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お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第19回

結婚会見に垣間見た芸人・劇団ひとりの「フェイクとリアル」

gekidannhitori.jpg『劇団ひとり 夢空間 1DK ~One Dream
Keeper~』/ポニーキャニオン

 ベストセラー小説『陰日向に咲く』は映画にもなり、テレビでもますます活躍の場を広げている人気芸人・劇団ひとり。いまや彼の名前を知らない人はいない。だが、「劇団ひとり」という固有名詞が一人歩きするにつれて、彼が「劇団」を名乗っていることの意味は少しずつ忘れられているような気がする。

 もともとひとりは、その卓越した人間観察眼と演技力で、人間の情けない部分を丹念に描く1人コントを得意としていた。彼の作風の特徴は、キャラクターを演じる際に、何らかの具体的な人物像を外部から模倣するのではなく、人物の内面に入り込み、それをそのまま生きることによってコントを成立させる、ということだ。

 例えば、『都会のナポレオン』『都会のシェイクスピア』という2本のDVDでは、ひとりが何人かの決まった役柄を演じるショートコントとともに、それらのキャラクターが日常生活をどのように送っているのかを密着取材したという設定のフェイクドキュメンタリーが挿入されている。しかもこの内容が、本編のコントに匹敵するほど面白い。彼はたった4、5分のコントを演じるためにも、そのキャラクターの人生を背後に思い描いているのである。

 ちなみに、彼の処女小説『陰日向に咲く』も同じ仕組みで構成されている。全部で5つの短編から成り、それぞれが別々の主人公の一人称で語られる。キャラクターの内面に入り込む彼の作風は、本質的に「一人称の芸」なのである。

 ひとりは自分の中に複数のキャラクターを抱えていて、好きなときに自由に引っ張り出して演じることができる。彼がたった1人で「劇団」を名乗っているのはそういうことを意味している。

 最新DVD『劇団ひとり 夢空間 1DK ~One Dream Keeper~』では、自分以外の人間と共演するという変則的な形で、今までの方法論が繰り返されている。ここでは、劇団ひとりがトーク番組のMCを務めて、津田寛治、星野真里、船木誠勝という面々がゲストとして訪れて楽しいおしゃべりを繰り広げる。一見するとごく普通のトーク番組だが、じっくり見ていると少しずつ「何かが変だ」と感じずにはいられなくなる。

 会話はどこか噛み合わず、ゲストはひとりに対してリアクションしづらい発言を連発する。これはすなわち、フェイクドキュメンタリーの形式で作られた「フェイクトーク番組」である。ゲストの発言ももちろんひとりの脚本によるものだ。ここでの彼は、自分以外の人物を「劇団」に巻き込んでしまうことで、新たな境地を切り開いている。

 2月16日、劇団ひとりは大沢あかねとの結婚を発表した。なかなか素の自分を見せない彼がいつになく真剣に受け答えをしている記者会見の模様は、何かのコントみたいにも見えた。

ひとり「(子供は何人欲しいかと聞かれて)7、8人は欲しいです」
記者「劇団7、8人?」
ひとり「ああ、いいですね……劇団7、8人ってどういうことですか!(笑)」

 このわざとらしいノリツッコミも、どこか芝居がかっているように感じられてしまう。少し気の利いた記者の質問さえも、ひとりの書いた脚本の一部に見えてくる。

 この状況を理解するためには、「芸人・劇団ひとり」が「人間・劇団ひとり」というキャラクターを演じているのだ、と考えるのがいちばんふさわしいのかもしれない。芸人・劇団ひとりの手にかかれば、結婚を決めた「素の自分」でさえも、演じるべきキャラクターの1つとして取り込まれてしまうのだ。
(お笑い評論家/ラリー遠田)

●「この芸人を見よ!」書籍化のお知らせ

日刊サイゾーで連載されている、お笑い評論家・ラリー遠田の「この芸人を見よ!」が本になります。ビートたけし、明石家さんま、タモリら大御所から、オリエンタル・ラジオ、はんにゃ、ジャルジャルなどの超若手まで、鋭い批評眼と深すぎる”お笑い愛”で綴られたコラムを全編加筆修正。さらに、「ゼロ年代のお笑い史」を総決算したり、今年で9回目を迎える「M-1グランプリ」の進化を徹底的に分析したりと、盛りだくさんの内容になります。発売は2009年11月下旬予定。ご期待ください。

劇団ひとり 夢空間 1DK ~One Dream Keeper~

フェイクだからこそ、リアル。

amazon_associate_logo.jpg

●連載「この芸人を見よ!」INDEX
【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在
【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは
【第16回】狩野英孝 「レッドカーペットの申し子」の進化するスベリキャラ
【第15回】サンドウィッチマン 「ドラマとしてのM-1」を体現した前王者
【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略
【第13回】U字工事 M-1決勝出場「北関東の星」が急成長を遂げた理由
【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」
【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃
【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力
【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」
【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児
【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」
【第06回】世界のナベアツ 「アホを突き詰める」究極のオリジナリティ
【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」
【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」
【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」
【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」
【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」

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最終更新:2013/02/07 13:00

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