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話題の書『希望難民』著者インタビュー

ピースボートにハマる「イマドキの若者」とネットワークビジネスとの関係とは?

furuichi_kinei.jpg古市憲寿氏。

 街中や居酒屋などで「ピースボート 地球一周の船旅」のポスターを見たことがある人も少なくないだろう。日数や寄港地などによって値段は違うが、なんといっても最低料金99万円(約80日間)で世界一周ができるという点に目が引かれる。そんな「地球一周の船旅」に参加した大学院生がいる。現在、東京大学大学院に在籍している古市憲寿氏だ。

 参加したのは2008年5月14日に横浜を出航した「クリッパー・パシフィク号でゆく 第62回ピースボート 地球一周の船旅(この時の最低料金は148万円)」。彼は、この乗船体験と自らの本業である社会学の分析をもとに今年8月に『希望難民ご一行様 ピースボートと「承認の共同体」幻想』(光文社新書)を上梓し、その内容は、論壇界隈でちょっとした話題になっている。今回、ピースボートに乗る現代の若者とそこから見える現代の日本について古市氏に話を伺った。

──ピースボートには、どのような経緯で乗船したのでしょうか?

古市憲寿氏(以下、古市) 知り合いから乗ってみないかと誘われたのがきっかけです。特に、研究対象にしようとは考えていませんでした。ピースボートについては、街中にあるポスターや安く世界一周ができる旅、あとは辻元清美(現・衆議院議員)さんが作った団体だろうから、少しは政治色も強いのかなというイメージぐらいでした。

──辻元さんは、まだ関わっているのですか?

古市 今は直接関わってはいません。辻元さんが早稲田大学で同級生だった吉岡達也さんが代表を務めているだけです。

──実際にピースボートに乗船している人たちは、どのような人たちですか?

古市 今回、僕が参加したクルーズでは、乗船者が約900人いたのですが、ほとんどが若者とリタイア後の年配者ですね。20代の若者が約4割でした。特に若い人には、日常に閉塞感を感じる中で「世界一周が自分を変えてくれるかもしれない」と思い乗船してくるタイプが多かったです。あとはリタイアして時間に余裕のある60代以上の年配者の方も4割近くいました。

──船内での男女関係はどうでしたか?

古市 イメージしていたようなフリーセックス的なことは一切ありませんでした(笑)。若者に関しては、カップルになって、そういうことをする子もいました。ただ、基本的には仲良くはなっていくのですが、恋愛に発展するかといえば、そうでもなくて。高校生の男女のノリを思い浮かべていただければと思います。逆に、男女関係で元気なのは、年配者ですね。年配の方々は、夫婦で乗船する人が多かったのですが、船内で新しいカップルができて、デッキで抱きあったり、キスしているのをよく目撃しました。

──著書の中で、乗船する若者について、「セカイ型」「自分探し型」「観光型」「文化祭型」と4つに分類していますが、それぞれについて簡単に説明してください。

古市 「セカイ型」は、船の雰囲気にも馴染めていて、ピースボートの理念である世界平和や難民問題などに関心が高く、憲法9条をダンスで表現した”9条ダンス”を踊る子たちです。「文化祭型」は、船の雰囲気には馴染んでいるけれども、ピースボートの理念には共鳴していない。文化祭的なノリで、9条ダンスは踊るけど、憲法9条(の遵守と維持)を訴えたいわけでなくダイエット目的などで踊る層ですね。「自分探し型」は、ピースボートの理念には共鳴するけれども、9条ダンスなどを見て、ちょっと違うなと距離を置いてしまった層で、「観光型」は、ピースボートの理念にも、雰囲気にも馴染んでいない人たちです。大体30歳前後の看護師さんや、正社員で仕事をしていたけれど、仕事が大変で逃げ出すように乗ってきた人たちが多かったです。

■謎の”9条ダンス”とは?

──”9条ダンス”とは、具体的にどのようなものでしょうか?

