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『エルピス』は実在の事件がモチーフ? 大門副総理の“モデル”の出身地で起こった事件とは

『エルピス』は実在の事件がモチーフ? 大門副総理の“モデル”の出身地で起こった事件とはの画像
ドラマ公式サイトより

 長澤まさみ主演のフジテレビ系月10ドラマ『エルピス—希望、あるいは災い—』が、ますます“攻めて”いる。

 『エルピス』は、架空のテレビ局「大洋テレビ」を舞台に、女性アナウンサーの浅川(長澤まさみ)と若手ディレクターの岸本(眞栄田郷敦)が、10代の女性を狙った「八頭尾山連続殺人事件」の真相をひょんなことから追いかけることになる社会派ドラマだ。報道部とバラエティ部の関係、報道加害の問題など、テレビ局の内情をリアルに描く内容も話題だが、「森友学園問題」のことを想起させるワードがセリフに登場したり、浅川が東日本大震災にまつわる報道をする様子、さらには安倍元総理の実際の映像が放送されたりと、現実の内容とリンクする部分も反響を呼んでいる。

 中でも、山路和弘が演じる大門副総理が、その服装や口調が麻生太郎氏を思わせるキャラクターだったことは注目を集めたが、『エルピス』で描かれる冤罪疑惑は、麻生氏の地元で起こった実在の事件をもモチーフとしている可能性が、第6話で仄めかされた。

浅川と斎藤、「相剋の関係」になってしまった2人の決別

 10年以上前に起こった八頭尾山連続殺人事件で容疑者として逮捕され、死刑判決が下された松本(片岡正二郎)に冤罪の可能性があると調査し始めた浅川と岸本。浅川が出演している深夜バラエティ番組『フライデーボンボン』で取材VTRを“強行突破”で放送させた浅川は、プロデューサーに叱責されるも、想定以上の反響を呼び、気をよくした局長からの後押しによってシリーズ化することになった。しかし、第2弾の放送後、松本死刑囚の再審要求が突如、棄却されるという不可解な動きが起こる。自分たちの報道のせいではないかと思い悩み、さらに復縁しつつあった斎藤も放送を止めようとしていたことを知った浅川は、打ちのめされ、取材続行を諦めてしまう。一方、諦めきれない岸本は粘り強く取材を続け、松本死刑囚の逮捕の決め手となった目撃証言が、偽証の可能性が高いという新証言を得た。岸本は浅川に倣って『フライデーボンボン』で強引に放送しようとするが、これはチーフプロデューサーの村井(岡部たかし)に見破られてしまう。しかしVTRをチェックした村井と浅川は、その内容に衝撃を受ける。岸本が掴んだ新証言は、まさに死刑判決すら覆しかねない「一発逆転のすごいネタ」だったのだ。

 11月28日に放送された第6話は、チーフプロデューサーの村井、プロデューサー・名越(近藤公園)らに呼び出されるところから始まった。事なかれ主義の名越でさえ、岸本がカメラに収めた新証言の重大性を認識し、浅川とともに「(バラエティではなく)報道に任せたほうがいい」と主張するが、なぜか村井は『フライデーボンボン』での放送にこだわった。ほぼ村井の独断で、報道部に一切何も知らせず、『フライデーボンボン』で冒頭から25分の大特集を組むことに。世間を揺るがす大スクープは、局内のほとんど誰にも事前に知らされることなくオンエアされた。

 局の上層部は深夜の『フライデーボンボン』など誰も見ていなかったが、反響はこれまでの比ではなかった。翌日夜にはネットメディアなどだけでなく、他局の番組やラジオ、さらには新聞まで「ほぼすべての媒体」がこのスクープを取り上げ、世間は冤罪問題一色に。

 だが、スクープを放った高揚感はすぐに消え失せる。松本死刑囚逮捕の決め手となった目撃証言がウソだと暴露された西澤(世志男)は姿を消し、行方をくらませる。松本死刑囚の弁護を担当している木村(六角精児)は、重要な参考人が消えたことで再捜査の目が消えたと浅川に告げ、なぜ事前に相談してくれなかったのかと怒りをぶつける。また、西澤の目撃証言が虚偽であると証言した元妻の身柄こそ保護はしていたが、子どもたちのもとにマスコミが殺到し、一家は困惑。浅川たちは、いかに自分たちの行動が甘かったかを思い知らされたのだった。

 局内の混乱も大きかった。緊急幹部会議が行われ、10年続いた『フライデーボンボン』は「世間を騒がせたことのけじめ」として放送打ち切り。新たに『ウィークエンドポンポン』へとリニューアルすることになり、大半のスタッフはそのままだったが、チーフプロデューサーの村井は降ろされ、関連子会社へと異動。岸本も経理部へと異動させられた。官邸キャップである斎藤はおり、実は大洋テレビには、大門副総理に可愛がられている報道部のエース・斎藤(鈴木亮平)を通じて、圧力がかかっていた。村井はそれを知っていたから、報道部にスクープを渡さず、『フライデーボンボン』で放送することにこだわったのだった。大門の“要請”を無視した格好の大洋テレビは、“問題児”の粛清に踏み切るしかなかった。

 だが浅川は、大洋テレビの看板報道番組『ニュース8』に事件を取材した記者として急きょ出演することに。メンツをつぶされた格好の報道部だったが、世間が大騒ぎしているなか、当の大洋テレビの報道番組が無視をするわけにはいかないためだ。『ニュース8』はかつて浅川がサブキャスターを務め、斎藤との路上キスがスクープされたことをきっかけに降板させられた因縁の番組だった。

