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映画『銀色の雨』公開記念インタビュー

『水曜どうでしょう』(HTB)のミスターこと鈴井貴之が語る”ローカルの生きる道”

suzui_top.jpg映画『銀色の雨』の初日舞台あいさつのため、
札幌から上京してきた”ミスター”こと鈴井貴之監督。
企画・構成・出演の3役を兼ねた『水曜どうでしょう』(HTB)は
DVDシリーズ化され、毎回8~10万枚のセールスを記録。
小説、エッセイも連載する北海道を代表する文化人なのだ。

 札幌在住、タレント・構成作家として活躍する鈴井貴之氏。『水曜どうでしょう』(北海道テレビ)で大泉洋と掛け合いの旅をしていた”ミスター”と言えば、「あぁ、あの濃い~顔の人ね」と頷く人も多いのではないだろうか。大泉が所属するクリエイティブオフィスキューの代表を務める一方、映画監督として『銀のエンゼル』(04)ほか長編3本をすでに公開した実績を持つ。現在公開中の最新作『銀色の雨』は、ベストセラー作家・浅田次郎の同名短編小説を原作に、思い切った脚色を加えた作品となっている。

 また、自身のダメダメだった20代を振り返った『ダメ人間 溜め息ばかりの青春記』(メディアファクトリー)を9月に上梓。交際相手や実家にさんざん金銭的迷惑を掛けたこと、地元のテレビ番組に出演するはずが自宅で寝過ごしてしまい、テレビ番組上から「今すぐ来てください」と呼び掛けられたことなど、かなりの”ダメ人間”ぶりを告白している。上京しようとしながらも上京できずに地方でもがいている『銀色の雨』の主人公・和也(賀来賢人)と鈴井監督が重なって映るではないか。

──『銀色の雨』の主人公が抱える悩みは、鈴井監督にとって他人事ではないですよね?

「そうですね。ボクが監督した作品ですから、ボクの持っている質感みたいなものが当然反映されていますよね。『ダメ人間』を出版したばかりなので、本を読んでから映画を観たら『あ~、似てるなぁ』と思う方もいるかもしれません」

giniro_sub.jpg菊枝(前田亜季)の世話好きな性格は孤独な
生い立ちの裏返しだった。他にも「AKB48」
の大島優子、映画初出演となるサンドウィッチ
マン、トレーナー役に竹原慎二、輪島功一……
と多彩なキャストがそろう。

──ヒロイン・菊枝(前田亜季)の世話になっている部分なんて、原作小説と『ダメ人間』はもろに被ります。

「確かにそうかもしれませんね。女性との部分だけに限らず、『ボクは今までありがとうという言葉を言ったことがなかった』というセリフなどもそうです。若い頃の男って実績がないのに、中途半端にプライドだけ高くて、『オレは他のヤツとは違う』なんて思い込みがちだと思います。特に表現者にそういう人が多いかもしれません(笑)」

──和也の生き方に大きな影響を与える章次(中村獅童)は原作では極道でしたが、映画ではボクサーに変わったほか、時代設定も舞台も変更。かなり潤色していますが、その狙いは?

「原作では昭和40年代の大阪・ミナミが舞台でしたが、現代の鳥取県米子市に変えています。あくまで自分は、現代の物語を作りたい気持ちが強く、そう考えると、過去を舞台にした原作は、そうした意志にそぐわない気がしました。ボクはこの作品の本質は観た人が自分自身の人生や生き方と照らし合わせて感じ入ってもらうべきものだと考えたんです。浅田先生は”小説と映画は別物である”と理解してくださり、章次は芯の通った大人の男として描けば問題ないと脚色について快諾してくれました」

──直木賞作家の原作小説を、鈴井監督流にどこまでアレンジできるかが、重要なポイントだったようですね。

「今はオリジナル脚本で映画を撮ることが難しく、ほとんどの映画は小説やコミックが原作となっていますよね。その多くが原作のまま映画化されていることが多いと思います。ボクとしては、映画は映画オリジナルとして独立した表現手段が必要だと思うんです。ですから、今回原作の設定を大幅に変えさせていただけたことは、非常にやりがいのあることでした」

──鈴井監督の過去3作品と違って、地元・北海道を離れた米子ロケ作品。盟友・大泉洋も1シーンのみのカメオ出演。クレジットを見ないと鈴井監督作品と分からないくらい普遍的な青春映画でもあります。

「そうですか(笑)。ボクは北海道に生まれ暮らしているので、これまで北海道で映画を撮ってきたんですが、最近は、なるべくフラットにフリーに考えていったほうがいいと思うようになりました。ですから、今後は作品ごとに考えていこうと思っています」

giniro_main.jpg米子ロケによる『銀色の雨』。雨に打たれた
捨て猫のような生き方をしていた和也(賀来
賢人)だが、亡くなった父親のことを知るボク
サーの章次(中村獅童)に次第に心を開くよう
になる。(c)2009「銀色の雨」製作委員会

──米子という日本海沿いの地方都市の情緒をうまく取り入れています。

「東北や北陸などもロケハンで訪れましたが、米子の町の雰囲気がいちばん自分の考えるイメージに近かったんです。瓦屋根が並び、昭和の日本っぽい雰囲気。北海道にはない小さな裏路地があるのも、新鮮でした。北海道は除雪しなくちゃいけないので、車が通れないような小さな路地が存在しないんです。映画を観た関係者からは『ATG映画みたい』と言われました(笑)」

──確かに小さな町で悶え苦しむ若者が主人公というのは、ATG映画の王道っぽい。これで殺人事件と火事が起きれば『青春の殺人者』(76)ですね!

