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エロチシズムの大衆文化

福助もダルマも天狗もルーツは男根!? 身の回りに隠れた性器崇拝

engi01.jpg飲食店の店先に飾られた男根像。

 大衆文化研究家の町田忍氏が、エロと大衆文化の関係を解き明かす!

【第二回】
「性器崇拝と招福縁起物」

 招き猫、福助、七福神……日本には数多くの招福縁起物があります。これだけ多くの縁起物があるのは世界的に見ても珍しく、その背景には「八百万の神」という信仰があります。これは、森羅万象あらゆるものに神様が宿っているという日本独自の考え方。弥生時代くらいからあったのではないかと思いますが、発達したのは江戸時代に入ってからです。また、言霊信仰がある日本に置いては語呂合わせも重要視されており、それらが組み合わさって縁起物文化が広まっていったと思われます。

 縁起物のルーツは陰陽の和合というところに行きつきます。例えば、福助やダルマ、天狗などは男性器、おかめやお多福、熊手差し物は女性器を模しています。これはつまり、子孫繁栄、五穀豊穣の祈りなんです。日本人は基本的に農耕民族。昔から子孫繁栄、五穀豊穣というのはセットで、大変めでたいことだと考えられていた。性器自体が魔除けになるという信仰は古くからあり、また、性器やセックスというものが”新しいのを作る”ということにつながっていたんです。昔は神社を中心に町中のいたるところに、男根を模したハリボテ(竹で枠を組んで和紙を張ったもの)や木彫り、石彫りの像が祀られていました。

 ところが明治時代になると、西洋人から見て、こういうシンボルが町中にあるのは野蛮だということで政府から禁止令が出て、少しずつ姿を消していったんです。一説によるとみんな墨田川に捨てたもんだから、川が男根で埋まったなんていう話もあるくらいです(笑)。

engi03.jpg(上)右手がお金、左手がお客を招とく
言われている。
(下)これ以上頭は下げられない、という
「おじぎ福助」は男性器のシンボル!?

 しかし、急に西洋文化が入ってきたからといって、一夜にしてなくなるもんじゃない。それが生き延びるためにいろんな形に変わっていったんです。それが招き猫であり、福助のまげであり、(飲食店の前に置かれる)狸だった。許される範囲に形を変え、現在まで脈々と受け継がれているんです。

 縁起物の代表格と言えば、招き猫です。招き猫が誕生したのは江戸時代で、その発祥にはさまざまな説がありますが、そのなかの一つに「遊郭説」というものがあります。遊郭では客寄せのために、男根像を座布団の上に置いていました。お客さんが撫でると子宝に恵まれて縁起がいいと。ところが明治時代になり禁止令が出されると、替わりに猫の置物が置かれるようになりました。三味線を弾ける芸妓のことを昔は「猫」と呼んだり、遊郭では猫をよく飼っていた。そんなこともあって、猫の置物を置くようになったんです。何年か前に僕と山本晋也監督が、「招き猫遊郭説」を実証しようと飛び込みでソープランドに行ったんですが、ちゃんと置いてありましたよ。遊郭や花街の伝統として受け継がれているんですね。

 昔ながらの性器崇拝を色濃く感じさせる縁起物と言えば、福助人形です。大きな頭とちょんまげが特徴のあれです。福助のルーツは、享和年間(1801~04)の江戸で流行した幸福招来の「叶福助」人形です。福助誕生説はいくつかありますが、モデルは実在した短身で大頭の人物。ハンディキャップを抱えながらもその人物が富に恵まれたということで、それにあやかろうと作られた人形です。頭にちょんまげが載っている姿まさに男根ですね。

 時代的に比較的新しい縁起物と言えば、飲み屋の店先に置いてある狸の置物があります。これは昭和30年くらいに広まりました。

engi02.jpg

 この狸、意識して作られたわけではありませんが、後ろから見ると、その姿はまるで男性器そのもの。狸の前にぶら下がっているタマは「前金」、玉袋が大きいので皮を広げれば八帖くらいに広がって人が集まる「八帖敷き」で縁起がいいと言われています。そのほかにも狸の語呂合わせで「他を抜く」、傘は魔除け、とっくりや大福帳は商売繁盛など、結果的にあとからいろいろ理由付けされたわけです。

 このように、わたしたちの身の回りのありとあらゆるところに、いまも性器崇拝は生きています。とくに地方では、まだ性器そのものが神として祀られています。例えば、道祖神もそのひとつです。道祖神は男女一対を象徴するもので、「餅つき」と呼ばれる男女の性交を表すのも数多く見受けられます。また、今でも、川崎市の「かなまら祭り」や佐渡の「つぶらさし」、愛知県犬山市の大縣(おおあがた)神社の豊年祭など性器を祀るお祭りが残っています。

 開運、商売繁盛、家内安全……。性器に拝んで自分の幸せを祈るとは、なんとも可笑しな慣習ですね。
(談=町田忍/構成=編集部)

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●まちだ・しのぶ
1950年東京生まれ。学生時代はヒッピーとしてヨーロッパ各地を放浪。卒業後、警視庁警察官勤務を経て、庶民文化における見落とされがちな風俗意匠を研究。その研究対象は多岐にわたり、銭湯、正露丸、チョコレート、ペコちゃん、コアラのマーチ、蚊取り線香、ハエ取り紙など150以上にのぼる。す。主な著書に『銭湯遺産』(戎光祥出版)、『昭和なつかし図鑑』(講談社)、『東京ディープ散歩』(アスペクト)などがある。現在、文化放送「ドコモ団塊倶楽部」(毎週土曜・午前11:00~)とライブストリーミングサイト「DOMMUNE」に不定期出演中。

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福来たれ!

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最終更新:2010/09/15 15:01
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