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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.442

是枝監督の新作さえも侵蝕する黒沢清ワールド! 長澤まさみが観音菩薩化する『散歩する侵略者』

是枝監督の新作さえも侵蝕する黒沢清ワールド! 長澤まさみが観音菩薩化する『散歩する侵略者』の画像1黒沢清監督のSFサスペンス『散歩する侵略者』。長澤まさみ、松田龍平、長谷川博己ら黒沢作品初参加組が人類滅亡の危機を救う!?

 家の中に赤の他人がいる。かなり不気味なシチュエーションである。ただし、その他人との間に婚姻届が交わされていれば、他人同士は夫婦として世間から認められた当たり前の光景となる。でも、ときどき妻(夫)もしくは同棲中の恋人が、まったく見も知らぬ他人に感じる瞬間はないだろうか。紅茶に入れた角砂糖が溶け出していくように、当たり前だと思っていた日常風景が少しずつ壊れていき、やがては世界全体が崩壊へと向かっていく。黒沢清監督の最新作『散歩する侵略者』は、ありきたりな夫婦の関係の変化から世界の滅亡が始まるスケールの大きなSFサスペンスとなっている。

 劇団イキウメを主宰する前川知大の同名舞台を原作にした『散歩する侵略者』だが、映画版は黒沢清監督のカラーが強く滲み出た集大成的な作品である。すでに壊れてしまった夫婦が旅に出ることで再生を目指すというストーリーラインは、浅野忠信&深津絵里主演の『岸辺の旅』(15)を思わせる。世界が滅亡へと向かう恐怖は『回路』(00)、侵略者による容赦ないバイオレンスは『クリーピー 偽りの隣人』(16)を連想させる。サスペンスなのかコメディなのか、油断ならないドラマ運びは『ドッペルゲンガー』(03)や『トウキョウソナタ』(08)っぽくもある。長澤まさみ、松田龍平、長谷川博己ら黒沢清監督作品に初出演するメインキャストたちは、日常生活から秩序が失われていくアンバランスな黒沢ワールドで右往左往するはめに陥る。

是枝監督の新作さえも侵蝕する黒沢清ワールド! 長澤まさみが観音菩薩化する『散歩する侵略者』の画像2宇宙人に意識を操られている真ちゃん(松田龍平)。散歩中に出会った人たちから、次々と概念を奪っていく。

 東京から離れた静かな地方都市で、鳴海(長澤まさみ)と真治(松田龍平)の夫婦は一軒屋で暮らしている。すでに夫婦間には、すきま風がビュービューと吹いている状態。鳴海から「真ちゃん」と呼ばれる夫は勤務先の年下の同僚と浮気しており、在宅でイラストの仕事をしている鳴海は締め切りに追われ、夫の浮気に気づかないふりをしている。よくある夫婦だった。そんな形骸化した夫婦関係を木っ端みじんに吹き飛ばす事件が起きる。3日間にわたって音信不通状態だった真治が病院で保護されるが、まったくの別人となっていた。見た目は以前と変わらないが、一般常識が欠落した明らかに異なる人物だった。一時的な記憶喪失だろうということで、鳴海は真ちゃんを自宅に連れ帰り、仕事をしながら介抱することになる。

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