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"アジアの巨匠"インタビュー

ジョン・ウー最新作は、男女の絆! 武侠大作『レイン・オブ・アサシン』

IMG_4905_.jpgソード&ラブロマンス『レイン・オブ・アサシン』
の日本公開に先駆けて来日したジョン・ウー監督
(写真左)と脚本も手掛けたスー・チャオピン監督。

 『男たちの挽歌』(86)、『ウィンドトーカーズ』(01)、『レッドクリフ』(08、09)と義に殉じる男たちの熱き絆を描き続けるアクション映画の巨匠ジョン・ウー監督。ジョン・ウー作品はやたらと爆破シーンが多い。渦巻く爆音と飛び交う銃声の中、男たちに言葉のやりとりはいらない。固い友情で結ばれた男たちはお互いにうなずきあって、後は敵陣に踊り込むだけだ。ジョン・ウー作品における爆発=男気の発露なのだ。ハリウッドで成功を収め、子どもの頃からの夢だった『レッドクリフ』でアジアに凱旋したジョン・ウー監督が最新作『レイン・オブ・アサシン』の日本公開にあたり来日した。3.11以降、映画界の大物が東京に来ることがなくなっているだけに、ジョン・ウー監督の男気をいっそう感じさせるではないか。

 新作『レイン・オブ・アサシン』は男臭さが売りのジョン・ウー作品には珍しい、ヒロインが活躍する新感覚の武侠ラブロマンス。明の時代の中国、凄腕の女殺し屋(ミシェル・ヨー)は暗殺組織から足を洗うために顔を整形し、自分の過去を知らないマジメな亭主(チョン・ウソン)と静かに暮らし始める。だが、組織が放っておくはずがなく、かつての同僚だった殺し屋たちが次々と襲い掛かる。ヒロインは果たして平和な家庭を守り切れるか? アジア屈指のアクション女優ミシェル・ヨーが貫禄たっぷりなソードアクションを披露するのに加え、殺し屋たちが実に個性的。ヒロインが抜けた後の組織に後釜として入る若い女剣士(バービー・スー)は独占欲とお色気を武器にするなど山田風太郎の忍法帖シリーズばりの名キャラクターぞろい。幽霊譚に物理学的視点を交えたホラー映画『シルク』(06)で注目を集めた台湾出身のスー・チャオピン監督のオリジナル脚本にジョン・ウー監督が惚れ込み、プロデューサーを買って出た。アクションシーンが多いため、ジョン・ウー監督も演出を手伝い、共同監督というクレジットとなっている。

IMG_4891_.jpg後進の育成にも力を注ぐジョン・
ウー監督。「スー監督は脚本の
オリジナル性が高く、ロマンティ
ックな場面の演出もうまい。嫉妬
を感じた(苦笑)」と評する。

 7月27日、西新宿のパークハイアットのスイートルームを訪ねると、ジョン・ウー監督がニコニコと出迎えてくれた。記者、編集者、カメラマンとそれぞれ両手でがっちりと握手を交わす。なぜ、ジョン・ウー監督は両手で握手するのか? それは、もう片方の手に拳銃や刃物は隠し持っていないよという友好の証なのだ(と思う)。とにもかくにも、世界を股に掛ける巨匠のこのフレンドリーさに、ジョン・ウー信者はさらに心を鷲掴みされるわけですよ。

 『レイン・オブ・アサシン』では、ジョン・ウー監督のハリウッドでの代表作『フェイス/オフ』(97)を彷彿させるヒロインの顔の整形手術シーンがある。脚本を書いたスー・チャオピン監督によると「意識したわけではありません。でも無意識のうちにジョン・ウー作品の影響が出たのかもしれませんね」とのこと。隣に座っていたジョン・ウー監督は「この作品のテーマは”人生のやり直し”。顔を変えることが重要なのではなく、新しい人と出会うことで新しい人生を切り開いていくことが大切なんです」と言葉を繋ぐ。ビンボーな少年時代にメゲず、香港映画界で名を挙げ、さらにハリウッドでヒットメーカーになったジョン・ウー大師の言葉だけに説得力あるなぁ。

IMG_4888_.jpg台湾出身の俊英スー・チャオピン
監督。「ハリウッドで挑戦する
よりも、自分は手塚治虫さんのように
多彩な物語を作ること第一に考え
たい」と話す。

