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 >   >  世界が爆笑した洋画『ハングオーバー』 日本では劇場未公開寸前だった舞台裏

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音楽・映画ライターのわたなべりんたろう氏。
『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』(08)の
日本での劇場公開を求め、署名活動を行なった。

 製作費3,500万ドルという控えめな予算ながら、2009年6月に公開されるや全米興収2億7,700ドルの特大ヒットを記録。米国のコメディ映画史上最大のヒット作となったワーナー映画『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』が、7月3日(土)より日本でも公開される。米国だけでなく世界27カ国で第1位を記録した爆笑コメディだが、実は日本での公開をめぐって劇中さながらのドタバタ劇があった作品なのだ。洋画コメディは日本では当たらないという映画業界の風潮に加え、知名度のあるスター俳優が出演していないことから、日本では劇場未公開のまま3月にDVDが発売されることがワーナー・ホーム・ビデオから発表されていた。『バス男』『スーパーバッド 童貞ウォーズ』に続いて、『ハングオーバー』もDVDスルーかとコメディ愛好家たちが嘆く中、立ち上がった男がいた。欧米では大ヒットしたものの日本ではやはりDVDスルーが決まっていた英国産コメディ『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』(08)の日本での劇場公開を求めてネット上で署名運動を展開した映画ライターのわたなべりんたろう氏だ。『ハングオーバー』はいかにして日本での劇場公開に至ったのか。劇場公開が決まる前の1月14日、劇場公開が決まった後の6月22日の2度にわたって、わたなべ氏へのインタビューを行なった。

■今の日本は"文化的鎖国状態"!?

──練りに練られた脚本で、展開が予測できない爆笑ストーリー。でもってダメ男たちの友情にホロリとさせられる。こんなに面白い映画が日本では劇場未公開扱い(1月14日時点)とは残念です。

わたなべりんたろう(以下、わたなべ) ノンスター映画のコメディということで、日本でのヒットは難しいだろうという判断だったようです。キャストはこの作品が全米で大ヒットしたことで、今ではみんな売れっ子になっているんですけどね。花婿の義弟を演じたザック・ガリフィアナキスはスタンダップコメディ出身でジョン・ベルーシの後継者的な存在ですが、髭づらでメタボ体型。確かに、日本ではまず人気が出ないタイプです(苦笑)。コメディというとその国の文化事情を知ってないと笑えないという印象があるけれど、『ハングオーバー』は唐突にトラが出てきたりするフィジカルなギャグばかりなので、全世界共通で笑える内容です。それにストリッパー役のヘザー・グラハムがすごくいい。米国で人気が再燃しています。出演オファーを蹴ってしまったリンジー・ローハンは悔やんでいるそうです。まぁ、低予算映画ということで、米国でも公開前はここまで大ヒットすることは予測されてなかったわけですけどね。

──わたなべさんは劇場公開についてワーナー側と交渉されたんでしょうか?

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世界で大ヒットした『ハングオーバー』がようや
く日本でも公開。ラスベガスで独身さよなら
パーティーを開いたダメ男たちがハメを外しす
ぎ、ハングオーバー(二日酔い)に。消えた
花婿は結婚式までに見つかるのか?
(c)2008WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.

わたなべ ワーナー・エンターテイメント・ジャパン内にも「未公開はもったいない」と考えている人はいました。映画評論家の町山智浩さんがPRを努めたこともあって、『ハングオーバー』が日本でプレミア上映された昨年9月の「第2回したまちコメディ映画祭in台東」のオールナイトイベント"復活! 映画秘宝ナイト"はチケットが売り切れるほどの人気でしたし。それで、わたしが11月末に「日本では公開しないんですか?」と確認したところ、「日本での公開は200%ない」という返事でした。それならばと、12月1日からダメもとでサイト上での署名活動(映画『ハンオーバー』劇場公開を絶対求める会)を始めたんです。こんなに面白い映画が世界中でヒットしているのに、日本だけ公開されないという状況はどうなんだと。

──日本では若者の洋画離れが進んでいます。

わたなべ 日本では、コメディ映画を劇場で観て、みんなで大笑いしようという習慣がない。それに加え、若者たちの洋画離れが進み、洋画系の配給会社は苦しい状況。ムービーアイ、ワイズポリシーなど洋画を手掛けていた配給会社が次々と潰れています。若者の洋画離れは一説には、ゆとり教育の弊害なんじゃないかとも言われているようです。読みづらい字幕よりも吹き替え版のほうを好む。知らない外国の俳優が出ている洋画よりもテレビドラマの劇場版を選ぶ。若い人たちはそういう保険のついた、安心して観ることのできる作品を好むようになっている。ケータイ小説のような予定調和的な世界に感動している。これはすごく怖ろしいことですよ。日本の文化状況は、まるで"鎖国状態"に向かっているように感じるんです。音楽業界もそうですが、近年の映画業界はすごく内向きのマーケティングに偏っています。

──1本のコメディ映画をめぐる問題ではなく、日本の文化全般にまつわる問題でしょうか?

