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【澤田晃宏/外国人まかせ】誰が高齢者のオムツを替えるのか? 在留資格が乱立する介護の限界

――「奴隷労働」ともいわれる外国人労働者。だが、私たちはやりたくない仕事を外国人に押し付けているだけで、もはや日本経済にその労働力は欠かせない――。気鋭のジャーナリストが“人手不足”時代のいびつな“多文化共生”社会を描き出す。(「月刊サイゾー」2021年9月号より転載)

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柏こひつじ園で働くベトナム人介護士のトゥイさん(左)。コロナが収束したら「東京に行ってみたい」と話す。(写真/筆者、以下同)

 7月、社会福祉法人の小羊会が運営する特別養護老人ホーム柏こひつじ園(千葉県柏市)を訪ねた。同園では現在、9人の外国人介護士が働いている。ベトナム出身のチャン・ティー・ホン・トゥイさん(21歳)もそのひとりだ。

 トゥイさんは2019年4月に「技能実習生」として来日。少子高齢化が進み、国民の平均年齢が46歳の日本とは違い、ベトナムの平均年齢は31歳と若い。ベトナムでも富裕層に向けた介護施設がごく一部存在するが、基本、介護は家族がするものだ。介護士といった職業はない。

 トゥイさんは高校を卒業後、看護の専門学校に進学。学校で介護に関する勉強もし、将来的には自分の親の介護や、ベトナムでも将来的に増えるだろう介護施設で働きたいと考え、介護の実習生として日本に行くことを決めた。

「日本のマンガや景色が好きで、日本人の働き方や考え方を知りたいと思っていました。高齢者の世話をするのは好きで、介護の仕事をしたいと思いました」

 17年11月、技能実習の対象職種に「介護」が追加された。技能実習対象職種の大半は非対人型の作業だが、介護は人間を相手にするため、入国時に基本的な日本語を理解することができるレベル「N4」の取得が求められるなど、他業種にはない介護固有の要件がある。

 実習生を受け入れるためには、個々の実習生の技能実習計画を外国人技能実習機構に提出し、認定を受ける必要がある。必ず行わなければならない介護の必須業務には、身支度や移動、食事・入浴・排泄の介助などがあり、19年末時点で約8000件の技能実習計画が認定されている。受け入れ施設の種類別の統計はないが、実習生を受け入れる介護専門のある監理団体の幹部は、こう話す。

「要介護度が高く、夜勤などもあり、仕事が大変な特別養護老人ホームが中心です」

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アリス学園の介護福祉学科で学ぶ留学生たち。タイ出身のポーンさん(左)はじめ、みな日本語力が高く、取材に通訳は不要だった。

 特養は、社会福祉法人や地方自治体が運営する公的施設で、入居対象は「要介護」3~5の認定を受けた65歳以上の高齢者に限られる。日常生活を送る動作を自力で行うことが難しい状態を「要介護」といい、そのレベルは1~5に分類され、5がもっとも重い。特養の入居条件である「要介護3」とは、自力での移動が困難で、認知症の症状が見られるなど、食事や排泄など身の回りのことほぼすべてに介護が必要な状態を指している。

 ただ、公的施設である特養は、民間の有料老人ホームに比べ費用負担が軽く、入居希望者が多い。要介護3でも必ず入居できるわけではなく、厚生労働省の調査(19年)では、全国の要介護3~5の待機者数は約30万人に上る。

 もっとも、待機者の多さ以上に深刻なのが、現場を支える介護職員の不足だ。厚労省は、全国の65歳以上の高齢者がピークとなる40年度には、現状と比べ約69万人の介護職員が不足するとしている。国は介護職員の待遇改善による人材確保に取り組むが、介護職全体の平均月給(19年度、賞与含む)は現状で28.8万円と、全産業平均(役職者除く)37.3万円に比べ、8.5万円安い。その上、3K職のイメージが強く、有効求人倍率が全体で1.1倍なのに対し、介護関係職種は3.86倍に上る(20年度)。

 人材確保への危機感は、国の施策にも表れている。政府は19年4月、途上国への知識と技能移転による国際貢献を目的とした「技能実習制度」への批判もあり、単純労働分野で働く外国人を正面から受け入れる在留資格「特定技能」を新設した。5年で約35万人の外国人労働者の受け入れを目指し、その対象となる14業種のうち、介護は6万人と最大規模だ。

 特定技能で働くためには、介護技能評価試験(技術試験)と日本語の試験(N4相当)に加え、介護分野に特化した日本語試験に合格する必要がある。先に実習生として入国して3年間働いた外国人は、試験なしに特定技能に移行できる。

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アリス学園介護福祉学科の授業を見学した。学生たちはみな、介護実習前で、施設でのレクリエーションの時間に披露する「腹おどり」の練習をしていた。

 介護労働安定センターの調査(19年)によれば、外国籍労働者を受け入れている事業所数は全体の6.6%にすぎないが、約450人の介護の実習生を受け入れる医療介護ネットワーク協同組合(東京都港区)の増村章仁理事長は「今後は確実に増加する」と話す。

「利用者に提供した介護サービスの対価として市町村から支払われる介護報酬が事業者の収入になりますが、介護報酬を得るためには3人の入居者に対し職員がひとり以上といった人員配置基準があります。これまで、人手不足を派遣社員で補う事業者が多かったですが、コストの高さや定着率の悪さから、外国人労働者に切り替える事業者が増えています」

 特定技能外国人は国際貢献を目的とした実習生と違い、労働者だ。そのため、日本人同様に1年目から職員としてカウントされたり、夜勤をできたりするなどのメリットがあるが、増村理事長は「まずは実習生として入国させ、3年後に特定技能に在留資格変更する流れが定着するのではないか」と話す。

 冒頭の柏こひつじ園で働く9人の外国人介護士のうち、5人は特定技能だ。コロナ禍で外国人の出入国に大幅な制限がかかる中、国は帰国困難などを理由に日本に滞在する元技能実習生や留学生の在留資格を緩和し、特定技能への移行を目指す在留資格を出している。柏こひつじ園で働く5人はみな、そうして在留資格を変更した上で介護の特定技能試験に合格した外国人だ。小羊会の馬場眞子常務理事はこう話す。

「工場などとは違い、ある程度、日本の生活や文化に慣れた外国人でなければ人を相手にする介護の仕事は難しい」

 母国で特定技能の試験に合格した外国人を、そのまま施設で受け入れることは考えていないという。

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