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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.715

“特殊効果の神”が描いた地獄めぐり…甘美なり、世界の終焉『マッドゴッド』

文=長野辰次(ながの・たつじ)

“特殊効果の神”が描いた地獄めぐり…甘美なり、世界の終焉『マッドゴッド』の画像1
地下世界をめぐるアサシン。無声映画として物語は展開される

 映画ジャンルのひとつに、「地獄めぐり」がある。その名の通り、観客に地獄の門をくぐってもらい、あの世を体験してもらおうという疑似的ダークツーリズムの世界だ。中川信夫監督の『地獄』(60)、神代辰巳監督の『地獄』(79)、石井輝男監督の『地獄』(99)は、それぞれ監督たちの強い個性と死生観が反映されている。ロビン・ウィリアムズ主演の『奇蹟の輝き』(98)、ハ・ジョンウとマ・ドンソクが共演した『神と共に』(19)などもある。

 ハリウッドで“特殊効果の神”と呼ばれるフィル・ティペットが作り上げたストップモーション・アニメ『マッドゴッド』は、アナログ表現を駆使したユニークな地獄絵巻だ。不気味でグロテスクな世界だが、観客の目線を釘付けにする84分間となっている。

 フィル・ティペットの名前を知らない人でも、『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』(80)に登場した歩行型装甲兵器AT-ATや、『スターシップ・トゥルーパーズ』(97)の巨大バグズ軍団などを手掛けた特撮職人といえば、映画業界における彼のレジェンドぶりが分かるだろう。『スター・ウォーズ/ジェダイの帰還』(83)と『ジュラシック・パーク』(93)で2度、アカデミー賞に輝いている。

 フィル・ティペットが生み出すクリーチャーたちは、どれも不気味で恐ろしいが、どこかユーモラスさがあり、人間味を感じさせる。

 レイ・ハリーハウゼンの世界に憧れ、フィル・ティペットは映画界の裏方となった。『スター・ウォーズ』シリーズの成功は、フィル・ティペット抜きでは語れない。『ジュラシック・パーク』以降はCG技術を取り入れるようになったが、オリジナル作『マッドゴッド』はアナログ表現にこだわり、中断を挟みながらも制作期間30年という歳月を費やして完成させた。映画業界をサバイバルしてきたクリエイターとしての矜持と執念を感じさせる。

 本作のストーリーを説明するのは容易ではない。というのも、フィル・ティペットが見た悪夢的世界をストップモーション・アニメとして再現したような内容だからだ。夢に理路整然とした筋書きや時間の流れがないように、本作もフィル・ティペットの脳内の深層部を観客は探索するような趣向である。

 ディストピアを思わせる、闇深き世界が舞台となっている。

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