わたなべ 日本の音楽シーンで言えば、少し前にあった現象では洋楽をパクったような3年遅れぐらいのR&Bを平気でやっていた。国内でディーバとか言っても、海外ではまったく通用しないと思います。日本の音楽シーンは世界の動きを知らずに、音楽格差が生まれています。若い人たちも携帯配信で音質の悪いものを聴いて、それで良しとしている。CDが売れなくなるのは当然だと思います。音楽業界がファンを育てていくことを怠っていたツケが来ているんじゃないですか。映画業界も似たような状態でしょう。例えば、『スパイダーマン』シリーズをヒットさせたサム・ライミ監督の『スペル』(09)なんて爆笑もののホラーコメディなんですが、日本では若い人たちには作品の面白さが全然届かずに不発で、もう少し入ってもよかった。ある種の文化格差が生じてきているように思います。

──80~90年代は各国の多彩なインディペンデント系作品がミニシアターで盛んに上映されていましたが、今はスター俳優の主演した恋愛映画じゃないと公開されにくい状況。

わたなべ でも、アクションコメディ『ホット・ファズ』は日本でもヒットしました。わたしが宣伝に協力した、売れないヘビメタバンドのドキュメンタリー映画『アンヴィル!  夢を諦めきれない男たち』(09)もロングランになりました。ノンスター映画でも本当に面白い作品なら、口コミで人が入ります。面白い映画はきちんと宣伝して一定期間公開すれば、観客に伝わります。それなのに安全パイの作品しか公開しないというのはどうでしょう? 日本の文化の層の薄さを感じさせます。

──『ホテル・ルワンダ』(06)に続き、『ホット・ファズ』もネット上での署名活動から劇場公開に結びついたわけですが、『ハングオーバー』が劇場公開される見込みは......?

わたなべ 厳しいです。山を動かすぐらいの覚悟ですね。無理を承知でやってます。何もやらないで後悔するよりは、やって後悔しようということです。もう後悔しつつありますけど(苦笑)。別にワーナーとケンカするためにやってるんじゃないんです。ネットを使って署名運動ができ、日本で公開したい作品があるならやろうよということです。ボクだけじゃなくて、みんな各自が思うものの署名活動をやればいいんじゃないかと思います。自分の意見を言うことを怖がっている人が多いように思いますね。正直、『ホット・ファズ』で署名活動をやって完全燃焼したので、2度はやるつもりはなかった。一銭にもなりません。

──個人での署名運動は大変ですか?

わたなべ 大変です。『ホット・ファズ』のときは完全なボランティアでした。寝ないでメールを送り、ブログを更新する生活。ネット喫茶にこもって集中して作業していたら、床ずれができました(笑)。日本版DVDが出たときに解説を書いて、その原稿料を規定額分もらっただけです。今回の『ハングオーバー』も知り合いのミュージシャンら著名人にコメントをお願いしていますが、サンプルを送ったり試写会で観てもらって、それからタイミングを見て、コメントを頼まなくてはいけない。時間がかかるし、注いだ熱量に対する見返りはないんです(苦笑)。ただ、やるべき価値のあることなら、やってみるべきだということですね。


■ツイッターは宣伝スタイルを変えるか?

 さて、わたなべ氏が署名活動はしんどいとこぼしたここまでが1月14日のインタビュー。日本での劇場公開は絶体絶命かと思われた『ハングオーバー』だが、このインタビューのすぐ後にミラクルが起きたのだ。1月18日に発表されたゴールデングローブ賞で『ハングオーバー』は見事に作品賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞。このニュースが報じられた直後、DVDの発売を延期して日本でも劇場公開することが発表された。以下は6月22日に行なった、わたなべ氏への電話インタビューの内容だ。

──本来は3月のDVD発売に合わせて映画業界に一石を投じるインタビュー記事としてアップする予定でしたが、記事をお蔵入りさせたままご無沙汰していました。『ハングオーバー』、まさかの日本での劇場公開おめでとうございます。

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『キリング・ミー・ソフトリー』(02)の
ヘザー・グラハムが、"いい女"っぷりで泣
かせる。

わたなべ ありがとうございます。

──ぶっちゃけなところ、『ハングーバー』の日本での公開に、署名運動はどれだけの効果があったと思いますか?

わたなべ もちろん、ゴールデングローブ賞受賞が大きな要因でしょう。日本での劇場公開が米国のワーナー本社からの指示なのか、ワーナー・エンターテイメント・ジャパンの判断かは分かりません。でも、署名運動をしたことで日本でも『ハングオーバー』を観たいという人たちがいることを具体的な数字でアピールできたことが基盤になっていると思います。ただゴールデングローブ賞を受賞しただけで、日本で公開されたかどうかは分かりません。実際、『ハングオーバー』の日本での公開にあたり、署名のために著名人たちが寄せてくれたコメントが活用されるなどもしています。

──とりあえず、『ハングオーバー』は日本での劇場未公開を回避できましたが、日本における洋画の状況が根本的に変わってきたわけではありませんよね?

