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日本映画に豊かさをもたらしたものは一体何か? 『この世界の片隅に』ほか2016年の話題作を回顧

日本映画に豊かさをもたらしたものは一体何か? 『この世界の片隅に』ほか2016年の話題作を回顧興収8億円を越えるロングランヒットとなった『この世界の片隅に』。年明け1月7日からは全国150館での拡大公開が予定されている。

 豊作と言われる2016年の日本映画界だが、その豊作をもたらした土壌について考えると複雑な感情を抱かずにはいられない。興収80億円を越える大ヒットとなった『シン・ゴジラ』、邦画の歴代興収2位となる200億円を越え、さらに記録更新中の『君の名は。』に加え、単館系での公開ながらロングランヒットが続く『この世界の片隅に』の3本を2016年を代表する日本映画として思い浮かべる人は多いはずだが、かつてない大災害に直面した主人公たちが不測の事態にどう対処するかを描いていることでこの3作品は共通している。

 シリーズ第1作『ゴジラ』(54)に登場した怪獣ゴジラは核兵器に対する恐怖のメタファーとして描かれたが、庵野秀明総監督がリブートした『シン・ゴジラ』はメルトダウン化して制御不能状態に陥った核エネルギーの化身として首都圏を蹂躙した。日本が誇る科学力・技術力によってゴジラを凍結させることには成功するが、ゴジラ=廃炉化が決まった原発もしくは核廃棄物を完全に処理できないままドラマは終わりを迎える。生き残った矢口(長谷川博己)らに残された課題は相当に大きい。『君の名は。』は新海誠監督の定番である男女のすれ違いファンタジーだが、東京で暮らしている高校生・瀧(声:神木隆之介)は夢の中で体が入れ替わっていた女子高生・三葉(声:上白石萌音)が暮らしている町がすでに天災によって消滅していたことを知る。もしもタイムトリップが可能ならば、5年前に起きたあの大震災に対して自分は何かできたのだろうか。『君の名は。』がファンタジーとして感動的であればあるほど、震災に対して何もできなかった自分の無力さを思い知らされる。被災地に対して、多くの人が感じた“後ろめたさ”や“無力感”が産み落としたあまりにも哀しいファンタジーに感じられた。

 苦労人・片渕素直監督にとって初めてのヒット作となった『この世界の片隅に』は2010年から企画が動き始めた作品だが、能年玲奈あらため“のん”演じる主人公のすずが体験する太平洋戦争を東日本大震災と重ねて観る人も少なくないだろう。広島で生まれ育ったすずは日本がなぜ戦争をしているのかを深く考えることなく、嫁ぎ先の呉での家事に追われることになる。乏しい食料事情の中、すずは明るく健気に振るまい、嫁入りした北條家の人々と心を通わせるようになるが、やがて1945年の夏が訪れ、すずが大切にしていた平凡な日常はあっけなく崩壊してしまう。『この世界の片隅に』は片渕監督が「100年後にも伝えたい」という想いを込めて完成させた作品ゆえに、短絡的に3.11に結びつけることは憚れるが、自分が置かれている社会状況に無自覚でいることの恐ろしさを我々に突き付ける。

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