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『レイキャヴィク・ホエール・ウォッチング・マサカー』日本公開記念インタビュー

裕木奈江が極北のホラー映画で怪演!「ツッコミながら楽しんでください」

IMG_3605_.jpgワールドワイドに活躍する裕木奈江。子犬のように潤んだ瞳は健在です。

 アイスランドの歌姫ビョークの作詞家×伝説のホラー映画『悪魔のいけにえ』(1974)×捕鯨問題×国際派女優・裕木奈江。一見、何の接点もなさげなこれらの要素が惑星直列のごとく重なり合った瞬間、奇跡が起きた! アイスランド史上初となるホラー映画『レイキャヴィク・ホエール・ウォッチング・マサカー』がメタメタに面白いのだ。ビョークに歌詞を提供している脚本家シオン・シガードソンの発案による本作は、『悪魔のいけにえ』(原題『テキサス・チェーンソー・マサカー』)をアイスランド風味に味付けしたもの。内容はタイトルのまんま、アイスランドの首都レイキャヴィクへ呑気にホエール・ウォッチングに集まった外国人観光客たちを、”反捕鯨運動”のせいで失業したイカれた漁師ファミリーが襲い掛かるというもの。裕木奈江はツアーガイドとして事件に巻き込まれちゃうわけだが、拉致された捕鯨船の中で火炎瓶を作って逆襲に転じるなど大活躍。ある意味、殺人鬼ファミリーより目立っている。ホラーファンのツボを抑えたゴアシーンに加え、ホラーコメディー『死霊のはらわた』(81)級の爆笑シーンもあり。極北の島国で、こんなに素敵におかしな映画が作られていたとは!? ボーダーレスに活躍する裕木奈江に、映画の裏話、近況、さらに多忙を極めたアイドル時代についてフリーダムに語ってもらった。

――『レイキャヴィク――』、面白すぎますよ。裕木さん大活躍で、最後の最後まで目が離せないじゃないですか。

裕木奈江(以下、裕木) 活躍しすぎですよねぇ(笑)。デヴィッド・リンチ監督の『インランド・エンパイア』(2006)を観たジュリアス・ケンプ監督から出演のオファーをいただいたんですが、最初は「どうせアジア人の役だからすぐに殺されちゃうんだろうなぁ」と思って脚本を読んだんです。でも、読んでみたら、これが意外といいポジションじゃないですか(笑)。もう何やっても平気だろう、今さらホラーものに出たからといって、次の仕事が来なくなるとかオーディションに呼ばれなくなるとかはないだろうって出演OKしたんです。

――ホラーものは、三池崇史監督のテレビドラマ『多重人格探偵サイコ』(00年、WOWOW)以来ですか?

裕木 そうですね。ここまでのホラーものは初めてです。でも、本当に今回は不思議な役でしたね。がんばりました(笑)。

IMG_3562_.jpg「私が演じたエンドウは謎が多い。
実は日系人夫婦をマークしている二重
スパイじゃないかと私は睨んでいるん
です」と楽しげに語る。

――いろいろとツッコミがいのある作品ですが、中でも裕木さんが演じたエンドウは非常にミステリアスな女。エンドウは一体何者なんですか?

裕木 金持ちの日系人夫婦に雇われたツアーガイドなんですけど、どうも待遇が良くないらしく、不満を抱えている女性のようですね。捕鯨船の一室で火炎瓶をいきなり作り始めるんですけど、彼女はどこでそんなスキルを身に付けたのかとか、そういう説明は一切ないんです(苦笑)。ジュリアス監督に尋ねたら、「脚本にそう書いてあるから」と言ってました(笑)。リアリティーを追求する作品ではないんで、細かい部分を突き詰めていくと成り立たないんです(笑)。エンドウの行動や台詞は、私のアドリブじゃないですよ。