わたなべ そうです。ですから、『ハングオーバー』が洋画の配給状況が変わる上での試金石になればと思いますね。『ハングオーバー』がヒットすれば、配給会社も多少なりとも洋画コメディに対する認識が変わるんじゃないですか。ノンスターのSF映画『第9地区』はヒットしています。日本映画ですが、テレビ局を絡めずに作った『告白』のようなエッジの効いた作品も当たっている。今までとは違った作品を観たいと思っている人は多いということでしょう。テレビ局主導の映画に対する反動もあると思います。それに映画の宣伝スタイルも変わりつつあるんじゃないかと思います。クエンティン・タランティーノ監督の戦争映画『イングロリアス・バスターズ』(09)は公開直前にタランティーノやブラッド・ピットらが大挙来日してキャンペーンを行ないましたが、観客動員できたのは第1週だけで、その後は続かなかった。テレビなどを使って公開直前に派手に宣伝する大作映画とは別に、ツイッターなどのネットでの口コミ的な宣伝が適した作品もあるんじゃないですか。『ハングオーバー』もツイッターで署名活動を広げたわけです。

──ネットでの署名活動は『ハングオーバー』で打ち止めにしたいと前回は話していましたが......。

わたなべ 署名運動は大変なので、できれば他の人にやってほしい(苦笑)。『ハングオーバー』はすでに『ハングオーバー2』の撮影が年内に予定され、日本でも早々に劇場公開されることが確定しています。でも、まだこれから日本で劇場公開されるかどうか微妙な作品がけっこうあるんですよ。『ホット・ファズ』のエドガー・ライト監督の新作『スコット・ピルグリムvs.ザ・ワールド』ですが、これも日本での公開はまだ予定されていないと言われています。暴力シーン満載ながら笑える米国映画の話題作『キック・アス』も難しい状況。『40歳の童貞男』(06)で知られるジャド・アバトー監督の最新作『ファニー・ピープル』(09)は米国の人気コメディアンであるアダム・サンドラーとセス・ローゲンが主演したヒット作ですが、日本での公開の見通しは付いてませんしDVDも出ていないんです。とくにエドガー監督の『スコット・ピルグリム-』は撮影中のトロントを訪問して、エドガー監督にも会ってきているので、もし日本での公開が決まらず、他に署名活動を始める人がいなければ、やらざるを得ないかもしれませんね......(苦笑)。

──『ハングオーバー』の日本公開に当たり、最後にひと言お願いします。

わたなべ 日本での公開が決まってからも署名数はまだ増えているんです。現在、署名数は2,481人です。公開初日の土曜、日曜はみんなで劇場に集まって盛り上がりたいですね。コメディって、ひとりでDVDで観るよりも、劇場でみんなで腹を抱えて笑うことで、もっと面白くなるもの。それに第1週の土日に観客動員できれば、その後の公開期間も伸びますしね。エンドロールで明かされる画像の数々は爆笑すること間違いなしです。

 さて、『ハングオーバー』が公開される7月3日は、フジテレビ製作の『踊る大捜査線THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!』も全国公開される。脚本重視のノンスターの洋画と国内興行記録を塗り替えたテレビ局主導の人気シリーズがぶつかり合う形だ。全国10館のみでの上映となる『ハングオーバー』は観客動員数では圧倒的に不利だが、満足度や1館あたりの動員率でどのような数字を残せるか。これからの映画興行を占う上で、非常に興味深い対決となりそうだ。

● 『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』
2日後に結婚式を控えた親友・ダグ(ジャスティン・バーサ)のためにバチェラーパーティーをラスベガスで開くフィル(ブラッドリー・クーパー)たち悪友仲間。だが、ハメを外しすぎて悪酔いし、誰も昨晩の記憶がない。ホテルにダグの姿はなく、代わりになぜか赤ちゃんとトラがいた!
監督/トッド・フィリップス 脚本/ジョン・ルーカス&スコット・ムーア 出演/ブラッドリー・クーパー、エド・ヘルムズ、ザック・ガリファアナキス、ヘザー・グラハム、ジャスティン・バーサ、ジェフリー・タンバー 配給/ワーナー・ブラザーズ映画 7月3日(土)よりシネセゾン渋谷ほか全国ロードショー <http://wwws.warnerbros.co.jp/thehangover/>


● わたなべ・りんたろう
1967年生まれ。映画・音楽ライター。「週刊朝日」映画欄の星取り表など執筆。ルワンダ紛争の実情を描いた『ホテル・ルワンダ』(06)の日本での公開を求める署名活動に参加。『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』(08)では"映画『Hot Fuzz』の劇場公開を求める会"を主催し、2890人の署名を集めた。


ホット・ファズ~俺たちスーパーポリスメン!~


五つ星☆


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