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稲田豊史の「さよならシネマ 〜この映画のココだけ言いたい」

佐藤二朗主演『さがす』―「ながら観」と「倍速視聴」ができない映画

観客を作品没入させるリアリティ

佐藤二朗主演『さがす』―「ながら観」と「倍速視聴」ができない映画の画像2
©2022『さがす』製作委員会

『さがす』の制作予算は、(おそらく)商業映画としてはそれほど潤沢なものではない。しかし制作チームは金をかけられない分、時間をかけた。何が映っていれば圧倒的な「本当らしさ」をにじませることができるか、フィクションの嘘臭さを極力排除することができるか。考えに考えを尽くし、工夫に工夫を重ね、画面内に映り込むものすべてに、漏れなく「意図」を込めた。これは、本作以上に輪をかけて制作費に乏しかったであろう自主映画『岬の兄妹』でも同様である。

「小道具なんか、いちいち見てないよ」という方もいるかもしれない。役者の演技や面白いストーリーさえあれば美術なんて関係ない、映画においてはあくまで脇役でしょ、と言うかもしれない。しかし、その認識は大きく間違っている。なぜなら、このような画面の作り込みは、観客に圧倒的な没入感をもたらすからだ。

 智と楓の住む家の台所、このワンショットに込められた濃密で生々しい生活感は、観客の注意を引き、意識をごっそり持っていく。決して「流して観る」ことができない。画面内のあらゆる場所に目が留まってしまうからだ。言わば、「見ても、見ても、見きれない」。だから集中する。没入する。

 これがモデルハウスの部屋のように「いかにもその辺のチラシや中吊り広告で見たことのある画」だったら、どうだろうか。観客はそれ以上、画面に興味をもたない。新規情報でない以上、画面を凝視する必要がないからだ。このプロセスは一瞬で行われる。そのシーンを一瞥して「どこかで見たことのある画」「つまらない画」だったが最後、脳が「それ以上注視しなくてもいい」と瞬時に判断するからだ。結果、見飛ばす。集中しない。作品世界に没入しない。できない。

 昨今、スマホを見ながら映画やドラマを観る「ながら観」が増えていることは、こういった背景と無関係ではないだろう。要は、その程度のテンプレな画面ならば「ながら観」でも十分把握できる、と視聴者に舐められているのだ。あるいは、NetflixやTVerなどに実装されている倍速再生機能を使って1.5倍速や2倍速などで観られることになる。画面が作り込まれていないから「画面の端々まで舐め尽くすように見る(視る)」必要がないという判断が下るからだ。

 その意味で、本作は「ながら見」や倍速視聴に一切向いていない。というか、最初から明確に、そういう舐め腐った視聴を拒絶する意志に満ちている。

 画面中を凝視するような映画の観方に、異議や違和感を唱える人もいるかもしれない。だが、それもひとつの、否、きわめて大切な映画の味わい方だ。たとえば本作では、「クーラーボックスの中身が判明する」描写が本編中に都合2度登場するが、そこに何が入っているのかを、特に2度目は注視するとよい。そういう細部に、丁寧に設(しつら)えられた小道具に、意外なほど重要な作品の魂が宿っているのだ。

映画『さがす』
2022年1月21日 テアトル新宿ほか全国公開
監督・脚本:片山慎三
共同脚本:小寺和久 高田亮
音楽:髙位妃楊子
出演:佐藤二朗
伊東蒼 清水尋也
森田望智 石井正太朗 松岡依都美 成嶋瞳子 品川徹
製作:アスミック・エース、DOKUSO 映画館、NK Contents
製作協力:埼玉県/SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ
制作協賛:CRG制作プロダクション:レスパスビジョン
制作協力:レスパスフィルム
製作幹事・制作・配給:アスミック・エース
©2022『さがす』製作委員会
英題:Missing
公式 HP: https://sagasu-movie.asmik-ace.co.jp/
公式 twitter: @sagasu_movie

稲田豊史(編集者・ライター)

編集者/ライター。キネマ旬報社を経てフリー。『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』(光文社新書)が大ヒット。他の著書に『ポテトチップスと日本人 人生に寄り添う国民食の誕生』(朝日新書)、『オトメゴコロスタディーズ フィクションから学ぶ現代女子事情』(サイゾー)、『「こち亀」社会論 超一級の文化史料を読み解く』(イースト・プレス)、『ぼくたちの離婚』(角川新書)などがある。

いなだとよし

最終更新:2022/03/10 10:56
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