「敬愛する長谷川和彦監督の名作と比べられるなんて、おこがましいですよ(苦笑)。『青春の殺人者』だけでなく、ATGだったら根岸吉太郎監督の『遠雷』(81)も好きだし、小津安二郎監督作品みたいに何でもない普通の人たちの物語が好きなんです。『自分の町には映画のロケになるような場所がない』『自分はつまらない人生しか送っていない』なんて言う人がいますけど、ボクは『映画にならない場所はない』『どんな人生も必ず物語になる』と考えています」

──そんな鈴井監督に日刊サイゾーとしてお聞きしたい質問があります。鈴井監督はローカル番組『水曜どうでしょう』(HTB)でブレイクしたわけですが、予算も機材もスタッフにも限りがある”ローカル”枠でありながら、”メジャー”的なものと伍して戦うにはどうすればいいんでしょうか?

「ボクには何かと張り合うという考えがないんです。ローカル枠で”中央”に負けないものをつくろうと思っても無理です(キッパリ)。中央にはお金も才能も集まるから、勝てる見込みはありません。ですから、地方はスキマ産業的に考えていくしかないと思います。その中で、自分の足元をしっかり見て、自分にできることは何かを考える。その何かとは、やっぱり自分のやりたいことなんです。自分の好きなことなら、アイデアもどんどん湧いてくるし、労力を惜しまない。隣の芝生をいつまで眺めても前には進めません。大事なことは自分の力をどれだけ客観視できるか。自分の身の丈を知ることで、『じゃあ、もう少し頑張れば、このくらいのレベルには行けるな』と実感することができる。自分の足元をしっかり見ることで、自分のやりたいことが見えてくるんだと思いますね」

──”ダメ人間”からオフィスキューの社長になった鈴井監督だけに、説得力があります。これからの展望についても教えてください。

「自分自身のもうひとつの表現方法、新たなチャレンジの場所として、新プロジェクト”オーパーツ・プロジェクト”を2010年から始めます。プロジェクトの第一弾はボクが脚本・演出、そして出演もする舞台となります。その後はまだ具体的にはなっていませんが、さらに派生して、映画・音楽など、様々な展開も視野に入れています」

──中央進出は考えていますか?

「ないですね。実はボクって、19、29、39と9の付く年齢のタイミングで転機が訪れるんです。19歳で大学浪人して、29歳でオフィスキューを設立して、39歳で映画監督になった。そのジンクスに従えば、49歳で自分が何を始めるのかが楽しみですね。もしかしたら映画やテレビの仕事じゃなくて、農業とかまったく別のことを始めているかもしれません」

──『水曜どうでしょう』の人気企画だった”サイコロの旅”みたいにサイコロで決めちゃうのはどうでしょう?

「いやいや、自分の人生ですから、サイコロに任せず、自分でちゃんと考えますよ(笑)」
(取材・文=長野辰次)

『銀色の雨』
原作/浅田次郎 脚本/宇山圭子、鈴井貴之 撮影/喜久村徳章 出演/賀来賢人、前田亜季、濱田マリ、音尾琢真、大島優子、富澤たけし、伊達みきお、柳憂怜、不破万作、でんでん、品川徹、佐々木すみ江、中村獅童 配給/エスピーオー+マジックアワー 11月28日よりシネマート新宿、シネマート六本木ほか全国公開中。<http://www.giniro-movie.com/>

鈴井貴之(すずい・たかゆき)
1962年北海道生まれ。北海学園大学在学中に演劇の世界に目覚める。90年に劇団「OOPARTS」を旗揚げ。92年に「クリエイティブオフィスキュー」を設立。タレント・構成作家として『モザイクの夜』『水曜どうでしょう』『ドラバラ鈴井の巣』(北海道テレビ)などのローカル番組を手掛ける。映画監督として『man-hole』(01)、『river』(03)、『銀のエンゼル』(04)とオリジナル脚本による長編映画を発表している。09年9月に自伝的私小説『ダメ人間 溜め息ばかりの青春記』(メディアファクトリー)を上梓した。10年、「OOPARTS PROJECT」を始動。それに伴い、現在オフィスキューオーディションを開催中! 詳しくは、<http://www.office-cue.com>

水曜どうでしょう「桜前線捕獲大作戦」「十勝二十番勝負」「サイコロ5~キングオブ深夜バス~」

伝説の3作品

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最終更新:2009/12/09 15:00
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