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バフィー吉川の「For More Movie Please!」#5

『ベネデッタ』80歳過ぎても奇才ポール・ヴァーホーベン節炸裂! 神への冒涜の“匙加減”

『ベネデッタ』80歳過ぎても奇才ポール・ヴァーホーベン節炸裂! 神への冒涜の匙加減の画像1
c) 2020 SBS PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA – FRANCE 3 CINÉMA

バフィー吉川の「For More Movie Please!」
第5回目は『ベネデッタ』をget ready for movie!

 反キリスト的な書籍『Jesus of Nazareth』も発表している監督、ポール・ヴァーホーベンが『ルネサンス修道女物語―聖と性のミクロストリア』を元に、実在した修道女の物語を映画化した『ベネデッタ』が、2月17日から公開中だ。

 ハリウッドで制作された『ロボコップ』(1986)の劇場公開版は、暴力描写を大幅にカットされていたこともあるし、コミックやアニメ、ゲーム化もされていることもあるからヴァーホーベンをヒーローアクション監督として認知している人もいるかもしれないが、同作は紛れもなく暴力に満ちたバイオレンス映画。

『ベネデッタ』80歳過ぎても奇才ポール・ヴァーホーベン節炸裂! 神への冒涜の匙加減の画像2
c) 2020 SBS PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA – FRANCE 3 CINÉMA

『SPETTERS/スペッターズ』(1980)や『ブラックブック』(2006)、第89回アカデミー賞においてイザベル・ユペールが主演女優賞ノミネートされた『エル ELLE』(2016)など、容赦ない人物描写、だけどそれが社会の本質を切り取っているような作風が、多くの人々の心に爪痕を残す。それ故に多くの“敵”も作る映画人であり、当然ながら今作においてもカトリックからは非難が殺到。過去には映画を撮らせてもらえず、国を追い出されることもあったが、80歳を過ぎても全く丸くならず、いまだにブレないヴァーホーベン節が今作においても炸裂している。

 ヴァーホーベンは、描写がキツイかもしれないが、社会に蔓延する性と暴力性の境界線や軍国主義など、ただ現実社会をそのまま描いているだけに過ぎない。それが問題視されること自体が、社会システムの不具合を証明しているようだ。

【ストーリー】
17世紀のペシアの町(現在のイタリア・トスカーナ地方)。幼い頃から聖母マリアと対話し奇蹟を起こす少女とされていたベネデッタは、6歳で出家しテアティノ修道院に入る。純粋無垢なまま成人したベネデッタは、ある日修道院に逃げ込んできた若い女性バルトロメアを助ける。様々な心情が絡み合い2人は秘密の関係を深めるが、同時期にベネデッタが聖痕を受け、イエスに娶られたとみなされ新しい修道院長に就任したことで、周囲に波紋が広がる。民衆には聖女と崇められペシアでの権力を手にしたベネデッタだったが、彼女に疑惑と嫉妬の目を向けた修道女の身に耐えがたい悲劇が起こる。そして、ペスト流行にベネデッタを糾弾する教皇大使の来訪が重なり、ペシアの町全体に更なる混乱と騒動が降りかかろうとしていた……。

神と宗教はどう接続しているのか、そもそも冒涜とは何に対してなのか……

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c) 2020 SBS PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA – FRANCE 3 CINÉMA

 神(イエス)の姿を見たと言うベネデッタ。それは本当なのか、それとも虚言なのか……。結論としては、少なくとも本人は、それが真実だと思っている。
しかし、男性優位主義の時代や修道女という立場の中でそれを他者に信じさせるために虚言を重ねることで、どんどん視点を曇らせていくことから、作品によっては“悪女”として描かれるかもしれない主人公だ。

 しかしヴァーホーベン監督の過去作『ショーガール』(1995)や『氷の微笑』(1992)なども、主人公はそれぞれ目的を持っていて、そこに突き進む過程に綺麗ごとだけでは通用しないことを徹底的に描いていた。その点では、今作もヴァーホーベンらしいキャラクター構造といえるだろう。

 ヴァーホーベンという監督は、主人公をいわゆる映画的なヒーローやヒロインといった型にはまった存在として決して描かない。完全なる善も悪も不在の作品が多いのだ。

 善も悪も表面上に見えている部分が全てではない。視点を変えれば善も悪になるし、悪も善になる。現実社会というもの自体がそうではないだろうか。わかりやすいものほど、嘘なのかもしれない。

 筆者は日本の歴史というものもそれほど信じていない。そんなものは、どうにでも想像できてしまうからだ。織田信長が何をした、文献が残っているからといって、その文献が真実だと、どうしてわかるのだろうか。今でいう小説家が書いたものかもしれない。誰が他者や後世につないだかによって、いくらでもコントロール可能だと思えるからだ。

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c) 2020 SBS PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA – FRANCE 3 CINÉMA

 それは宗教も同じであって、そもそも宗教というもの自体、宗派などさまざまな形があるとしても、行いや発言が冒涜であるかどうかの匙加減は、神ではなく、その神を祀り上げた創始者の意思を反映させたものであり、実はそこには神の意思など、そもそも接続されていないといえるのではないだろうか。

 ベネデッタが神を崇拝しながら、与えられた宗教に背くことは、宗教においては冒涜であっても、神においては冒涜かどうかなんて誰が決めるのだろうか。

 ちなみに、全く違うアプローチではあるものの、無神論者の主人公が神を訴えるインド映画『オーマイゴッド ~神への訴状~』(2012)によれば、神は存在しているが、宗教は人間が作り出したもので、そこには神の意思など不在で偽りだと言い切っている。これは宗教国家のインドにおいては、なかなか冒険的な描き方だが、神と宗教の接続への違和感という点では共通したテーマといえるだろう。

 

『ベネデッタ』
2月17日(金)より、新宿武蔵野館ほか全国公開

監督:ポール・ヴァーホーベン
脚本:デヴィッド・バーク、ポール・ヴァーホーベン
原案:ジュディス・C・ブラウン
出演:ヴィルジニー・エフィラ、ダフネ・パタキア、シャーロット・ランプリング、ランベール・ウィルソン
2021/フランス・オランダ/131 分/R18+/原題:BENEDETTA
公式サイト: https://marvel.disney.co.jp/movie/antman-wasp-qm 

バフィー吉川(映画ライター・インド映画研究家)

毎週10本以上の新作映画を鑑賞する映画評論家・映画ライター。映画サイト「Buffys Movie & Money!」を運営するほか、ウェブメディアで映画コラム執筆中。NHK『ABUソングフェスティバル』選曲・VTR監修。著書に『発掘!未公開映画研究所』(つむぎ書房/2021年)。

Twitter:@MovieBuffys

Buffys Movie & Money!

ばふぃーよしかわ

最終更新:2023/03/04 09:00
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