古市 憲法9条の理念を主にヒップホップで表現したダンスです。結構、激しいダンスですよ。ピースボート側のロジックでは、憲法9条は日本語で書かれているから、言葉だと国境の壁を越えられないけど、ダンスでなら国境を越えられ、世界中に広がっていくと考えているんです。

──9条ダンスは、主にどこで踊るのですか?

古市 世界中の寄港地で踊ります。パレスチナなら難民キャンプで、ニューヨークやカナダでは、街中でゲリラ的に踊って署名を求めるんです。突然、ダンスをして、日本の憲法9条に賛同してくださいと。ダンスを見せられたほうからしたら、日本の若い子が踊っているのは分かるけど、まさか憲法9条について踊っているとは思わないですよね。

──先ほどの4類型のうち、「セカイ型」の若者たちは、ピースボートの掲げる政治性、世界平和に共鳴していて、ピースボート側としては理想的なお客さんだと思います。また、一般的にもピースボートに乗船している若者のイメージに近いと思うんですが、彼らの乗船動機はどういったものですか?

古市 乗船動機はバラバラなのですが、なんとなく大きいことをしたいとか、大人になる前に世界一周をして自分をもっと大きい人間にしたいとか、基本的には漠然としていて、もともと世界平和のために乗船したという人は少なかったです。ピースボートセンターに通っているうちに、今世界で起こっている貧困問題などを聞いて、それに共鳴していくんです(※ピースボートセンターという事務局に通い、ポスター貼りなどの雑務を手伝うとクルーズ参加料が割引される)。

──彼らの特徴はありますか?

古市 すごく優しくて、無邪気で陽気な感じの若者が多かったです。ただ興味深かったのは、降りてからネットワークビジネスに関わる人が多い気がします。知っている限りでも、僕の乗ったクルーズでは20人ほどが何らかの形で関わっていました。ネットワークビジネスとスピリチュアルと自己啓発には似たところがあり、すごいポジティブシンキングで、私が変われば世界が変わるみたいな発想があるので、納得はできました。

──船内の若者の中でも政治性を持っている彼らと、若い頃、学生運動に参加していた団塊の世代の年配者とを比較して象徴的な出来事はありましたか?

古市 今回のクルーズでは、エンジントラブルにより旅行日程が遅延したり、部屋の浸水、エレベータの故障、さらには、ニューヨークに寄港した際には、アメリカの湾岸警備隊の検査により、60以上の安全性の問題が指摘され、出港を差し止められるというトラブルがありました。年配の人たちはこうした事態に対して、主催者側に異議申し立てをして、対話や議論によって問題を解決しようとし、要望書を提出しました。それに対し、「セカイ型」の若者は、対話ではなく、ただ泣くだけで、閉じこもってしまうというシーンを目撃しました。共感のコミュニケーションで乗り切ろうとしたのだと思います。

──共感のコミュニケーションとは?

古市 論理や言葉ではなく感覚によって繋がっていているんです。特に議論をして結論に達するのではなく、「世界平和大事だよね」「そうだよね」みたいな感じで、そこにロジックがあってそうなるわけではなく、なんとなく心情的に共感できるという。だから、彼らはピースボートに共感し一体化しているので、年配者の抗議が自分たちを批判しているように感じて、それで泣いてしまう。つまり、感覚で成立している共同体なので、議論によって解決しようとする年配者とは全く違ったベクトルで動いているのです。だから、意見が違う人には、意味が分からない、何でそういう人たちがいるのだろうと言って閉じこもってしまいます。一見、船でのトラブルへの対処も対立に見えますが、基本的にディスコミュニケーションでした。若者は想えば分かる、年配者は話せば分かるなので通じ合えないです。彼らは、想いが実現する、自分が想えば世界が変わるという考え方の人が多かったと思います。

──もちろん想うことは大事ですが、実際の行動に移さなければ物事は変わらないと思うのですが。

古市 彼らからしてみれば、「こんなに世界平和と祈っているのに、どうして世界は平和にならないのだろう」なんだと思います。実際に、船内で戦争問題に関して、ディスカッションが行われたことがありました。憲法9条を持つべきか、つまり日本は軍隊を持つべきか持たざるべきかという議論になったとき、海外から攻められたらどうするのかというと、想えば分かる、世界平和を信じていれば分かってくれる、みたいな考え方をする人が多かったです。

──彼らはそこで思考停止してしまうというか、具体的な行動は一切ない?

