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『関ジャム』清塚信也が語る、音楽の「わかんないんだよ!」 それでも「人類は同じ音でつながっている」

クリアな音ではなく雑音が好まれる“美”の変遷

 江崎は“音楽を聴く環境の変化”が曲の作り方に影響したと説いた。かつて、人々は教会で音楽を聴いたものだ。その後はコンサートホールで音楽を聴き、スピーカーやイヤホンで聴く現在へと至る。時代時代の聴かれ方によって、曲の作り方も変化してきたという考え方である。

「マイクが発明されてからは、ささやき声(ウィスパーボイス)でも音楽として成立するようになった。イヤホンで音楽を聴く時代になったら、ささやき声どころか口の中のちょっとした咀嚼音でも『心地よい』と思えるようになりました」(江崎)

 まるで、動画サイトで人気のASMRである。咀嚼音や息遣いで気持ちを高める今の聴き方は、逆に原始的という印象も受けた。マイクの進化によって成立する音楽、ウィスパーボイスを売りにしたミュージシャンも出現している。筆者が真っ先思い浮かべたのは、カヒミ・カリィだった。そして、江崎が“鼓膜に近い距離で聴くことを意識した曲”として挙げたのは、ビリー・アイリッシュ「bad guy」だ。イヤホンの進化で生まれた名曲である。

「ASMR的な咀嚼音、唇の音、唾液の音などを多分に含んだ作り。ノイズキャンセリングイヤホン、カナル型イヤホン普及以降の文化だと思います」(江崎)

 さて、次の変化はどの方向に向かうのだろうか。骨伝導イヤホンに合わせた音楽か?

 あと、音楽の聴き方によって楽器の流行も変わった。ピアノでいえば、今はグランドピアノよりアップライトピアノ(家庭用に普及した奥行きの短いピアノ)が人気らしい。グランドピアノを弾けば綺麗な“抜ける音”が出る。一方のアップライトは、内部のハンマーが重力に逆らって動き音を出す仕組みだ。

「この(ハンマーが)動いてる部分が、今は(マイクの発達によって)録音しやすいんです。ここの音をあえてレコーディングするとASMR的な効果が得られます」(江崎)

 つまり、機械的に“カタカタ”鳴っている雑音まで楽しむということ。ノイズを活かす録音は、アコースティックギターの弦のこすれ音を利用するのと同じ考え方である。

「今ってLo-Fiブームなんですよね。レコードからCDやMP3になり、我々は科学の進化でクリアな音を掴んできた。それがいい音とされてきました。一方、レコードは針がごみを踏むと“パチッ”っと音がしますよね。あれをなくしてクリアにする時代から、今はあえてあの(レコードノイズ)エフェクトを入れるんです。8Kと言っているこの御時世、クリアだけが美じゃないことに人は気付いた。だから、『何が美しいのか?』は不思議なんです」(清塚)

 テレビの映りは、日に日にクリアになる一方。でも、そこまで求めていないのが筆者の正直なところだ。音楽も同じである。これ以上の音質を求めても、はっきり言って無駄だと思う。だから、“美”の概念はどこへ向かうかわからないという不思議につながる。

「人類は同じ人種」と証明する世界中のペンタトニック

 最後に清塚が取り上げたのは、「ペンタトニックの不思議」であった。

 ペンタトニックとは、「ドレミファソラシ」7音から2音を抜いた5音階のことを指す。「ドレミファソラシ」の左から4つ目(ファ)と7つ目(シ)を使わない「47抜き音階」もその一種だ。

「5つで区切った原始的な音階は、地球上に溢れています」(清塚)

 中でも特に多いのは、47抜きだ。日本でいえば、演歌が47抜きである。使い方を変えると47抜きは中国風の曲調になるし、スコットランドのケルト音楽「蛍の光」も47抜きである。アイルランドの民謡「ダニーボーイ(ロンドンデリーの歌)」も47抜き音階でできた曲。ジョージ・ガーシュウィン「Someone to Watch Over Me」のようなブルースも47抜きだ。

「めちゃめちゃ不思議じゃないですか!? 47を抜くことで、哀愁めいた音楽を弾くことができるんです」(清塚)

 そういえば、坂本九「上を向いて歩こう」も47抜きだった。そう考えると、あの曲がビルボードで1位を獲得したのも合点が行く。あと、抜く箇所を変えて26抜きにすると琉球調の音楽にもなる。とにかく、ペンタトニックは世界中で使われているのだ。

「今日言いたいのは、地球上にいる人間は同じ人種ということです。同じ音程、同じスケールでみんながこんなに感動できるんだから! 証明してるんですよ、音楽が」(清塚)

 エンディングで清塚と江崎はセッションを行った。演奏曲は、ビル・エヴァンスの「Peace Piece」である。これは清塚による選曲だろうか? なんて、粋なことをするのだろう。政治的なことは一切口にしなかった清塚。でも、彼が言いたかったことは間違いなく視聴者に伝わった。世界の状況を憂い、音楽で平和を訴える。セッションを終えた清塚は、この日を以下のコメントで締めている。

「これを聴き取れる皆さんの力が奇跡です」(清塚)

 今回は、本当に面白かった。毎週こんな企画はできないだろうけど、たまにはこういうのを見たい。黛敏郎が司会だった頃の『題名のない音楽会』(テレビ朝日系)を少し思い出した。

寺西ジャジューカ(芸能・テレビウォッチャー)

1978年生まれ。得意分野は、芸能、音楽、格闘技、(昔の)プロレス系。『証言UWF』(宝島社)に執筆。

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てらにしじゃじゅーか

最終更新:2022/04/24 20:00
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