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俳優・高橋一生が演じる「なじめない人間」の抗いがたい引力

高橋一生が提示する、不格好な、それでいて真実味にあふれた“人間”

俳優・高橋一生が演じる「なじめない人間」の抗いがたい引力の画像2
© 2017「blank13」製作委員会

 高橋のそうしたセンスは、なじめない対象が「国」や「時代」に最大化された『スパイの妻〈劇場版〉』でもいかんなく発揮されている。こちらは、裕福でカリスマ性のある貿易会社の社長が、仕事で訪れた満州で日本の国家機密を知り、「スパイ」と罵られ国家に反逆しても正義をなそうとする――という物語だ。黒沢清が監督と共同脚本を務め、脚本を『ドライブ・マイ・カー』(21)の濱口竜介、そして野原位が務める。

 高橋が扮したのは、思想統制が横行していた時代において「コスモポリタン(世界主義者)」を自称する人物。表面上は御上に従うように振る舞いつつ、瞳の奥には異論が渦巻いており、頬のわずかな動きや固く結ばれた口元に怒りがにじむ――。劇中で彼が魅せる演技は、周囲に気取られないように本音を“隠す”といったもの。しかし、観客には明瞭に伝わる匙加減で表現せねばならない難役だが、“設定負け”するどころか完璧以上に補完している。

 妻(蒼井優)に対しても、本音で語る部分と翻弄する部分の両方が織り交ぜられており、ヒロイックな存在にして得体の知れなさも併せ持つキャラクターの説得力は、高橋ならでは。本作は第77回ヴェネツィア国際映画祭において、最優秀監督賞である銀獅子賞を黒沢にもたらしているが、高橋や蒼井の“言語の壁を超える”名演が大きく寄与していることは、言うまでもない。長回しで切り取られた夫婦の舌戦シーンは、必見だ。

 高橋が体現する、13年ぶりに再会した父親への確執と愛憎が物語の軸となっていたのが、斎藤工が齊藤工名義で監督を務めた『blank13』(18)。ある日突然父親(リリー・フランキー)が出ていったことで、借金の返済などに追われ辛酸をなめた家族が、失踪から13年後に父が入院中で、余命いくばくもない状況と知る。

 縁を切りたいが、心はそうはいかない。他人のように接したところで、親だからこそ許せず、怒りの矛先をどこに向けたらいいか迷子になってしまった複雑な心境が、次男を演じた高橋の佇まいから匂ってくる。『blank13』は、父親の葬儀の際に参列者が語る思い出によって、父に対するイメージが変わっていく姿をハートフルに描いているが、高橋に任された、その場の空気になじめない疎外感、さらには父への意識が再構築されていく混乱が、おかしみや切なさ、人情味へとつながっている。

 大友啓史監督、佐藤健と組んだ『億男』(18)では、大金を手にしたことで他者とうまくつながれなくなる億万長者を好演。序盤は親友(佐藤健)の金を持ち逃げする謎の存在だが、その理由が明かされるにつれ寂しさの目盛りが上がっていく。大友監督・佐藤との最新タッグ作『るろうに剣心 最終章 The Beginning』(21)では、世を変えたいと願う若者・剣心(佐藤)を人斬りの道へと連れていく男・桂小五郎に扮した。全ての“元凶”でありながら単なる悪役ではなく、一人の人生を変えてしまう業を背負う覚悟と苦しみを感じさせるポジションを担い、『3月のライオン』(17)でも組んだ大友監督の信頼にしっかりと応えた。

 コミック・リリーフ的な立ち位置であった『シン・ゴジラ』(16)においても、浮いた存在をきっちりと演じ、群像劇において確かな存在感を示した高橋。超然とした雰囲気を醸し出しつつも、周囲となじめない悲哀が付随する、いとおしい矛盾――。高橋一生が提示する、不格好な、それでいて真実味にあふれた“人間”には、抗いがたい引力が宿っている。

 

▼ 記事で紹介された映画はこちらでご覧になれます

『ロマンスドール』(2020年)
出演:高橋一生、蒼井 優、浜野謙太、三浦透子、大倉孝二、ピエール瀧、渡辺えり、きたろう
Amazon Prime VideoNetflixU-NEXTHuluほか配信中

『スパイの妻〈劇場版〉』(2020年)
出演:蒼井優、高橋一生、坂東龍汰、恒松祐里、みのすけ、玄理、東出昌大、笹野高史
レンタル:Amazon Prime Videoで440円~Huluで550円U NEXTで399円dTVで440円~

『blank13』(2018年)
出演:高橋一生、松岡茉優、斎藤工、神野三鈴、リリー・フランキー、佐藤二朗
Gyao!で無料配信中(1月5日23:59 まで)
Amazon Prime Videoで配信中
レンタル:dTVで330円~

『億男』(2018年)
出演:佐藤 健、高橋一生、黒木 華、池田エライザ、沢尻エリカ、北村一輝、藤原竜也
Amazon Prime VideoNetflixU-NEXTHuluほか配信中

『るろうに剣心 最終章 The Beginning』(2021年)
出演:佐藤健、有村架純、高橋一生、村上虹郎、安藤政信、北村一輝、江口洋介
レンタル:Amazon Prime Videoで399円U NEXTで399円

『3月のライオン(前編)』(2017年)
出演:神木隆之介、有村架純、倉科カナ、染谷将太、清原果耶、佐々木蔵之介、加瀬亮、前田吟、高橋一生、岩松了、斉木しげる、中村倫也、尾上寛之、奥野瑛太、甲本雅裕、新津ちせ、板谷由夏、伊藤英明、豊川悦司
NetflixU-NEXTHuluほか配信中
レンタル:Amazon Prime Videoで300円~

『3月のライオン(後編)』(2017年)
出演:神木隆之介、有村架純、倉科カナ、染谷将太、清原果耶、佐々木蔵之介、加瀬亮、伊勢谷友介、前田吟、高橋一生、岩松了、斉木しげる、中村倫也、尾上寛之、奥野瑛太、甲本雅裕、新津ちせ、板谷由夏、伊藤英明、豊川悦司
NetflixU-NEXTHuluほか配信中
レンタル:Amazon Prime Videoで300円~

『シン・ゴジラ』(2016年)
出演:長谷川博己、竹野内豊、石原さとみ
Amazon Prime VideoNetflixHuluほか配信中

※実際の配信状況は記事公開時とは異なっている可能性があります

SYO(映画ライター)

1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て独立。映画・ドラマ・アニメを中心に、漫画・音楽・小説などカルチャー系の執筆を各媒体・作品のオフィシャルライターとして行うほか、トーク番組の出演なども行う。

Twitter:@syocinema

しょう

最終更新:2021/12/27 08:00
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