 人生のやり直しがテーマの本作。”人生のやり直し”願望があるのかという質問に対して、両監督はこう語った。

ジョン「今のままで大丈夫。自分の顔も性格も気に入っているので、変えなくていいと思います(笑)。今の自分は好きなことができ、良き仲間と出会えているから、不満はありません。でも、あまりにも映画が好きなもので、『あぁ、もし自分が日本人だったら、黒澤明監督に弟子入りしたのに』とか『あぁ、自分がフランス人だったら、ヌーベルバーグの巨匠たちの助監督に就いたのに』など考えたことはあります。ずっと若いころのことですよ(笑)」

スー「実は私は29歳までエンジニアの仕事をしていました。でも、どうしても映画の仕事がしたくて、30歳になる直前に仕事を辞め、映画界に飛び込んだんです。たまに以前の職場の同僚や先輩に会うことがありますが、『自分のやりたいことを若い頃にやっておけば良かった……』と愚痴っぽいことを聞くこともあります。とはいっても、新しい世界に飛び込むのは勇気がいること。たまたま自分はラッキーで、いい出会いが続いたように思いますね」

rain01.jpg『グリーン・ディスティニー』(00)のミシェ
ル・ヨー姐さんが活躍するソードアクション
大作。中国、韓国、台湾、香港から豪華アジア
ンスターが集結!

 お2人とも、出会いを大切にして人生を切り開き、運命をつかみ取ってきたということですな。

 黒澤明の弟子になるという夢は果たせなかったジョン・ウー監督だが、「日本映画を撮るチャンスなら、これからありますよね?」と問い掛けると、大きくうなずいてみせた。

ジョン「今、2つの企画が進んでいます。今朝もスタッフとその打ち合わせをしていたんです。ひとつは武士道がテーマで、もうひとつは現代劇になりそうです。私は米国でも映画を撮ってきましたが、違う文化の国でその国の人たちと一緒に仕事をすることで、その国の文化や新しい仲間たちのことを理解するようにしているんです」

rain02.jpg台湾版『花より男子』でヒロインを演じたバー
ビー・スーが妖艶な女殺し屋に。他人が持って
いるものは何でも欲しくなる困ったちゃんだ。

 ジョン・ウー監督は『レッドクリフ』の前後にもハリウッドからカムバックコールが寄せられていたが、『レイン・オブ・アサシン』を優先させるためハリウッドのオファーは断ったそうだ。有望な後進のためにひと肌脱ぐとは、ジョン・ウー監督らしいではないか。今回、資金集めや撮影外のトラブル処理はすべてジョン・ウー監督が引き受けてくれたことに、24歳年下のスー・チャオピン監督は感謝しているのだった。両監督の間にも『男たちの挽歌』のマークとホーのような男の友情が芽生えているらしい。ジョン・ウー監督、ぜひ日本映画界にもその男気をもたらしてください!

 今回はスー・チャオピン監督のアシストに回ったジョン・ウー監督だが、数少ない演出シーンは、娘のアンジェルス・ウーが登場する殺陣シーン。アンジェルスは映画監督になることを目指しており、そのために俳優体験を申し出たとのこと。

ジョン「本当は演出はやりたくなかったんですが、スー監督が3つの現場を同時に撮影しなくてはならなかったため、私も手伝うことになったんです。娘の前で私はひどく緊張してしまい、うまくそのシーンの演出を説明できませんでした(苦笑)。またワイヤーワークを使うため、娘が事故に遭わないか心配で心配でスタッフに『絶対に大丈夫か?』と何度も聞き直しながら、現場をウロウロしていました。娘は私に現場にいて欲しくなかったようです(笑)」

rain0.jpg殺し屋たちとの戦いで重傷を負ったヒロイン
に代わって、年下の夫(チョン・ウソン)
が応戦。でも、殺し屋が現われてから刀を
磨ぎ始めるのんびり屋さん。

 香港時代は仕事に追われて家庭にほとんど帰ることがなく、子どもたちに父親らしいことができなかったことをジョン・ウー監督は猛省しており、子どもの前では無条件で親バカになってしまうのだ。アクション映画の巨匠の人間臭い一面ですな。顔が父親似のアンジェルス・ウーは序盤にあっけなく殺される賞金稼ぎ役で登場するのでお見逃しなく。

