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 >   > 黒坂圭太『緑子/MIDORI-KO』×山村浩二『マイブリッジの糸』 公開記念対談(後編)
インディペンデント・アニメーションの鬼才二人が対決!

黒坂圭太『緑子/MIDORI-KO』×山村浩二『マイブリッジの糸』 公開記念対談(後編)

midorikotop02.jpg黒坂圭太監督(左)と山村浩二監督(右)

前編はこちらから

■タルコフスキーの『ストーカー』

黒坂 TSUTAYA渋谷店のPFF(ぴあフィルムフェスティバル)ブースで、8月から10月まで、山村さんと僕のおすすめが10本ずつ紹介されることになったんですよね。山村さんの方が先に原稿を入れていたので、タイトルがかぶると良くないかなと思ってPFFの担当者にうかがったら、ものの見事にかぶっていませんと。ただ1本だけ二人とも押している映画があって、それがタルコフスキーの『ストーカー』だったんです。

山村 そうなんですか。僕の普段のベストならカール・ドライヤーや小津、加藤泰、ムルナウなんかが入ってくるんですが、今回は一般の人に向けてなので、”映画のうそに魅せられて”というサブタイトルをつけて映画の虚構性に自覚的な作品を選んだんです。『プレイタイム』(ジャック・タチ)と、ブニュエルの『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』、本当はブニュエルなら『皆殺しの天使』を入れたかったんですがレンタルになかったので。それから『アメリカの友人』(ヴィム・ヴェンダース)とオーソン・ウェルズの『フェイク』、鈴木清順の『ツィゴイネルワイゼン』、タルコフスキーが入って、カレル・ゼーマンの『盗まれた飛行船』、『カメレオンマン』(ウディ・アレン)、『シェルブールの雨傘』(ジャック・ドゥミ)、それからフェリー二の『8 1/2』(はっかにぶんのいち)です。黒坂さんは他には何を入れたんですか?

黒坂 ヤン・シュヴァンクマイエルの『オテサーネク』、塚本晋也の『東京フィスト』、近藤喜文の『耳をすませば』、パトリック・ボカノウスキーの『天使』、デヴィッド・リンチの『イレイザーヘッド』、そして『ストーカー』に、松本俊夫の『修羅』、それにセシル・B・デミルの『十戒』、ロナルド・ニームの『クリスマスキャロル』、最後は映画初体験として大映の『大魔神』(安田公義)ですね。特に『ストーカー』は本当に素晴らしい作品なのに意外と若い人たちが見てないので再び注目してほしいという願いを込めて選びました。

山村 『ストーカー』は実は迷ったんですよ。タルコフスキーの中で好きなのは、もうちょっと古い『アンドレイ・ルブリョフ』のあたりなんですけど、いろんなものを映し込もうとしてるのに、そこには映り込まない何かが漂っていて、気が周りに満ちているような映画だなというところで選びました。タルコフスキーの中でも、役者の表情の撮り方に惹き付けられた映画です。個人的な思い出話ですが、エストニアに行った時、マッティ・キュットというアニメーターがロケ地を案内してくれたんですよ。彼がストーカーになって(笑)、廃工場は進入禁止なんですが、そうっと入り込んで、これはストーカー体験を追体験している! って喜んだ思い出があります。

midorikosub.jpg『緑子/MIDORI-KO』より

黒坂 僕は『ストーカー』はベスト1にしてもいいくらいです。劇映画の形式でここまで風景に、例えば水や火や土といったものに、命が吹き込まれたような映画は初めてで、まさに風景こそが主役と思ったんです。人間は「風景の視線」から観察の対象として描かれている。アニメーションという言葉の語源がアニミズム、つまり命を吹き込む意味だとすると、コマ撮りしているかどうかに関係なく、これこそ究極のアニメーションではないかと。そういう見方をすれば、この映画は”キャラクター”が本当に豊かで、ほとばしる水しぶきとか、水たまりの中に沈んでいるイコンのレプリカみたいなやつとか、壊れた注射器とか、そんなものたちがやたらとおちゃめで愛らしく感じられるんですね。

■先生と呼ばれたくない

黒坂 山村さんは非常に勤勉で、毎日起きる時間が決まっていて、1日の仕事量も決めてピタっと終わらせるそうですが。あまりに自分と対照的なので、どうやったらモチベーションが持続できるかお聞きしたいです。

山村 多分、締め切りを破る度胸がないんだと思います(笑)。アニメーションって、あとで焦っても取り返しがつかないじゃないですか。それを経験上よく分かっていますし、そのためには日々、積み重ねてゆくしかない。やっぱりクオリティーを上げるために、1枚でもいい絵を多く描かなきゃっていう思いはあって、コツコツやるしかないなと。黒坂さんは、やっぱり夜型ですか? 

黒坂 乗ってくると朝も夜もぶっ続けで、トイレの中でもどこでもやっちゃうし、逆にテンションが低いと、ギリギリまで手を付けないタイプなので、本当にお恥ずかしい限りです(笑)。山村さんは、ホームページもご自身で運営されているんですよね?

