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「穴があったら全部入りたい!」暗闇と静けさの別世界『東京洞窟厳選100』

doukutsu.jpg『東京洞窟厳選100』(中野純/講談社刊 )

 東京近郊には、こんなにも多くの”洞窟”があったのか。

 江ノ島、北鎌倉、南房総、世田谷……。読み物でありながら、圧倒的な取材量で度肝を抜く、洞窟のガイドブックとも言える本が誕生した。著者は、作家の中野純氏。彼は子どもの頃から闇夜の世界というものに強く惹かれ、暗闇の中を歩くナイトウォークのガイドとしても活躍する。「いつ何どき洞窟に出合うかわからないから」という理由で常にバッグに懐中電灯を忍ばせているほど、洞窟に惚れ込み、気になる穴を見つけては、飛び込んでいる。

 今回、紹介されている洞窟の基準は、東京都心から近いこと、なるべく気軽に行けること、ふらっと行ってもすぐ入れること。その上で、洞窟の魅力に出合ったときの驚きと感動が大きいことを挙げている。

「住みたい快適洞窟」では、東京近郊でカジュアルに瞑想できる鍾乳洞や、波打ち際の岩場に穴が空いた海蝕洞窟。「な、なにかがいる洞窟」では、鳥居の先に狐がわんさかいる洞穴。ほかにも、「魅惑のインテリア洞窟」「自然と楽しむ軍事洞窟」などテーマ別に紹介している。さらに洞窟と言いつつも、地下壕や井戸、トンネルなども交じり、”暗闇のある穴”であれば何でも、といってもいいくらい多岐に渡る。

 中野氏が東京23区内で断然おすすめというのが、世田谷区にある「玉川大師地下霊場」。名前の通り地下にある霊場で、「東京に住んでいてここを訪れないなんて、ありえない。」と言うほど絶賛している。実はこの本の中で、筆者が唯一訪れたことがある場所でもあり、確かにスゴかった。住宅地の中に佇む小さなお寺の本堂の階段を降りると、真っ暗闇で狭い地下道が現れる。迷路のような順路を壁伝いに歩いていくと、壁画や四国霊場八十八本尊の石造、300体あまりの仏像が次々と現れてくるのだ。地下道全体が仏教独特の不思議な空気に満ちていて、そこは本当に別世界。最近では、パワースポットとして人気急上昇中のようだ。

 また、違った意味で別世界を感じられるスポットとして、目黒区の東山貝塚公園にある、ひっそりと復元された竪穴住居が紹介されている。もはや、「入口が穴」というぐらいの関連性しかないが、中野氏が近寄って中をのぞいて見ると、寂れた外観とは裏腹に、電気の火がメラメラと燃え、それを囲って座る原始人の親子の姿が実にリアルに再現されていたという。けれど、外に出るとそこは都会のど真ん中。まさに一歩先は別世界。彼が興奮して、顔を出したり入れたりしながら、その場を心から楽しむ様子がうかがえる。

「洞窟は穴場だ! そのへんの洞窟にちょっと入ってみるだけでも、ちょっと覗いてみるだけでも、息を呑む別世界がきっと広がっている。そのくせ、たいがいの洞窟は空いていて、タダとか数百円で、貸切状態になる」

 話を本物の洞窟に戻すと、彼はこれが洞窟の魅力だと語る。洞窟は探検するのではなく、滞在して楽しむもの。

 水がしたたる音。圧倒的な静けさ……。洞窟へ一歩足を踏み入れると、目の前は常夜の闇の世界、そしてその先は真の闇。暗闇の中では、景色だけでなく自分も消える。「自分が消えると、心がとても開放される」と彼が言うように、時には闇に身を置き、ひたすら自分の心が開放させるといいかもしれない。

 タイトル通り、本書では洞窟100か所をメインに紹介しているが、エッセイの中で、いくつもの別スポットを紹介しているので、実際には倍以上のスポットが掲載されている。今まで注目していなかったのが惜しいほど、東京近郊に住んでいる人にとっては意外で、ハッとさせられるスポットが数多い。ユーモアあふれる文体にニヤリとしつつ、本書を参考にして、自分の気に入った”暗闇と穴”の別世界へワープしてみよう。
(文=上浦未来)

中野純(なかの・じゅん)
1961年生まれ。体験を作り、体験を書く、体験作家。「金比羅山ムーンライズ・ウォーク」、「本所七つ閣」など、暗闇をテーマにしたイベントを企画、案内する闇歩きガイドとしても活躍中。また、私設図書館『少女まんが館』の館主でもある。著書に、『闇を歩く』(光文社知恵の森文庫)、『夜旅』(河出書房新社)、『東京サイハテ観光』(交通新聞社)ほか多数。

東京洞窟厳選100――穴があったら入りたい! 「地底の別世界」

隙間に入りたがるのが、人の心理なんだそうです。

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最終更新:2010/02/14 15:00
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