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頭打ちケータイキャリアを救う? ライフログビジネスの可能性とは

it_illu0906_4.jpg私よりも私のことを知っている―
携帯可能な”執事”が生活を変える?

 ついにビジネスとして実現し始めた「ライフログ」。ユーザーの生活のログを取り、情報を配信するこのサービスが、伸びしろを失ってきたケータイキャリアを救う可能性を持つという。ただし、そこには「プライバシーの侵害」というデリケートな問題も……。

 ライフログという言葉が、これからIT業界の流行語になっていきそうな雲行きだ。「ライフログサミット」という日経BP主催のイベントが初めて開催され、またテレビの経済番組でも、ライフログを扱った特集を組むところが現れている。 

 ライフログというのは、直訳すれば「生活(ライフ)の記録(ログ)」。ユーザーの行動を記録していき、その内容を解析して、ユーザーに適切な情報やお勧めを提供しようというビジネスだ。用語としては決して新しいものではない。1990年代にはすでに米マイクロソフトの研究者が、自分が日常生活の中で出会ったすべての情報をハードディスクに蓄積するライフログプロジェクトを行った。日本でも同じ時期、美崎薫氏というプログラマーが自分の人生で出会った人や読んだ本、観たビデオ、見た風景などありとあらゆる体験をデジタル化し、パソコンに蓄積する「記憶する住宅」という実験を行っている。彼がすごいのは、それら蓄積されたデータを「スマートカレンダー」というオリジナルのソフトを使って閲覧できるようにしたことで、このソフト上で過去の特定の日付をクリックすると、その日に撮影した写真や読んだ本の画像イメージ、出会った人の名刺、顔写真などが次々と猛スピードで、パソコンの画面に展開されていく。走馬灯そのものだ。

至れり尽くせり!? ドコモ流ライフログ

 しかし今語られているライフログはそのような哲学的な実験ではなく、あくまでもビジネスである。典型的なライフログはアマゾンのオンライン書店で、何か本を購入すると「この商品を買った人はこんな商品も買っています」とお勧めが表示される。あるいはログインした最初の画面で、「お勧めの商品があります」と、いくつかの書籍が表示される。これはユーザーの「購買履歴」というライフログを収集し、それを解析してお勧めを表示しているのである。

 またNTTドコモは、同社のiモード上で「iコンシェル」というライフログサービスを始めた。これは自分のケータイを執事(コンシェルジュ)のようにして、自分に最適な情報をその都度配信してくれるというものだ。

 このサービスを使うと、次のようなことが可能になる――たとえば近所の店でDVDをレンタルすると、ケータイのスケジューラーに借りたばかりのDVDの返却予定日がいつの間にか入力されている。また、気になるレストランの電話番号をケータイの電話帳に登録すると、情報が補完されて店の名前と住所、営業時間と定休日などのデータをすべて電話帳に自動入力してくれる。あるいは鉄道路線で、いつも利用している最寄り駅からの鉄道運行情報が自動的に配信されてくる――。

 このiコンシェルサービスでは、NTTドコモは以下の4種類のライフログデータを利用している。

①利用者がNTTドコモに登録している住居地
②利用者がケータイに保存している電話帳
③利用者がケータイに保存しているスケジュール
④利用者が過去に登録したトルカ

 ①の住居地データを利用すると、鉄道運行情報や渋滞情報、気象情報、地震情報などを配信できる。また②に登録されている電話番号をNTTのタウンページで逆引きしてお店の名前と住所などを検索し、それらの情報をケータイの電話帳に自動的に書き込んでしまうということが可能になる。また③のスケジューラーではDVDの返却予定日以外に、自分の好きなアーティストのライブコンサートの日程などイベント情報も取り込むことが可能だ。

