくられました。モニュメントをつくれば地元が盛り上がるという感覚は、地方では根強いんでしょうか?

小笠原 私も今回、ふるさと創生事業の件を真っ先に思い出しました。それが繰り返されるのは、「モニュメントをつくって一発逆転」という考え方が、悲しいかな自治体関係者に限らず我々国民のなかにどこかあるからなんだと思います。

 ひとつ確実なこととして、町役場の担当の職員さんはしごく真面目にイカのモニュメント設置計画を進めたんだと思います。ただし、地方創生は成果主義です。今回のように幅広な目的を持った交付金をどう使って、これだけのお客さんを集めてこういうふうに地域の持続に役立ちました、と示せなければいけません。能登町役場のみなさんは、これからそこに対応していくことになります。だからもしこれで「お客さんがたくさん来ました」「地元の海産物が売れました」「地元の雇用が増えました」となれば、ポストコロナの社会でむしろ巨大イカは成功事例になりますよね。

――建造した現時点で批判すべきことではない、ということなんですね。一方で、今回の一連の報道の中では「住民らから広くアイデアを募る方法もあったはず」「差し迫った支援が必要なところに手厚く使う道もあったのでは」という地元住民の声が紹介されています(中日新聞2021年2月3日掲載「【石川】コロナ対策?効果 いかに 3000万円で観光モニュメント」)。こうした交付金の使い方について、住民の声はどれくらい反映されるのでしょうか?

小笠原 国から出る補助金の使い方について、1つひとつ市民に聞くという事例はあまりないと思います。国からの募集案内を受けて役所が検討して庁内で合意が取れれば申請して採用されると交付金が降りる。使いみちについても通常であれば議会で説明がありますね。市民の声を直接拾わない分、議会の責任にかかってくるんです。

――佐賀県では、コロナ患者への差別と偏見を戒める啓発事業として検討されていた「誓いの鐘」設置事業予算案が県議会で否決されました。

小笠原 そうですね。こういう局面では、議員さんの意識や感覚の持ちようもかかわってきます。おそらく能登町議会の議員さんは、本来的な目的は理解しつつ外部から批判が起こることに対してそこまで深刻にとらえなかったんだと思います。行政の動きをチェックして、検討したり助言したりするのが地方議員の役割なんですが、一方でまだまだ名誉職的な部分もあります。そうした方々が集まってこの規模の話を扱うとなると、なかなか難しいでしょうね。本来は、地方議員が意識を高めて「これはどうなのか」と判断していくのが適切な流れだと思います。

 でも、繰り返しになりますが、国から提示された活用事例集を見て地方の自治体側が「こういうのもアリなんだ」となるのは当たり前で、役場の方がそこを責められるのは災難です。この件が批判されすぎたことで、今後交付金の使用事例メニューが限定的になったりしたら、地方創生の観点からいくと非常にまずい。世の中がイカを叩きすぎています。

――のしイカになってしまう(苦笑)。

小笠原 ちゃんと成果が出れば、それでいいんです。人口の大半が高齢者になった能登半島の町が、どう存続していくのか。地域的な衰退の中で周辺と合併して能登半島全体でひとつの自治体になってしまいかねないし、でももしかしたらもうそれすら難しいのかもしれないわけです。地方創生の裏にある重たい状況が、コロナによってイカの形をとって表出した――そう考えてほしいですね。

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