 そして、図らずも世間からの評価が急上昇した浅川は、自分が過去に目指していた「信頼されるキャスター」として認知されるようになり、なんと『ニュース8』にメインキャスターとして復帰する。だがその裏で、一度はよりを戻した斎藤とはふたたび別れることに。『ニュース8』に事件記者として久々に出演することになった直前、浅川は何度も斎藤に連絡を取ろうとしたが、連絡が取れない。代わって、斎藤から「ここまでにしよう」と別れのLINEが届く。報道の可能性を信じて突き進む浅川と、その報道に圧力をかけようとする政治家側に立つ斎藤とでは、もはや埋められない溝があった。「近い将来、君は俺を憎むことになるだろう。それでも、そういう君をこそ、俺は好きだった」。ようやく斎藤がはっきりと浅川への思いを示したが、それは2人の別れが決まったあとのことだった。斎藤は大洋テレビを辞め、大門副総理のもとへ行く。

 別々の道を進んだのは浅川と斎藤だけではなかった。岸本は経理部に飛ばされてからも取材を続行していたが、局の看板番組でメインキャスターを務める浅川は多忙を極め、岸本の話にろくに耳を傾けない。だが岸本から送られた写真をきっかけに、事件のあった八飛市が大門副総理の出身地だったことに浅川は気づく。引っかかるものを感じた浅川は首都新聞の記者・笹川(池津祥子)に、大門副総理について調べてもらうよう依頼するのだった。

足利事件だけでなく飯塚事件もモチーフ?

 佐野亜裕美プロデューサーによれば、この第6話までで「前半戦」だという。浅川は『ニュース8』のキャスターに復活し、斎藤は大洋テレビを辞めて大門のもとへ。残り4話の「後半戦」では対立していくことになるであろう2人。「君は俺を憎むことになるだろう」という斎藤の言葉は、すぐに現実のものとなるかもしれない。

 第6話ラストでは、大門副総理が何らかの形で八頭尾山連続殺人事件に関与しているらしいことが示唆された。事件の舞台となった八飛市の有力者であるという本城建託、浅川が以前に出会った、本城建託の御曹司だとみられる謎の男(永山瑛太)、そして本城建託と大門の関係。「後半戦」はここが焦点となってくるのだろう。

 八飛市は大門副総理の地元だった――という設定から想起されるのは、大門のモデルと見られる麻生太郎氏の出身地・福岡県飯塚市で起きた「飯塚事件」だ。1992年に行方不明の2人の女児が八丁峠で遺体で発見された事件であり、事件から2年後に逮捕された男性は一貫して無罪を主張していたものの、2006年に最高裁で死刑判決が確定。2008年、麻生氏が総理大臣に就任したおよそ1カ月後に死刑が執行された。翌年、男性の妻が再審請求を申し立てるも、2021年4月に棄却が確定したが、新たな証拠があるとして同年9月に二度目の再審請求申し立てが行われている。

 『エルピス』で参考文献としてクレジットされている9冊は、冤罪事件として有名な「足利事件」のものが大半を占めている。確かに劇中の「八頭尾山連続殺人事件」は、逮捕された男性が自白を強要されたり、冤罪の可能性を指摘する報道があった直後に再審請求が棄却されたなど、足利事件を参照したと見られる要素が散見される。一方で、「西の飯塚、東の足利」という呼称もあるほど、両事件にはDNA型鑑定の手法、鑑定技官が同じという共通項があり、『エルピス』が飯塚事件を意識している面も少なからずあるのではないか。参考資料のひとつ、『21世紀の再審 えん罪被害者の速やかな救済のために』(日本評論社)には、飯塚事件の項もある。現場付近での目撃証言が争点となりそうな部分も、飯塚事件を想起させるところがある。また飯塚市は、「九州の帝王」とも呼ばれる麻生グループの力が強いともいわれている。

 もし『エルピス』が飯塚事件もモチーフとしており、ドラマの中で大門が総理になる日が来たとしたら……。『エルピス』のエンディング映像に出てくるケーキの箱には消費期限として「22.10.24」の文字があり、『エルピス』の初回放送日である2022年10月24日のことを指すものと思われていたが、飯塚事件で森英介法務大臣が死刑執行を命令した日が(2008年)10月24日であることは、ただの偶然なのだろうか。『エルピス』の「後半戦」、ますます目が離せない展開となりそうだ。

■番組情報
月曜ドラマ『エルピス—希望、あるいは災い—
フジテレビ系毎週月曜22時~
出演:長澤まさみ、眞栄田郷敦、三浦透子、三浦貴大、近藤公園、池津祥子、梶原 善、片岡正二郎、山路和弘、岡部たかし、六角精児、筒井真理子、鈴木亮平 ほか
脚本:渡辺あや
音楽:大友良英
主題歌:Mirage Collective「Mirage」
プロデュース:佐野亜裕美、稲垣 護(クリエイティブプロデュース)
演出:大根 仁、下田彦太、二宮孝平、北野 隆
制作協力:ギークピクチュアズ、ギークサイト
制作・著作:カンテレ
公式サイト:ktv.jp/elpis

東海林かな(ドラマライター)

福岡生まれ、福岡育ちのライター。純文学小説から少年マンガまで、とにかく二次元の物語が好き。趣味は、休日にドラマを一気見して原作と実写化を比べること。感情移入がひどく、ドラマ鑑賞中は登場人物以上に怒ったり泣いたりする。

しょうじかな

最終更新:2022/12/16 17:07
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