 最後のトルカには説明が必要だろう。トルカというのはおサイフケータイのオマケ機能のひとつで、お店の提供しているクーポンや新着情報などを携帯電話にダウンロードできるというものだ。おサイフケータイはお店やコンビニなどで支払いのできる電子マネーだが、タッチして決済するときに、同時にお店のクーポンもケータイにゲットすることができる。過去にどのようなクーポンをゲットしたのかという情報はケータイの中に保存されているから、それらのクーポンをiコンシェル経由で最新のものに更新できるわけだ。

「風呂まで一緒」だからケータイが最強になる

 iコンシェルはケータイ電話帳のオンラインバックアップサービスから派生した新サービスで、したがってユーザーからはそれほど多くのライフログデータを取得していない。しかし、もともとケータイが収集しているライフログはそれどころではないのだ。

 たとえばGPS(全地球測位システム)内蔵のケータイなら、利用者が地図上のどこをどう移動したのかというデータも蓄積できる。おサイフケータイの履歴を見れば、どの店で買い物をし、どの駅の自動改札を通過したのかも一目瞭然だ。iPhoneは加速度計を内蔵しているから、利用者が走っているのか歩いているのか、あるいは立ち止まっているのかという記録を取れるし、昨年秋に発売されたグーグルのアンドロイド携帯に至っては電子コンパスを内蔵しており、利用者がどちらの方角を向いていたのかさえわかってしまう。

 普通の人間にとって、一日の中でパソコンは所詮短い付き合いにすぎない。専門職でもなければせいぜい5~8時間程度しかないだろう。だがケータイは、たいていの人が外出中いつも身につけている。寝る時間以外のほとんどを、ケータイと共にしているという人も珍しくないだろう。最近は女子高校生の間で防水ケータイがはやったり、普通のケータイをプラスチックの食料保存袋に入れてお風呂に持ち込む者もいるほどだ。

 だからケータイは、人々がどんなふうに日々を暮らし、何をしているのかのほとんどを知っている、最強のライフログデバイスなのである。

新ビジネスを阻む? 個人情報保護法問題

 NTTドコモの山田隆持社長は昨年11月、iコンシェルの記者発表で、今後ケータイは「何々ができるケータイ」から「何かしてくれるケータイ」になると説明している。これは裏返せば、ケータイに集約される人々の行動記録を再利用し、その解析結果をどう有効活用するかという方向へ進んでいくということだ。

 こうしたライフログへの方向性の転換は、踊り場を迎えた感があるケータイキャリアのビジネスにとっては大きな可能性を秘めている。しかし一方で、ライフログには大きな落とし穴もある――プライバシー侵害という批判が高まってくる可能性があるのだ。

 ライフログビジネスに取り組む企業の多くは、この問題にきわめて神経質になっている。「ライフログ産業がうまく成長するように、経済産業省や総務省がプライバシー保護の枠組みを作ってほしい」という要請が出ているほか、中には「厳しい個人情報保護法が足かせになって、ライフログ産業の成長が阻害されている。法改正してほしい」と、かなり危ない要求を口に出す業界人さえいる。経産省サイドではこうした声に沿って、顧客のライフログデータを匿名化することで、個人情報保護法で制限されている目的外利用や第三者提供を行えるようにしようと「匿名化プラットフォーム」の検討を進めているが、こうした枠組み作りには、まだかなり時間がかかる。

 ライフログは確かに大きな可能性を秘めたビジネスで、しかもモバイルサービスやアプリケーションが極度に普及している日本では、かなりの市場規模が期待できるのも事実。しかし「モバイル先進国」という焦りから業界が突っ走れば、おそらく「プライバシー侵害」問題が大好きなテレビのニュースショーや新聞の袋叩きに遭うことは間違いないだろう。心して向き合っていかなければならない。

(文=佐々木俊尚/イラスト=黒川知希/「サイゾー」6月号より)

●ささき・としなお
1961年生まれ。毎日新聞、アスキーを経て、フリージャーナリストに。ネット技術やベンチャービジネスに精通。近著に『「みんなの知識」をビジネスにする』(兼元謙任氏と共著/翔泳社)、『ウェブ国産力』(アスキー新書)ほか。

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最終更新:2009/06/30 17:59
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