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『ガンダムと日本人』著者インタビュー

冷戦と高度経済成長が生んだ、『機動戦士ガンダム』という賜物

gun_jpn01.jpg著者でフリーライターの多根清史氏。

 11月に刊行された多根清史『ガンダムと日本人』(文春新書)。大東亜共栄圏や、高度経済成長、55年体制と小沢一郎など、日本の政治・戦争をテキストに、アニメ『機動戦士ガンダム』はなぜ生まれ、なぜ愛されるのかに迫る一冊だ。国際政治学の大家・高坂正堯に師事した政治史通にして、雑誌「オトナアニメ」(洋泉社)のスーパーバイザーを務める名うてのアニメライターは、ガンダムの向こうにどんな日本人像を見たのだろう。

――そもそも、なぜ、ガンダム本を?

多根清史氏(以下、多根) 去年、1/1スケール等身大ガンダムが立ったことが一番大きな理由ですかねぇ。1/1ガンダムを作るとなれば、技術も予算も必要だし、「景観を壊す」って声があがることも考えられた。ところが、ちゃんとコンセンサスを得て「ガンダム、お台場に立つ」が実現できた上に、オタクだけでなく、多くの人がこぞって見に行っていた。そんなガンダムの姿が、新しい日本のイコン(聖像)、ちょっと大げさな言い方をしてしまえば、大仏にも似た信仰の対象のようにも見えたんです。そんなことをつらつらと考えてたら「日本の歩みのいろんな局面をガンダムの中に見出せるんじゃないか」と思えてきて、執筆に至った、と。

――しかし、「ガンダムと日本人」って大きなテーマですよね。何がふたつを結びつけたんですか?

多根 「量産」ですね。それまではワンオフもの(専用機)の主役メカが、毎回、ワンオフものの敵メカを倒すアニメが主流だったけど、ガンダムの世界では、ザクやジムという量産兵器がどんどん工場からロールアウトされていた。つまり、地球連邦とジオンの戦いとは、技術の粋を結集して作り上げた兵器をいかに効率よく量産できるかという工業国同士の戦いだった。で、この文脈がどこから出てきたかと言えば、高度経済成長期の日本の姿からでしょう。あと、戦前と戦後の日本の関係や、戦中の日米関係とも似ている。スペースノイド(宇宙居住者)の団結を掲げて連邦=大国に反旗を翻したものの、結局負けた小国のジオンは、戦前・戦中の日本の似姿だろうし、奇襲攻撃によって開戦当初こそ劣勢を強いられたものの、ガンダム開発後の物量作戦で巻き返した連邦は、真珠湾攻撃を受けながらも、フォーディズム(大量生産)によって第二次大戦に勝利したアメリカや、戦後の復興を成し遂げた日本のようですよね。

――富野(由悠季)監督は、ガンダム制作当時、そのような政治史、産業史を研究していたんでしょうか?

多根 時事問題が好きな人ではあるものの、深くは掘り下げてないでしょうね。ただ、だからこそ、ガンダムは信頼できるとも言える。

――信頼できる?

多根 戦争に対する変な先入観がないんですよ。戦争作品というと、得てして悲惨で貧乏くさいものになりがちだし、確かに「ひもじいからイヤだ」という感覚は、戦争に対するブレーキにはなるけど、そればかりが声高に叫ばれると、戦争観は歪んでしまう。だって、アメリカはひもじい戦争なんてしたことないし、外交において軍事力に頼らざるを得ない局面は残念ながら存在しますから。その点、1941年生まれの富野さんは、実質的には最初の戦後世代。戦争の記憶はほとんどなく、三種の神器に代表される家電製品や工業製品が身の回りに揃い始めた高度経済成長期を生きてきた人です。その生活感覚をストレートに投影したからこそ、「戦争万歳!」とは言わないけど、ダメとも言わず、ひもじくない、物量による戦争をニュートラルに描けたんだと思いますよ。

――それが戦後育ちなら信用できるはずだ、と。

多根 で、もうひとつ、ガンダムは70年代後半に構想されたからこそ生まれた作品でもある。日本が貧しい時代なら、工業力に裏打ちされた物量作戦なんて思いつかなかっただろうし、単に技術力の高いほう=ジオンが勝つわけではない物語にはベトナム戦争の影響も見て取れる。あと、制作当時、ソ連のアフガン侵攻によって米ソが新冷戦に突入する直前だったことも影響を与えているんじゃないですか。

――ふたつの大国が激突するわけですしね。

多根 その一方で、冷戦って、日本人にとってはスゴく絵空ごとっぽいんですよ。まず、自分たちのあまり知らないところで二大勢力が対立している。そして、どちらも最終兵器を持っている。でも、どちらかが最終兵器を一発撃てば、みんな死んじゃうから、結局、戦争は起きない。この『人類の滅亡と隣り合わせなんだけど、ある意味平和』という気の狂った大状況が、富野さんたちのSF的想像力を刺激した面もあるんじゃないですか(笑)。そして、当時の視聴者も『リアルだよね』と受け入れた、と。

――では、今も愛される理由はなんなんでしょう。

多根 群像劇だからでしょうね。主人公はアムロなんだけど、ホワイトベースのクルーや、連邦のお歴々、そして、ジオン側についてもシャアのようなエリートから一兵卒まで、大勢の内面にかなり深く踏み込むから、視聴者はいくつになっても、物語のなかに自分を見つけられるんですよ。たいていの子はアムロやシャアに思い入れるんだろうけど、跳ねっ返りの子ならカイ・シデンに感情移入できるし、年齢が長じてきたらブライトさんにもハマれるし、左遷でもされようものなら、ランバ・ラルに涙できるかもしれない(笑)。ガンダムって「このキャラが物語の中心になる回はこの人が書く」というふうに、脚本家ごとに持ちキャラがあって、だから、いろんな人格のキャラクターが生まれたらしいんです。つまり、アニメならではの共同作業によって多彩なアイデアを盛り込みつつ、物語の骨子・大筋は富野さんがきちんと監督していた。そんな映像作品ならではの利点が最大限発揮されているところも魅力なんですよね。
(構成=成松哲)

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最終更新:2010/12/08 11:00
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