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『鎌倉殿』大姫の衣装は季節外れ? 丹後局が指摘した以上に厳しい朝廷の“お約束”

大姫と政子の「装束」は年齢に合ってない?

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南沙良演じる大姫と、小池栄子演じる北条政子(ドラマ公式サイトより)

 朝廷における装束の色味は、ドラマの丹後局のセリフにもあったとおり、重要視されました。ただ、ドラマの丹後局は「かような色合いのもの、都で着ている者など一人もおらぬ」と指摘していましたが、実際にはそういう流行の要素以上に、季節や、その人の身分・年齢といったステイタスによって着るべき装束の色味が変わることは案外、知られていないのかもしれません。

 頼朝一家が都に滞在していた陰暦2月~3月はすでに春も半ばです。この手の装束の色味にはTPOがあって、たとえば『満佐須計装束抄(まさすけ・しょうぞくしょう)』という平安時代末期に成立した有職故実(ゆうそくこじつ、朝廷などに伝わる儀式、衣服などを研究する学問)の書物の色味見本と見比べてみると、ドラマの大姫の若々しいピンクの装束は、現代の感覚ならば彼女にぴったりですが、当時の感覚では、もう少し肌寒い季節にふさわしい色味だったかもしれません。着物を愛する方なら、季節感がとても大事にされる世界だということはご存知だと思います。それと同じか、それ以上に厳しいのが装束の着こなしの季節感で、ドラマの大姫の装いは少し時季外れな空気が出てしまっていると言えます。

 加えて、ほぼ淡い色だけを重ねた大姫のコーデは、京都の貴族社会の色彩感覚から見ると、ちょっと野暮ったい印象があったかもしれません。装束の色合いがもっと鮮やかに見えるよう、たとえば淡いピンクの下には緑色などの補色を合わせ、ビビッドに見せるのが王朝風のセンスです。また、大姫はまだ20歳前なので、もっと濃く、華やかな色を着てもよいかもしれないな、とも感じました。

 政子の濃い紫色の装束にも、王朝風の美意識からは物言いが付くかもしれません。彼女の年齢は当時、数え年で39歳くらい。当時の年齢感覚では中高年の末、老年の始まりあたりに位置しています。そうなると、装束はあのように濃い色味ではいけません。年齢を重ねれば重ねるほど濃い色は控え、白に近づけていくのがよろしいとされているので、大姫とは逆に政子はもっと淡い色味を選んだほうが良かったのではと思いました(これは政子より年長の頼朝の装束でも同じです)。

 こうした政子と大姫のコーデの“ズレ”が意図的なものだったのかどうかはわかりませんが……。まぁ、当時の色彩感覚を厳密に再現したところで、それが現代人の目に必ずしも美しく見えるというわけでもないですし、最近の歴史ドラマではこういう部分に細かい考証が入ることも少なくなってきてはいるようです。

 頼朝一家から話がズレますが、ドラマの九条兼実がまとっていた狩衣には「雲立涌(くもたてわく)」という紋様がありました。雲が湧き上がる様子を図案化した「雲立涌」の紋様がついた装束は、身分がきわめて高い人にしか着用が許されません。摂関家出身の九条がまとうにはふさわしいと言えます。もっとも、雲立涌の紋様は、ドラマのように狩衣の上衣(トップス)にも用いられますが、ドラマの生地の印象だと、トップスではなくボトムス、つまり袴(はかま)向けでは?などとも感じてしまい、やや違和感がありましたが。

 このように当時の宮廷社会では、ドラマの丹後局のように言葉に出すようなことはないものの、他の人々から内心では違和感を持たれ、酷い場合は日記の中で非難されました。そのため、公家の日記にはどの季節に、誰が、どういうものを着てきたかという記録が詳細に残っているのです。文学の世界でも、『源氏物語』などには現代人の感覚では過剰に感じるほどに衣装の詳細が書き込まれがちですが、あれも読むべき人が読めば「よくわかってるじゃない」と納得できる内容になっているのですね。

 もちろん、一介の貴族ではそこまで複雑な装束の“お約束”を覚えることは困難なので、公式の場での装いについては、装束関係の有職故実を研究する「衣紋道(えもんどう)」に長けたアドバイザーを起用するのが大切でした。このように、朝廷というところは、装いだけでも常に身分による“区別”が意識される厳しい社会であり、いくら東国の王・鎌倉殿として頼朝とその一家が関東に君臨していたところで、都では歯牙にもかけられなかったのは事実だったと思われます。

 しかし、身分の差がことさら意識される都でも、平安後期~鎌倉初期にかけての「院政期」の時代ともなれば、有力者からの寵愛という要素ひとつで立場はずいぶんと変わります。土御門家といえば有名なのは安倍晴明の直系子孫で、陰陽道の家柄の公家ですが、土御門を名乗った公家は歴史上3家あり、それぞれ血統が異なります。ドラマの土御門通親は村上源氏の血統で、史書では源通親として記述されることも多い人物との指摘をいただきました。いずれにせよ通親は本来、摂関家出身の九条兼実にとって格下といえる存在なのですが、通親は丹後局のお気に入りだったために大出世を遂げており、それゆえドラマでも兼実にあんな態度を取れるのでした。(2/3 P3はこちら

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