白鴎大学ビジネス開発研究所長・小笠原教授「勘違いの地方創生」

ありきたりな“町おこし”では地方がダメになる?担当者も困惑の「町おこしイベント」が乱立する理由

文=斎藤岬(さいとう・みさき)

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 いま日本の各地で「地方創生」が注目を浴びている。だが、まだ大きな成功例はあまり耳にしない。「まちおこし」の枠を超えて地域経済を根本から立て直すような事例は、どうしたら生まれるのだろうか?

 本企画では、栃木県小山市にある白鴎大学で、都市戦略論やソーシャルデザイン、地域振興を中心とした研究を行う小笠原伸氏と、各地方が抱える問題の根幹には何があるのかを考えていく。第1回目となる今回は、「地方創生」というキーワードに振り回されて当事者含め多くの人が困惑している現状を掘り下げた。

◇ ◇ ◇

――2010年代に入ってから、法制度も整備されて「地方創生」が課題となっています。地方を活性化するための理念を定め、各自治体が目標に向かって取り組むことが求められていますが、まだその成功例を見聞きする機会はあまりないように感じます。小笠原先生は、都市論の研究者として、数多くの「地方創生」の事例や現場に携わっていらっしゃいますが、全国の地方自治体の取り組みをどうとらえていますか?

小笠原 今、地方創生は「まち・ひと・しごと創生」という枠組みで行われています。重要なのは、「仕事」が含まれていることです。課題になっているのは、どうやって地方で仕事をつくって人材を確保し、地方都市の自立性を確保するのか。人口減の中で人材を確保するには、どうしたらいいのか。仕事が人を呼び、人が仕事を呼ぶ、そういう循環を作る必要があります。人口5~10万人程度の地方自治体で、新たに移住してくる人を呼ぶためには仕事を新しくつくることが必要不可欠です。

――たしかに、仕事がなければ移住しても生活していけません。

小笠原 これまで日本は、人口が減少するという事態に直面したことがありませんでした。つまり社会の隅々まで、「人口は増えていくもの」という思考ができあがっている。この考え方は思っている以上に日本人の中で強固に内面化されています。人口が減少したときに何が起こるか――地方創生事業にかかわるならばこれをしっかり理解しなければなりません。

――「地方創生」というと「町おこしイベント」のようなものをイメージする人もいると思うのですが、「仕事の創出」となると話のレイヤーがだいぶ違いますね。

小笠原 地元のタレントさんを呼んで名産品を使ったイベントを一回行なって、自治体や財界関係者の方々が集って盛り上げ、地元メディアがそれを報じるというような取り組みは、たしかに多いです。でもそれでは仕事の創出、経済の活性化にはつながりません。社会全体が成長期にあるときは、そうしたイベントも意味があったと思います。でも、人口が減っていて、限られた予算の中で答えを出さないといけない状況では、「盛り上がったからよし」というわけにはいかないんですね。

――なぜそうした食い違いが生じるのでしょうか?

小笠原 繰り返しになってしまいますが、我々の社会が、人材が消えることのダメージをまだ理解しきっていないからだと考えています。私は北海道生まれなのですが、山を挟んで隣が夕張市でした。夕張市はかつて、石炭産業を背景に戸籍上では10万人を超える人口を誇っていました。実際には更に多くの人々が働き暮らす大きな都市だったといえます。それがエネルギー革命と事故による炭鉱の閉山でどんどん人が減っていき、現在では1万人を切っています。

 私はよく学生に「なぜ夕張では人口が増えて、減ったと思う?」と問います。もちろん答えは簡単で、お金が稼げれば人は集まってくるし、稼げなくなれば出ていく。それだけです。そして夕張で起きたことが、これから先はほかの地域でもどんどん起きていきます。

――意外と若い人でも、そのあたりの危機感は共有されていなかったりするんですね。

小笠原 私が今いる栃木県は、現時点では経済的に恵まれている土地です。首都圏の経済圏を背景に食品産業や生活関連の製造業が盛んなことと、自動車産業や航空産業に関する企業も多い。だから大学を卒業した後、地元の企業に就職することは比較的容易です。

 一方で、学生の中には東北出身者もかなりの割合でいるのですが、彼らは地元に帰って就職しようにも、仕事がない。「自分の田舎を元気にしたい」と考えて大学で地域振興について学んでも、地場の産業がなくなってしまっている。「地元で就職するには、県庁・市役所と銀行と新聞社しかない」と言っていた東北出身の学生もいました。

――移住してくる人を呼ぶどころか、進学で出ていった人を呼び戻すのが難しい状況になっている、と。

小笠原 その逆といえる状況も生まれています。東北でいうと秋田県には、地方創生の成功モデルといわれる国際教養大学があります。創設から短期間で全国から学生が集まり、ハイレベルな授業が行われる大学として知られるようになりました。

 しかしレベルが高くなりすぎると、地元の子ではなく東京の優秀な子たちが集まるようになってきます。そうした学生たちは、大学を卒業しても秋田には残らず、東京の大企業に就職するか、そのまま海外へ出ていってしまう。国際系の大学で学んだ能力を活かせる場が、今の秋田にあるかどうか。他地域から学生を集める大学の努力はもちろん重要です。ただ、地域全体で進めていかなければ、具体的な「成果」にはつなげられないのです。

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