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自分の権利を確保した上での「非親告罪化」はズルい!

TPPでもくろまれるアメリカ文化による世界支配の野望

 いまや国民的議論となりつつあるTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)。著作権法の非親告罪化などの要求によって「同人文化の危機」だと捉える向きもある。そもそも、こんな要求を突き付けるアメリカの著作権法はどんな論理で成り立っているのか? 今月25日、「表現の自由」をテーマに講演活動などを行う「うぐいすリボン」主催で、児童ポルノ法改定問題での「ぜひ、私を逮捕しに来て」といった発言で注目される法政大学社会学部准教授の白田秀彰氏が「表現の自由と知的財産権の衝突 ~違法DL処罰化と著作権侵害非親告罪化を考える~」を行った。

 「今日は、みなさん講演タイトルを見てACTA(模倣品・海賊版拡散防止条約)やTPPのことを話されると想定したかと思いますが、そうではありません」と始まった講演は、「著作権が権利ではない」と、いきなり結論を述べるところからスタートした。白田氏は、まず法学の2つの流れである英米法と大陸法の概念を語りアメリカが今や世界でも数少ない英米法に基づく著作権制度を持つ国であることを解説していった。

 平易に述べるならば、大陸法は権利を「人間が生まれながらに持っているもの」と考える。対して英米法では「個人が実力で勝ち取るもの」と考える。

 そもそも、大陸法は古代ローマで生まれ発展してきたもので、人間は生まれながらにしてさまざまな権利を持っているということを前提にして考える。この場合、著作権とは個人が頭脳の労働によって生産する、最も本質的な所有権の対象であると解釈される。対して、英米法はゲルマン法の流れから発展してきたもの。ここでは、個人の権利は暴力によって確保されるものであるという前提がある。いわば相互に「おまえのものはオレのもの、オレのものもオレのもの」を主張し合うわけだ。もちろん、それでは暴力の応酬が収まらないので、それを解決する手段として、話し合いで協定を結ぶ。あるいは、最大の暴力装置であるところの王様や国家に頼んでルールを決めてもらうことが、歴史的に行われてきた。著作権も歴史をたどると、イギリスにおいて出版業者のギルドが、ギルド外の業者が勝手に本を印刷されて出版されては自分たちの儲けが減ってしまうので、自分たちの利益を確保できるルールを作ってくれと王様に請願したのが始まりだ。こうした歴史的経緯の結果として、英米法を採用する国では「これは、オレの権利だ!」と主張しなければ権利はないものとみなすのが前提となる。著作権においても、権利を主張するか否かが、重要な点となるわけだ。

 その結果、日本とアメリカでは著作権の概念がかなり異なる。日本では、企業が商業目的で製作したものでも、個人が趣味で作ったものでも、なんでも著作権が発生することになる。対してアメリカでは、著作権はかなり限定的な権利だ。まず、著作権侵害があり訴訟を行おうとすれば、前提として著作権を連邦著作権局に登録していなければ、認められない。つまり、日本のように同人漫画家がpixivのような画像投稿サイトにアップロードしているだけだとしたら、それを勝手に利用してもすぐに著作権侵害となるとは限らないというわけだ。また、同一性の保持に関しても「名誉声望を損なう」場合に限定しているので、ネットに上がっている写真をイラストを描くときにトレースしたとしても、日本のように「著作権を侵害している」と騒がれることもないわけだ。加えて、他人の著作物を利用するときのフェアユース規定もしっかりと定められている。ほかにも、非営利の教育機関や宗教上の慈善目的で実演や演奏も認められているので、こうした場で映画を流したり、他人の楽曲を歌っても構わない。つまり、ディズニーを筆頭にアメリカは著作権の管理に厳しいと思われがちだが、実はかなり自由利用できる範囲も広いというわけだ。「この著作物の権利はウチのものだ」「いや、私には自由に利用する権利がある」といった権利の対立を繰り返しながらルールを定めてきた結果といえるだろう。

■結局はアメリカ一人勝ちの要求に過ぎない

 さて、TPPにおいて、アメリカがダウンロード違法化の拡大、非親告罪化、法定損害賠償といった要求を突き付けているのは既に知られている通りだ。実は、アメリカのような著作権の法制度であれば、これらの要求を実施しても痛くもかゆくもない。アメリカにおいて違法なダウンロードやアップロードの取締り対象となり、高額な賠償金が課されている事例は、連邦著作権局に登録済みの商業作品くらい。非親告罪化についても、そもそも著作権が連邦著作権局に登録済みの作品に限定されるので、過剰規制にはなりにくい。アメリカは著作権によって萎縮効果や過剰保護の発生しにくい制度設計を行っているわけだ。ところが、非親告罪化などを要求する一方で「我が国の制度に変えれば問題ないですよ」とアナウンスしているとは聞かない。

「アメリカは著作権法の強化から生じる国内への萎縮効果は少ない。にもかかわらず、他国には萎縮効果を発揮しうる要求を行っている。その背景には何があるか、皆さんはおわかりのはず」

 という白田氏の指摘は的確だ。この日の講演は、表題の通り著作権と表現の自由の関係性を中心に3時間にわたって行われた。内容の全貌は、主催者からの発表を待ちたい。

TPP亡国論

お先真っ暗?

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最終更新:2013/09/09 13:20
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