「天才」と「凡人」を描く『鎌倉殿』で異例の描かれ方をした“貴公子”平宗盛

文=堀江宏樹(ほりえ・ひろき)

──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ

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源義経(菅田将暉)と梶原景時(中村獅童)|ドラマ公式サイトより

 『鎌倉殿』の前回=第18回は、「壇ノ浦の戦い」での義経の“神がかった”活躍と同時に、彼を追い落とそうとする梶原景時の姿も描かれるなど、人間ドラマの点でもスリリングな展開を見せました。以前にも記したように、義経と景時の関係は映画『アマデウス』の「天才」モーツァルトと「凡人」サリエリを彷彿とさせると筆者は感じましたし、そうした声はネット上にも多く見られましたが、『鎌倉殿』では『アマデウス』的な内容からさらに一歩踏み込んで、「凡人」による「天才」への反撃が描かれていく気がします。

 第18回では、「壇ノ浦」の前にあった「屋島の戦い」にて、嵐の海を渡って平家を急襲するという義経の非常識な案が三浦義澄や畠山重忠らに猛反対される場面がありました。景時もその場では反対していたものの、後で義経のもとに行き、「よくよく考えれば九郎(義経)殿の申されるとおり」「目が覚めました」と賛同していました。義経が「私のことを一番わかってくれてるのはお前だ、平三(=梶原景時)」と感謝さえしていたとおり、景時は、義経にとってほとんど唯一の理解者であったと同時に、すでに「天才」義経の扱い方を心得てしまっており、自分のコントロール下に置くことに成功している場面でもあったような気がします。

 そんな景時が義経より一足先に鎌倉に入り、義経の戦場での独断専横ぶりを事細かく頼朝に訴え、「讒言(ざんげん)」しているシーンも登場しました。『平家物語』などにも出てくる一場面ですが、ドラマの描写では、頼朝からの寵愛を義経から奪い去るために義経を讒言したという単純なものではなく、義経がいくら「天才」であっても、その才で周囲を振り回す彼には、戦時ならともかく、平和時の幕府の中枢部に居場所がないと梶原が見抜いていると思わせる描かれ方で、より興味深かったです。梶原の「(頼朝と義経)おふたりが並び立つはずがない」というセリフに、それは如実にあらわれていたと感じました。

 世間には「凡人」のほうが圧倒的に多く、頼朝の才覚は、それがいくら優れたものであったところで、「凡人」にもまだ理解しうるタイプの「天才」なのです。それゆえ景時は、頼朝こそ自分が本当に付くべき相手と考え、平家追討の任務を終えた義経を“用済み”として排除する側に回ったのですね。

 女にだらしないところは兄弟共通とはいえ、“神がかった”義経に比べ、“人間的”な頼朝の側面は、『鎌倉殿』で常々描かれてきました。三種の神器や安徳天皇を海没させた義経の責任を追及する「鎌倉殿」としての“昼の顔”と、長年の宿願であった平家の滅亡を「九郎がやってくれた。九郎が……」と政子の寝所で涙を流しながら喜んだ私人としての“夜の顔”の2つが相次いで描かれ、頼朝という人物の複雑な内面にも触れられていました。三谷幸喜さんの筆の冴えが際立った回だったと思います。

 筆の冴えというと、平宗盛というキャラの造形も非凡でしたね。「壇ノ浦」で生き残ってしまい、都から鎌倉に「検非違使」である義経の手で連れていかれることになった宗盛(小泉孝太郎さん)。しかし、後白河法皇の企みで検非違使を辞めることができない義経に対し、ますます疑念を深めた頼朝は、「九郎殿を鎌倉に入れてはなりませぬ。何をたくらんでおるかわかりませぬぞ」という景時の言葉を聞き入れ、宗盛とその息子である清宗のみ鎌倉に連れて来させ、義経は少し手前の腰越に留まらせたのです。

 『平家物語』では、頼朝は金洗沢(かねあらいざわ)という所に関を急遽作らせ、宗盛らは通過させたものの、義経は関を通れず、腰越まで追い返される羽目になります。この時初めて義経は兄・頼朝に嫌われていると気づくのですが、ドラマでは腰越にたどり着いた時点で義経が鎌倉に入れないことは判明していました。頼朝の誤解を解くために、義経は自らの気持ちを兄に伝えようとするのですが、直接会うことは叶わない、かと言って手紙で思いを伝えられるほどの文才はないという彼に、なんと宗盛が代筆を申し出るというシーンがありました。

 実際、義経が頼朝に本心を訴えた通称「腰越状」という文書の存在は知られているものの、ドラマでは頼朝らが指摘していたように、文中に不自然な語句の使い方が散見されるため、“偽書”だと見る研究者が多いのですが、それは宗盛の代筆だったがゆえ、というドラマの解釈は斬新でした。

 ドラマでは、宗盛の代筆した義経の手紙を見て、頼朝は「小細工」と受け止めてしまい、いっそう気分を害してしまいました。宗盛が兄弟の仲違いを助長するような書き方をわざとしたのだ……という見方もネットにはあるようですが、『鎌倉殿』の宗盛は、優柔不断さはあるものの、あくまで常識的な貴公子であり、そのような報復を行うキャラではないと筆者には思われました。

 しかし、ドラマで見るような好意的な宗盛の描かれ方は、実はきわめて稀です。『平家物語』『吾妻鏡』はもちろん、後世の創作物の中でも、宗盛という人物が『鎌倉殿』のように好意的に描かれることはほとんどないのです。先日、地上波での放送が終わったアニメ『平家物語』(フジテレビ系)でも、宗盛は小柄で太っちょの外見、決断力にも欠ける人物として描かれているだけでした。

 『平家物語』の中の宗盛は、「壇ノ浦」でも入水しようとせず、部下に海に放り込まれた後も、水泳が達者だったがゆえに溺死もかなわず、引き上げられた“死にぞこないの愚将”だと、かなり厳しい評価を受けています。しかし、史実の宗盛を史料で見る限り、優秀な野心家だった父・平清盛や、父からその才能を一部受け継ぎながら常識もある異母兄の重盛らと比べられると存在が霞んでしまうものの、それなりに知的で、人間性豊かな人物だったと言えるとも思うのです。

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