日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 島田紳助 ”永遠の二番手”を時代のトップに押し上げた「笑いと泣きの黄金率」
お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第37回

島田紳助 ”永遠の二番手”を時代のトップに押し上げた「笑いと泣きの黄金率」

shinsuke_larry.jpg泣く子も笑う敏腕プロデューサー

 6月27日、夏の特別番組『FNSの日26時間テレビ』の記者会見がフジテレビ本社で開かれた。同番組は、7月25日19時から翌日まで約26時間にわたって生放送される。今年は島田紳助が初の総合司会を務めることになった。クイズ、ゲーム、三輪車耐久レースなどさまざまな企画が行われ、『クイズ!ヘキサゴンII』でおなじみの「ヘキサゴンファミリー」も総出演する。笑いの取れる司会者として華々しい活躍を続けている紳助が、また新たな大舞台に挑むことになった。

 紳助は30年以上のキャリアを誇るベテラン芸人だが、彼が本当の意味で時代の最前線に立ち始めたのはここ数年のことだ。紳助は、80年代にはビートたけしや明石家さんま、90年代にはダウンタウンといったトップを走る人気芸人の陰に隠れた「永遠の二番手」のイメージがあった。実際、紳助自身が芸能界における自分のポジションを「引き気味のミッドフィルダー」などと語っていたほどだ。そんな彼が今、時代を牽引する一番手の位置に躍り出ている。

 その活躍の原動力となっているのは、彼のプロデューサーとしての高い手腕である。紳助は、番組で共演する「史上最強の弁護士軍団」や「おバカタレント」をキャラ付けしながら巧みにいじっていくことで、お茶の間の人気者に仕立てることに成功した。また、彼が大会委員長を務める漫才コンテスト「M-1グランプリ」も、年末恒例のお笑いイベントとして毎年大きな盛り上がりを見せている。

 紳助は、そのプロデュース能力を自分自身を売り出すためにも用いている。その戦略のベースには、「勝てない戦はしない」という徹底した現実主義がある。

 かつて、新人だった頃のダウンタウンの漫才を見た紳助は、その革新性に衝撃を受けて、「これと比べられたら自分は負ける」と直感し、漫才をやめてコンビを解散することを決意したという。その後の紳助は、自分の強みを生かせる居場所を求めて試行錯誤を繰り返した。そして今ようやく、爆笑と感動を両取りできる「笑い:泣き=7:3」の紳助ブランドが、テレビ界で確かなポジションを確立したのである。

 昨年の『FNS27時間テレビ』の総合司会を務めていたのは、紳助の盟友・明石家さんまだった。さんまが昨年、お笑い色の強い番組を作り上げたのに対して、紳助はどちらかというと感動路線を前面に押し出すことを強調し、記者会見でも「必ず泣きます」と宣言した。もしここで「笑い」を売りにしてしまうと、昨年のさんまがやったことと必ず比較されてしまう。感動路線ならば、自分の強みを十分に生かすことができる。これもまた、紳助の「勝てない戦はしない」という戦略の1つの表れだろう。プロデュースの天才は、自分自身を効果的に売り出すセルフプロデュースの天才でもあるのだ。
(お笑い評論家/ラリー遠田)

●「この芸人を見よ!」書籍化のお知らせ

日刊サイゾーで連載されている、お笑い評論家・ラリー遠田の「この芸人を見よ!」が本になります。ビートたけし、明石家さんま、タモリら大御所から、オリエンタル・ラジオ、はんにゃ、ジャルジャルなどの超若手まで、鋭い批評眼と深すぎる”お笑い愛”で綴られたコラムを全編加筆修正。さらに、「ゼロ年代のお笑い史」を総決算したり、今年で9回目を迎える「M-1グランプリ」の進化を徹底的に分析したりと、盛りだくさんの内容になります。発売は2009年11月下旬予定。ご期待ください。

島田紳助のすべらない沖縄旅行ガイドブック

夏のヴァケーションに

amazon_associate_logo.jpg

●連載「この芸人を見よ!」INDEX
【第36回】東野幸治 氷の心を持つ芸人・東野幸治が生み出す「笑いの共犯関係」とは
【第35回】ハリセンボン 徹底した自己分析で見せる「ブス芸人の向こう側」
【第34回】FUJIWARA くすぶり続けたオールマイティ芸人の「二段構えの臨界点」
【第33回】ロンブー淳 の「不気味なる奔放」テレ朝『ロンドンハーツ』が嫌われる理由
【第32回】柳原可奈子 が切り拓くお笑い男女平等社会「女は笑いに向いているか?」
【第31回】松本人志 結婚発表で突如訪れたカリスマの「幼年期の終わり」
【第30回】はんにゃ アイドル人気を裏打ちする「喜劇人としての身体能力」
【第29回】ビートたけし が放った『FAMOSO』は新世紀版「たけしの挑戦状」か
【第28回】NON STYLE M-1王者が手にした「もうひとつの称号」とは
【第27回】ダチョウ倶楽部・上島竜兵 が”竜兵会”で体現する「新たなリーダー像」
【第26回】品川祐 人気者なのに愛されない芸人の「がむしゃらなリアル」
【第25回】タモリ アコムCM出演で失望? 既存イメージと「タモリ的なるもの」
【第24回】ケンドーコバヤシ 「時代が追いついてきた」彼がすべらない3つの理由
【第23回】カンニング竹山 「理由なき怒りの刃」を収めた先に見る未来
【第22回】ナイツ 「星を継ぐ者」古臭さを武器に変えた浅草最強の新世代
【第21回】立川談志 孤高の家元が歩み続ける「死にぞこないの夢」の中
【第20回】バカリズム 業界内も絶賛する「フォーマット」としての革新性
【第19回】劇団ひとり 結婚会見に垣間見た芸人の「フェイクとリアル」
【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在
【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは
【第16回】狩野英孝 「レッドカーペットの申し子」の進化するスベリキャラ
【第15回】サンドウィッチマン 「ドラマとしてのM-1」を体現した前王者
【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略
【第13回】U字工事 M-1決勝出場「北関東の星」が急成長を遂げた理由
【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」
【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃
【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力
【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」
【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児
【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」
【第06回】世界のナベアツ 「アホを突き詰める」究極のオリジナリティ
【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」
【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」
【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」
【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」
【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」

【関連記事】 「見苦しい?」マンネリ進む明石家さんまの”抱き合わせ”商法
【関連記事】 上地雄輔ソロデビューに見るおバカタレントの「アーティスト化戦略」
【関連記事】 “大御所”島田紳助と吉本興業幹部との抗争が勃発!?

最終更新:2013/02/06 11:40
ページ上部へ戻る
トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • twitter
  • feed
特集

【4月開始の春ドラマ】放送日、視聴率・裏事情・忖度なしレビュー!

月9、日曜劇場、木曜劇場…スタート日一覧、最新情報公開中!
写真
インタビュー

『マツコの知らない世界』出演裏話

1月23日放送の『マツコの知らない世界』(T...…
写真
人気連載

山崎製パンで特大スキャンダル

今週の注目記事・1「『売上1兆円超』『山崎製パ...…
写真
イチオシ記事

バナナマン・設楽が語った「売れ方」の話

 ウエストランド・井口浩之ととろサーモン・久保田かずのぶというお笑い界きっての毒舌芸人2人によるトーク番組『耳の穴かっぽじって聞け!』(テレビ朝日...…
写真