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今年はミュージカル映画年!『ディア・エヴァン・ハンセン』『リスペクト』アカデミー賞候補ズラリ

■今後公開・配信されるミュージカル映画とその傾向を読み解く
『ウエスト・サイド・ストーリー』『マチルダ・ザ・ミュージカル』『カラーパープル』

 2021年の12月には、無視できないビッグタイトルが控えている。スティーヴン・スピルバーグが手掛ける『ウエスト・サイド物語』(1961)のリメイク作品、『ウエスト・サイド・ストーリー』(2021)だ。

『ウエスト・サイド物語』といえば、「トゥナイト」や「アメリカ」など日本でも有名な楽曲を残した名作中の名作であり、計算しつくされたフォーメションダンスや、スタイリッシュな演出は数多くの映画やドラマに影響を与えてきた。

 しかし、それだけではない。『ウエスト・サイド物語』という作品は、1961年に公開された映画として、ヘイズ・コード(かつてアメリカ合衆国の映画界で導入されていた自主規制条項)適応中のハリウッドにおいて、かなり攻めた内容の作品としても知られているのだ。

 移民問題や人種問題を描く一方で、当時はタブーとされていたLGBTQを感じさせるキャラクターまでもが登場するなど、現代に通じるものが描かれていた。そうは言っても、表現が規制されていた中、直接的には描くことができないもどかしさを感じるシーンも多く、早すぎたテーマであったと感じずにはいられない。

 時代ゆえに描けなかったことを、現代にリメイクすることでより具体的に描いてみせようとしたのが、今回のリメイク作品であり、より原作に近い構造になっているともいわれている。

『ウエスト・サイド・ストーリー』は、10部門を受賞した作品のリメイクともあって、第94回アカデミー賞においてもノミネートされることは自然な流れではある。日本での公開が2022年の2月に延期になったのも、アカデミー賞需要を狙ったものと推測できる。

 一方、動画配信業界においても、ミュージカルは欠かせないコンテンツのひとつとなっている。

 日本ではあまり実感がないかもしれないが、アメリカではNetflixとディズニーはもともとパートナー関係にあった。Netflixはティーン向けコンテンツのラインナップの薄さを弱点と認識していたこともあって、ディズニーをパートナーとすることでそれを補っていた。しかし、ディズニーが独自の動画配信サービスを開始することを発表して以降、Netflixが圧倒的な資金力でディズニーのクリエイターを引き抜くなど、“大人のケンカ”が常に勃発している状況なのだ。

 ディズニーチャンネルを支え、『ハイスクール・ミュージカル』(2006)、『ディセンダント』(2015)といったヒット作品を数多く手掛けてきた立役者であるケニー・オルテガを独占契約というかたちで買収したことで、Netflixでも『ジュリー&ザ・ファントムズ』(2021)という“ディズニー臭”が漂うミュージカルドラマが制作されている。

 他にも『サマーキャンプ』(2021)、『ジングル・ジャングル ~魔法のクリスマスギフト~』(2020)などディズニーを意識した作品を多く生産できる土壌を築き上げているのだ。

 最近では、ダイアナ妃の伝記的ミュージカル『ダイアナ:ザ・ミュージカル』(2021)が、ブロードウェイ公演に先駆けてNetflixで先行公開することにも挑戦している。イギリスの人気舞台の映画化『マチルダ・ザ・ミュージカル』や、『不思議の国のアリス』のミュージカルなどの製作にも着手している。 

 一方、ディズニーキラーを目指しているのは、なにもNetflixだけではない。Amazonもカミロ・カベロ主演作『シンデレラ』(2021)や『Everybody’s Talking About ジェイミー!』(2021)といった、新型コロナによって劇場公開が流れてしまった作品の配信権を得るなど、積極的にミュージカルコンテンツの取得に動いている。

 ケイシー・レモンズが手掛けるホイットニー・ヒューストンの伝記映画『I Wanna Dance With Somebody』や、『ムーラン・ルージュ』のバズ・ラーマンが手掛けるエルヴィス・プレスリーの伝記映画、他にもマドンナ、ジャネット・ジャクソンなどなど……まだまだ多くの伝記映画が、すでに量産体制に入っている。

 もうひとつの大きな流れとしては、逆輸入ミュージカル映画がトレンドとなるかもしれない。逆輸入ミュージカル映画とは、映画を原作としたミュージカルを映画化する流れのことだ。

 具体例をあげるとすれば、前掲の『ヘアスプレー』(2007)は、もともとは『ピンク・フラミンゴ』(1972)などで知られる“変態監督”ジョン・ウォーターズのカルト映画『ヘアスプレー』(1988)をミュージカル化したものを、さらに映画化したもの。   

 ジョディ・フォスターが子役時代に出演した『フリーキー・フライデー』(1979)をリメイクした『フォーチュン・クッキー』(2003)をミュージカル舞台化したものを、さらにディズニーチャンネルがテレビ映画化した『フリーキー・フライデー』(2018)などもある。

 こういった映画からミュージカルになって、それがミュージカル映画として戻ってくる作品として、新たに『ミーン・ガールズ』『カラーパープル』なども製作される予定。

 毎年、演出も話題となるのがアカデミー賞授賞式。視聴率の低迷が問題視されている中、この危機から脱するには、エンターテイメント性の拡張が必要だ。来年こそ、ミュージカル演出にするタイミングではないだろうか……。

バフィー吉川(映画ライター・インド映画研究家)

毎週10本以上の新作映画を鑑賞する映画評論家・映画ライター。映画サイト「Buffys Movie & Money!」を運営するほか、ウェブメディアで映画コラム執筆中。NHK『ABUソングフェスティバル』選曲・VTR監修。著書に『発掘!未公開映画研究所』(つむぎ書房/2021年)。

Twitter:@MovieBuffys

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ばふぃーよしかわ

最終更新:2021/12/07 11:00
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