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【澤田晃宏/外国人まかせ】誰が高齢者のオムツを替えるのか? 在留資格が乱立する介護の限界

介護福祉系専門学校の外国人留学生が急増話

 先述の通り、介護は入居者とのコミュニケーション能力が求められることから、技能実習でも「入国時にN4」という条件が求められてはいるが、日本語力が低く、日本での生活経験がない外国人を即戦力として期待するのは難しいだろう。

 その点、期待されるのが留学生からの受け入れだ。国は17年に在留資格「介護」を創設している。専門学校などの養成施設を卒業し、介護福祉士の国家試験に合格した者を対象に交付されている。

 技能実習も特定技能も最長5年(技能実習から特定技能に移行すれば最長10年)だが、介護は在留期間更新回数の制限がなく、家族(配偶者・子)の帯同も認められている。長く日本で働きたいと考える外国人には大きな魅力だ。施設側も無資格ではない介護福祉士の職員数は介護報酬の加算条件となっており、即戦力人材としての期待も大きい。

 こうした在留資格が生まれる背景には、日本人の介護福祉士養成施設への入学希望者数の減少がある。専門学校などの介護福祉士養成施設の定員充足率は5割を下回る状態が続き、日本人の入学者数は直近5年で7495人(16年度)から4647人(20年度)まで減少。一方、同期間で外国人留学生は257人から2395人まで急増し、20年度は介護福祉士養成施設の定員充足率が5割を超えた。

 ただ、何も純粋に介護士を目指す外国人が増えているわけではない。「お礼奉公」とも呼ばれる奨学金の貸付が、養成施設への留学生を増やしている。

 国は、介護福祉士養成施設等の在学期間中に月額5万円以内の学費(入学時・卒業時に準備金20万円以内を別途貸付可)を貸し付け、貸付を受けた都道府県で5年間、継続して福祉・介護の仕事に従事した学生の奨学金を免除する制度を設けている。外国人留学生の増加を受け、18年度からは養成施設の学費だけではなく、日本語学校の学費や月額3万円の居住費なども支援している。

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アリス学園の介護福祉学科には多国籍の生徒が在籍している。授業を受けるまなざしは真剣そのもの。私語をする生徒などはいない。

 石川県金沢市に、介護業界から注目を浴びる専門学校がある。21年に実施された介護福祉士国家試験で、留学生として全国最大の24人の合格者を出したアリス学園だ。留学生受験者の合格率が全体で36.7%となる中、同校介護福祉学科の留学生の合格率は82.8%(受験者29人)。現在、試験に不合格となった留学生でも5年継続して介護施設で働けば、介護福祉士として認められる特例措置がとられているが、新卒でこの合格率は驚異的といっていいだろう。

 試験の合否は、筆記試験と実技試験の結果で判断され、筆記試験はマークシート方式で125問(それぞれ1点)の出題があり、合格基準は75点前後だ。試験はすべて日本語で、出題は介護業務や体の仕組みなどにとどまらない。

 例えば今年1月に出題された問題を見ると、「次のうち、福祉三法に続いて制定され、福祉六法に含まれるようになった法律として、正しいものを1つ選びなさい」など、法律や日本社会の現状を問う出題もある。単純に日本語を理解さえできれば解ける問題ではない。

 驚異の合格率の背景に、どのような教育体制があるのか。同校は同県加賀市に日本語学科を持つ。介護福祉学科では1年から介護福祉士試験の対策に取り組むため、教科書が読めるN3レベルまでを加賀校日本語学科で集中的に勉強する。日本語学科卒業前の12月には専門学校の奨学金を負担する介護施設とマッチングイベントを行い、介護福祉学科に入学するまでに就職先を選ぶ。就職先が決まった状態で進学するため、授業料の支払いに追われ、アルバイトで疲弊することはなく、介護福祉学科では週2~3回の補講も実施されている。

 同校の特異性は、社会福祉法人をグループ内に持つことだ。アルバイトをするにしても、グループが運営する介護施設などで働きながら、介護現場の日本語を実践で覚える。グループ内の社会福祉法人に就職した先輩が、介護福祉学科の学生の授業のサポートに回ることもある。同校の竹澤敦子理事長は、高い合格率の背景について、こう話した。

「海外での生徒募集の段階で、看護や薬剤師など、医療関係の学校を卒業した学生などを対象とし、東南アジアではなじみのない介護士という職業を理解させています。目的を明確にし、集中して学ぶ環境を整えた結果だと考えています」

 同校介護福祉学科には現在、70人が在籍する。国籍別に見ると、インドネシアが35人、タイが2人、ネパールが6人、ベトナムが14人、モンゴルが1人、残る12人は日本人だ。文化や日本人独特のコミュニケーションを学ぶため、日本人学生と一緒に学ぶ環境を作っている。

 タイ出身の同校介護福祉学科のペットルード・パッタラー・ポーンさん(24歳)は、週末は特養でアルバイトをしながら介護福祉士試験の合格を目指す。

「最初は技能実習生として日本に来ることを考えましたが、介護福祉士の試験に合格して介護の在留資格を取れば、日本で長く働けます。介護は入居者さんから『ありがとう』という言葉をかけてもらえる、とてもやりがいのある仕事です」

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