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ハライチ・澤部佑、相方の結婚報告を「受け取る」インタビュアーとしての技量

ハライチ澤部佑

 16日深夜に放送された『ハライチのターン!』(TBSラジオ)は、コンビにとって極めて重要な放送になった。

 直前の13日に岩井勇気が結婚を発表。岩井はこの発表について、X(旧Twitter)に「発表がありました結婚についてはラジオで話しています。今週のTBSラジオ『ハライチのターン』を聴いてください。」とだけ投稿していた。

 妻となる奥村皐月が19歳という年齢だったこともあり、世間を騒がせている最中、この日のラジオは大いに耳目を集めることになった。

 この日の放送において、岩井は用意してきたことだけをしゃべればいい立場だ。さまざまな意見が飛び交った妻との年の差や、当時13歳の少女との出会いから結婚に至る経緯についての疑念も、振り払えるだけの自信があったのだろう。事実、岩井の口から語られたそれは実直な大人の男性としての振る舞いであり、かつ若い女性タレントとの恋愛に戸惑い、人生の決断に至るまでの関係性の成熟を追った、ほほえましいラブストーリーだった。

 難しいのはこの報告を受け取る澤部佑のほうだ。無論、澤部は世間に賛否両論があることを知っている。今回の結婚報道を肯定的にとらえるファンからは「岩井の言葉を正確に引き出してほしい」という期待を集め、悪口を言いたいだけの否定的な野次馬は、澤部がいかに“一般常識”に沿って岩井を“指弾”するかを見定めようとしている。「澤部、どんな感じでやるんだ?」と興味津々に耳を傾けた私も、どちらかといえば悪いリスナーの部類に入るだろう。

 かくして、この日の『ハライチのターン!』は通常通り「今週のネコちゃんニュース」から始まる。『ターン!』唯一の継続的なコーナーで、国内外のネコに関する他愛ないニュースを、ネコ好きの岩井が、さも重大ニュースのように伝えるという内容だ。普段なら、澤部も適当に相槌を打ってタイトルコールに進むところだが、この日の放送では、この後にコンビにとっての本当の重大ニュースが待っている。岩井はその状況を面白がって、無駄にネコちゃんニュースを引き延ばそうとしている。このネコちゃんニュースを切り上げるタイミングも、澤部のサジ加減だ。早すぎれば空気が悪くなるし、遅すぎれば肯定派・否定派の両方から不満を買うことになる。

「うーん、もういいです!」

 ネコちゃんニュースをしゃべり続ける岩井に対し、普段より少しだけ不満げな澤部が徐々に我慢できなくなり、腹を据えかねたように、「もういいです!」。インタビュアーの仕事は、世間を背負うことだ。この日の澤部に課せられた仕事は、相方とコンビの世間的なイメージを守りながら、「世間」として岩井に真相を問うという両極端の性質を持っている。その意味で、絶妙なタイミングでの「もういいです!」だった。

「もういいよ、面白くない」「こんなの長引かせない、なんかあるんだから、今日は」

 まだネコちゃんニュースを引き延ばそうとする岩井を、ここでは冷たくあしらって進行役に徹する澤部。

「番組、始めます」

 それは『ハライチのターン!』の始まりであると同時に、コンビの今後を左右する重要な「結婚報告」の始まりを意味している。

 ここからは、岩井が進行しながら経緯を説明していく流れになり、澤部はもっぱらリアクションを取る役割となる。澤部は発表の前日に岩井から経緯を聞かされており、すべてを納得した上でこの日の収録に臨んでいる。

「どうですか、びっくりしました?」とイタズラっぽく問う岩井に「びっくりしましたよ、うわ、若ぁー! ってなりましたよ、若ぁー! って」と、さっそく世間を背負って見せる澤部。かと思えば、奥森との共演経験を引き合いに出して、岩井の「(奥森は)賢いですよね」という意見に大いに同調する。おそらくハライチの2人の間に、細かい打ち合わせはない。岩井が言いたいことに対して、澤部が臨機応変にリアクションを取りながら、その発言を補足していく流れが続く。

 岩井が「結婚に興味がなかった」と言えば、「そうなんだな、価値観って変わるんだよね」と、すぐさまフォロー。「結婚しないって言ってたじゃん!」と騒ぎ立てるファンへの牽制である。

 岩井が「澤部には前日に教えたもんね、言ってないもんね」と言えば、「言えよ!」と不満を漏らしつつ「よく前日に教えてくれたよね、(ネタはいつも当日に教えられるから)俺もうれしかったよ。知らせんの早! となったね」と、「相方への結婚報告が前日」という事実が2人にとって異常なことではないことを明示し、コンビの関係性に対する疑念を解消していく。「前日まで言わないなんて、仲悪いんじゃないの?」という、結婚のニュースを見ただけでハライチをよく知らない人への説明である。

 例を挙げればきりがないが、こうして澤部は、岩井がいかにスムーズにしゃべれるか、その真意が正確に伝わるかに腐心し、時に岩井に寄り添い、時に世間の側に立って岩井を突き放しながら、その経過を聞き出していく。

 澤部という芸人は、リアクションのプロだ。テレビでのドッキリはもちろん、そもそもハライチの代名詞である「ノリボケ漫才」も、○○なやーつ、という岩井のフリに対してほぼアドリブでノリボケを披露し続けるという構造であり、この即興性こそが澤部の真骨頂といえるスキルである。

 また同時に、澤部というタレントは好感度のプロでもある。『M-1グランプリ2009』(テレビ朝日系)で彗星のようにデビューしてから14年、澤部はバラエティのトップランナーであり続けている。14年にわたり、多くの国民に愛され続けているということだ。澤部自身も時おり、ラジオや取材で好感度への執念を明かしている。

 相方として、取材者として、世間として、コロコロとその姿を変えながら、澤部は岩井の話を聞いている。話が進めば進むほど、見えてくるのは岩井の誠意と、妻に対する深い愛情と、奥森皐月という女性の特異な魅力だ。番組が終盤にさしかかるころには、もう2人の結婚に疑念を抱く者はいなかっただろう。まだ何か言いたい人がいたら、それはもうしょうがない。話が通じないということだ。

 ところで、澤部と岩井は幼稚園からの幼馴染みである。相方でもなく、取材者でもなく、世間でもない親友としての澤部の言葉も、また時おり差し込まれた。

「岩井勇気を変える人間は、もう現れないと思ってた」

「なんかおまえ、人間として成長するなよ」

 30年以上の関係性がなければ、決して出てこない言葉。ファンやリスナーがいくら推し量ったところで、その奥底にある思いまでは決して理解できない言葉。そうした言葉を率直に発することができるのも、タレント以前、芸人以前の、澤部という人間の温かみなのだろう。

 澤部という人間の温かみなのだろう。などと原稿の文末に書かされてしまう程度に、私は澤部のタレントスキルに翻弄されている。毒されている。

(文=新越谷ノリヲ)

新越谷ノリヲ(ライター)

東武伊勢崎線新越谷駅周辺をこよなく愛する中年ライター。お笑い、ドラマ、ボクシングなど。現在は23区内在住。

n.shinkoshigaya@gmail.com

最終更新:2023/11/17 17:41
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