 最後は、スー・チャオピン監督がジョン・ウー監督の素顔をこのように評した。

スー「ジョン・ウー監督が現場でイライラしているところは見たことがありません。いつも笑顔で見守ってくれました。今回、彼と一緒に仕事をすることでいろいろと学ばせてもらいましたが、いちばんの収穫はテクニック的なことよりメンタル面についてです。ジョン・ウー作品には”義”を重んじる情の深い人物が描かれますが、実際の本人がそうなんです。映画には監督の人柄がそのまま現われるということを実感しました」

rain03.jpg霊験あらたかな達磨大師のミイラを巡って、
殺し屋たちは争奪戦を繰り広げる。ジョン
・ウー作品に付き物の白い鳩の代わりに、白い
小鳥が出てきます。

 最後の写真撮影もジョン・ウー監督はサービス精神旺盛に応えてくれたことは言うまでもない。巨匠との接見時間は、あっという間に過ぎていった。

 『レイン・オブ・アサシン』の魅力は、ハリウッド的な軽快なストーリー展開と洗練されたアクションシーンに加え、主人公の夫婦が過去のわだかまりを捨てて、新しい絆を築いていくというアジア的な”和の心”が根底に据えてある点だ。殺し屋たちが戦いの中で、武力だけでは自分の求めているものは手に入らないことに次第に気づいていく、繊細な内面描写もハリウッド娯楽大作ではお目にかかれないもの。ハリウッド帰りのジョン・ウー監督が、手塚治虫の伝奇アクション『三つ目が通る』などを愛読していたというスー・チャオピン監督のユニークな発想力をうまく生かした作品といえそうだ。また、ジョン・ウー監督による日本映画の行方も気になるところ。国境を越えて活躍する”男気の伝道師”ジョン・ウーの行くところ、男気の花が咲く!
(取材・文=長野辰次)

『レイン・オブ・アサシン』
監督/スー・チャオピン、ジョン・ウー 製作/ジョン・ウー、テレンス・チャン 脚本/スー・チャオピン 衣装/ワダ・エミ 出演/ミシェル・ヨー、チョン・ウソン、ワン・シュエチー、バービー・スー、ショーン・ユー、ケリー・リン、レオン・ダイ、グオ・チャオドン、ジャン・イーイェン、パオ・ヘイチン、ペース・ウー、リー・ゾンファン、アンジェルス・ウー 配給/ブロードメディア・スタジオ、カルチュア・パブリッシャーズ 8月27日(土)より新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
<http://www.reignassassins.com>

●ジョン・ウー
1946年中国・広州生まれ、香港出身。ジャッキー・チェン出演作『カラテ愚連隊』(73)で監督デビューする一方、コメディ映画『Mr.BOO!』シリーズのスタッフとしてキャリアを重ねる。チョウ・ユンファ主演『男たちの挽歌』(86)が大ヒット。『男たちの挽歌II』(87)、『狼 男たちの挽歌・最終章』(89)、『ハードボイルド 新・男たちの挽歌』(91)と連発し、香港ノワールなるジャンルを築く。ハリウッドに進出し、『ハード・ターゲット』(93)、『ブロークン・アロー』(96)を発表。さらにニコラス・ケイジ主演『フェイス/オフ』(97)、トム・クルーズ主演『M:I-2』(00)も大ヒットさせる。『レッドクリフPartI』(08)、『レッドクリフPartII 未来への最終決戦』(09)も関係者の予想を遥かに上回る興収結果を残した。二丁拳銃(武侠ものの場合は二刀流)をはじめとするスタイリッシュなアクションシーンから、”バイオレンスの詩人”と呼ばれる。早乙女愛が出演した『南京1937』(95)では製作を手掛けた。

●スー・チャオピン
1970年台湾生まれ。水野美紀主演『現実の続き 夢の終わり』(00)、宮沢りえ主演『運転手の恋』(00)、ホラーオムニバス『THREE/臨死』(02)の最終話『GOING HOME』などの脚本を担当。江口洋介主演のホラーサスペンス『シルク』(06)では脚本&監督を手掛け、台湾金馬賞の最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀オリジナル脚本賞にノミネート、最優秀視覚効果賞を受賞し、注目を集めた。映像作家として、『ブラック・ジャック』をはじめとする手塚治虫の漫画から大きな影響を受けたと語る。

狼/男たちの挽歌・最終章 [DVD]

ジョン・ウーと言えば。

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最終更新:2013/09/11 18:57
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