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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.337

女優・大島優子はビンボーキャラがよく似合う! 20代後半を迎えた女の半端な生き辛さ『ロマンス』

romance01wb100点満点の営業スマイルを浮かべる小田急ロマンスカーのアテンダント・鉢子(大島優子)。仕事はできるが、心は満たされないままだった。

 大島優子はビンボーな役がよく似合う。ただビンボーくさいだけの女なら誰も振り向かないが、シビアな環境に身を置きながらも懸命に抗う姿に魅力を感じさせる。劇場版『闇金ウシジマくん』(12)ではパチンコ三昧の母親の借金を肩代わりするために出会いカフェに通う健気に歪んだ女の子、『紙の月』(14)ではいかにも明るい現代っ子のふりをしたお金と男にこすからい銀行の窓口係を好演した。AKB48時代にエースの座を競った前田敦子が今年公開された『さよなら歌舞伎町』と『イニシエーション・ラブ』でふわふわと浮ついた、お股のゆるいビッチキャラを演じていたのとは対称的に、生活感のあるキャラクターを得意としている。

 AKB時代に白石晃士監督の都市伝説をモチーフにしたホラー映画『テケテケ』(09)に主演していた大島優子だが、AKB卒業後初となる映画主演作がタナダユキ監督の『ロマンス』だ。小田急線を走るちょっとリッチな特急列車ロマンスカーのアテンダントとして、制服姿でテキパキと働く。生活感のある大島優子はタナダユキ作品にぴたりとハマる。タナダユキ監督はお金にうるさい女子を生き生きと描く。蒼井優がブレイクした『百万円と苦虫女』(08)はバイト先を転々としながら100万円貯めることに異様な情熱を燃やす女の子のロードムービーだった。『赤い文化住宅の初子』(07)は集合住宅で兄と2人きりで暮らす女子中学生のビンボーサバイバル物語だった。タナダユキ作品のヒロインたちは、お金が喉から手が出るほど欲しいのにお金のことを憎んでいる、そんな相反する感情を抱えて生きてきた。タナダユキ監督にとって『百万円──』以来となるオリジナル作『ロマンス』では、お金の代わりに家族がキーワードとなっている。

 電車はいい。目的地があって、帰ってくる場所がある。迷いがない。でも私は迷ってばかりだ──。『ロマンス』は主人公・鉢子(大島優子)のそんなモノローグで始まる。新宿-箱根湯本間を往復するロマンスカーのアテンダントとして甲斐がいしく働く鉢子だが、ずっと会っていない母親・頼子(西牟田恵)に対するネガティブな記憶がそうさせている。団地で母親と2人きりで暮らしていた少女時代、鉢子は暗い思い出しか持ち合わせていない。父親と別れた後の母親は、男性関係にとてもルーズに鉢子の目には映っていた。母親のような、だらしない女にはなりたくない。それゆえに鉢子はマジメに働く。頼りない職場の後輩・美千代(野嵜好美)のフォローも欠かせない。休憩中に「いい加減、仕事に慣れようよ」と美千代にキツい小言も浴びせるが、「この仕事向いてないから、辞めちゃえば」とまでは口にしない。今は営業成績のよい鉢子だが、いつまでこの成績をキープできるか分からない。与えられた仕事にはベストを尽くすが、どこか根なし草のような不安感が拭いきれない。同棲中の男(窪田正孝)がいるが、とても曖昧な関係だ。日々感じる不安を忘れたくて、鉢子は懸命に働き、営業スマイルに磨きを掛ける。

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