山村 はい、全部自分でやってます。アニメーションズのホームページもやってますしアニメーションズ・フェステバルの公式ホームページも僕が作ってます。マメなんです!(笑)

黒坂 大学教授の仕事と、ご自分のプロダクションの社長業もやっていらして、よく制作する時間があるなと本当に感心します。僕も教職と作品づくりで二足のわらじなんですけれど、悲しいことに事務処理能力がゼロに近いんです。

muybridges-sub.jpg『マイブリッジの糸』より
(c)National Film Board of Canada /
NHK / Polygon Pictures

山村 絵を描いている人はそれが普通ですよ。だから絵を描くんですよね。僕の方が変わってるんだと思います。資金繰りなどいろいろ苦労した時期はもちろんありましたが、あくまで現場で作っている人間でいることをポリシーにしています。作家であることが一番のスタンスだし、大学で教えていますけど、先生と呼ばれたくないんです。勤勉に朝起きるのも、社会的な仕事をきっちりこなしながら、絵を描く時間をどう確保するかを常に考えて必死でやっているからです。

黒坂 「先生と呼ばれたくない」というのは、とても共感します。僕は”後進の育成”という言い方が大嫌いなんですよ(笑)。それって、もう自分自身が進むことは放棄して偉そうにアグラかいてる人みたいじゃないですか。もし僕が生徒の立場で、そういう人から”育成”されたら凄く嫌だなーと思うので(笑)。今回TSUTAYAのPFFブースでおすすめ映画の一本に入れた『東京フィスト』は、崖っぷちに立っているボクサーが、草食系へなちょこサラリーマンをパワフルに鍛え上げてから、最後にそいつをボコボコにすることで自分のアイデンティティを再確認するという話なんです。モノ創りの現場で教えている以上は、いつも生徒相手に本気で闘争心を燃やせるような緊張関係がないと、つまらないですよね。

山村 僕も逆にライバルを作るつもりで教えています。自分を打ちのめすような人が出てきてくれないと、面白くないですから。それに負けじと自分も進んでいけますからね。
(取材=鎌田英嗣、写真=駒井憲嗣)

●くろさか・けいた
1985年『変形作品第2番』がPFF入選。『海の唄』『みみず物語』『個人都市』などの短編映画を次々と発表。手がけた作品は数多くの映画祭や美術館で上映されている。代表作のMTVステーションID『パパが飛んだ朝』(1997)は、アヌシー、オタワの二大アニメ映画祭をはじめ数々の国際賞に輝き、世界中で放映された。一方、Dir en greyのPV『Agitated Screams of Maggots』(2006)は、あまりの背徳的過激さから賛否両論を巻き起こし、テレビやDVDで修正を余儀なくされた。近年では即興アニメとペインティングによるライブ・パフォーマンスも行っている。武蔵野美術大学 映像学科教授。

『緑子/MIDORI-KO』
20XX年、東京。謎の光によって生み落とされたヒトとヘチマの合体生物”MIDORI-KO”は意志を持ち喰われることを恐れ逃げ出した。よってたかって”MIDORI-KO”を襲う人間たち、逃げ惑う”MIDORI-KO”。欲望丸出しの滑稽で奇妙な争奪戦の果てに訪れる世界とは? 繊細な線と線の戯れ。色と色が折り重なる独特の美しさとグロテスクさ。色鉛筆一本で描かれた幻想的で摩訶不思議な世界観は、ユーリ・ノルシュテイン、ウィリアム・ケントリッジなど緻密で繊細な描写で知られる世界のドローイングアニメーションの巨匠たちに匹敵する画力と構成力を持つ。エンディングに流れる曲は芥川賞作家・川上未映子のオリジナル曲『麒麟児の世界』。
9月24日(土)より、渋谷アップリンクXはじめ、全国順次公開。
映画公式サイト<http://www.midori-ko.com//> 

●やまむら・こうじ
1964年生まれ。東京造形大学卒業。90年代『カロとピヨブプト』『パクシ』など子どものためのアニメーションを多彩な技法で制作。02年『頭山』がアヌシー、ザグレブをはじめ世界の主要なアニメーション映画祭で6つのグランプリを受賞。これまで国際的な受賞は60を超える。10年文化庁・文化交流使としてカナダで活動。11年カナダ国立映画制作庁との共同制作で『マイブリッジの糸』が完成。『くだものだもの』『おやおや、おやさい』(共に福音館書店)など絵本画家、イラストレーターとしても活躍。DVD作品集は日本、フランス、北米で発売されている。東京藝術大学大学院映像研究科教授。

『マイブリッジの糸』
時間を止めることはできるだろうか? 時間を反転することは? 映画の発明に大きなインスピレーションを与えた 写真家エドワード・マイブリッジと、母と娘のもうひとつの物語が、時空を超えて織りなす映像詩。カリフォルニアと東京、19世紀と21世紀を往き交いながら、マイブリッジの波乱に満ちた人生に焦点を当て、一方では母親のシュールな白日夢を紡いでいる――それは、人生の過ぎ去る一瞬をとらえたい、幸福の瞬間を凍結したいという、人間の飽くなき欲望を探る、私的な対位法である。サウンドデザインの巨匠、ノルマン・ロジェにより音の世界に彩られ、J.S.バッハ作の透明な音色の上に浮遊する「瞬間」と「永遠」を体感させてくれる。
9月17日(土)より、東京都写真美術館にて3週間限定公開。
映画公式サイト<http://www.muybridges-strings.com/>

ヤン・シュヴァンクマイエル コンプリート・ボックス

摩訶不思議。

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