古市 彼らも、ピースボート側も具体的には、何も示せていない。ピースボート側も、憲法9条を守りましょうという団体なので、それ以上の道筋を提示してあげられない。

──船を降りてから、具体的に難民問題や世界平和について行動することもないんですか?

古市 全くではないですが、ないですね。中には1、2人は、ピースボートの事務局のスタッフになる子もいます。この前、下船後、2周年記念パーティーが行われたのですが、政治的な話題や9条ダンスの話題は一切ありませんでした。これから変わっていくのかもしれませんが。結局、世界平和というのは、集まって、盛り上げるための”ネタ”に過ぎなかったとさえ言えるのかもしれません。

■結局、若者は夢をあきらめた方がいいのか?

──古市さん自身が、ピースボートに乗船して感じたことは?

古市 僕個人としては、人と一緒に長い間過ごすことが苦手だと思っていたのですが、そうでもないことが分かりました。また、僕自身は、統計や研究、本などで非正規雇用やフリーター問題を知っているつもりだったのですが、研究では、若者は一元的に語られ過ぎていると思うようになりました。僕が思っていた以上に、多種多様な人々の顔が見られたことが大きいです。著書でも触れているのですが、僕が当たり前だと思っていた知識が、全く常識ではないことも分かりました。たとえば、「9条ダンス」を踊っているにも関わらず、憲法の制定年月日を知らない。それは1、2年の間違えではなく、1990年などと答えてしまう。他にも、三角錐が何か分からないとか。新聞や雑誌、本だけでなく、マンガすらも読まない人たちもいる。若年層の本を読む冊数は、20年前より増えているんですが、全く読まない人も増えていて、読む人と読まない人というように二極化が進んでいます。本当に身近な人との会話やmixiなどからしか情報を得ていない人も増えていると思います。

──本を出版してからの反応はいかがですか? 何回か書評で取り上げられ、社会学的分析などについての異論もありましたが。

古市 別に「論壇社会学」に向けて書いてないんです。大きな物語という言葉を使ったけれど、それは補助線の一個として使っただけで、よくよく読んでもらえれば別に理論フレームでもなんでもないことに気づくと思うのですが。そのあたりのことは雑誌「サイゾー」(2010年11月号)で評論家の宇野常寛さんにフォローして頂きました。

──最後に、本書の主張は「若者をあきらめさせろ」とも取れますが、若者には”あきらめさせた”ほうがいいですか?

古市 別に僕もこの本で「あきらめろ」とは言っていないんです。今のキャリアアップの仕組みも未整備で、セーフティーネットも十分に整っていない社会で、夢だけ見せて頑張れとは言えないし、それは無責任だとも思う。そういう社会は変えていかなくてはならないと思います。と思うと同時に、生活満足度調査を見ると、今の若い子はかつてないほど満足度が高い。こんなに若者の格差が叫ばれているのに、当の若者は満足している。そういうことを考えると、これが成熟した社会のあり方なのかと言われれば、思わなくもないのが難しいところなのですが。

 33歳の筆者には、本書に書かれた「想えば叶う」という極端な考え方をする若者が、本当にそれほど存在するのかといった疑問と驚きがあったが、あのピースボートの内部ルポとしても読む価値は十分にあるし、古市さんの軽快な文体も楽しめる。ここに描かれる若者が、若者のうちの大多数ではないことを祈るばかりである。
(構成=本多カツヒロ)

●ふるいち・のりとし
1985年東京都生まれ。慶応義塾大学環境情報学部卒。現在、東京大学大学院総合文化研究科博士課程。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。有限会社ゼント執行役。

希望難民ご一行様 ピースボートと「承認の共同体」幻想

現代の縮図。

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最終更新:2010/11/03 11:00

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