――「脚本に書いてあるから」って、すごい返答ですね。火炎瓶をいそいそと作り始めたシーンは、裕木さんが学生運動の闘士を演じた『光の雨』(01)を連想しました。

裕木 『光の雨』は、実際の史実を参考にし、学生運動に関わっていた高橋伴明監督の指導を受けてリアルに演じたんですが、ジュリアス監督は『光の雨』のDVDは多分観てないと思います(笑)。エンドウが「トラ・トラ・トラ!」と叫ぶシーンもあるんですが、最初はちょっと嫌だったんです。クリント・イーストウッド監督の『硫黄島からの手紙』(06)にも出させていただきましたし、こういう台詞を口にするのはどうだろうなって悩みました。でも、この作品は娯楽作品なんで、楽しんで観ていただければいいなと。みなさんでツッコミを入れながら劇場で盛り上がってください(笑)。

――反捕鯨運動に対するメッセージが込められた作品じゃないんですよね?

裕木 だと思います。でも、やはり捕鯨の伝統があるアイスランドで生まれ育った脚本家や監督たちが作ったリアルなブラックコメディーだなと感じますね。アイスランドは人口32万人という小さな島国ですけど、みなさん物すごく教養があって、読書率が世界で1、2位を争うほどらしいんです。多分、雪に閉ざされる期間が長いからでしょうね。でもその分、サーカスティックというかひねった考え方をする方が多いように感じます。20年間捕鯨禁止になっていたことで、実際に仕事を失った人もいると思うんです。日本だと良識が邪魔をして、失業した漁師一家が外国人観光客を襲うなんてホラー映画は作られませんよね。米国でテレビ放映されているアニメ『サウスパーク』とかもそうですけど、おバカな状況を笑い飛ばしちゃう。当事者もそれを観てゲラゲラ笑う。日本じゃ、なかなかできませんよね。私にもできない。これが日本の作品だったら、私も出演したかどうか分かりません。

――撮影現場はどうでしたか? 船上のシーンが多いためスタッフは船酔いで寝込み、英国から来たキャストはノイローゼ寸前だったとか。

裕木 撮影そのものは普通でした。でも、夏の撮影でも天候が悪いと寒いんです。それで撮影が終わったら、ホテルの部屋に戻るしかないんですね。街に行っても、お酒を飲むところ以外に娯楽施設がないんです。私はお酒を飲まないわけじゃないけど、毎晩は飲まないので。アイスランドの飲み屋では酔っぱらって、ケンカがよく起きるみたいです。酔うとバイキングの末裔としての血が騒ぐみたいですよ。アイスランド名物だと聞きました(笑)。

RWWM_1.jpg殺人鬼ファミリーの巣窟である捕鯨船に連れ
込まれたエンドウ(裕木奈江)。序盤の大人
しさをかなぐり捨てて、大逆襲!

――冬のアイスランドで撮影された『コールド・フィーバー』(95)では永瀬正敏が露天風呂に浸かっていましたけど、裕木さんは温泉に入りました?

裕木 ホテルのシャワーから硫黄泉のにおいがしました。ゆで卵みたいなにおい(笑)。地下の水を汲み上げて温めているから、温泉みたいな感じでしたよ。箱根の温泉って飲むとお腹の痛いのが治るとか言いますよね。アイスランドのシャワーの水も試しにちょっと飲んでみたりしました。でも、英国から来た俳優さんは、「シャワーが生臭くて使えない」って愚痴ってました。それは気の毒でしたね。

――プレス資料には「予算2億ドル」と謳ってありますよ。キャストの待遇、良かったんじゃないですか。

裕木 どうなんだろう。アイスランドが経済破綻する直前で、物価がとても高かった印象がありますね。アイスランド料理は美味しかったんですけど、日本の値段の2倍くらいあったんじゃないかしら。経済破綻して、今はまた安くなったみたいですけど。映画の予算のほとんどは多分、船のチャーター代に使われたんじゃないですか。でも、その船、プロデューサーの持ち物なんですけど(笑)。

――撮影の裏側もツッコミどころ満載のようですね。アイスランドで08年夏に撮影され、09年に公開。舞台あいさつには参加したんですか?

裕木 行きたかった……。初日はビョークも観に来たそうです。ビョークの大ファンなんで残念。でも、アイスランド映画史上初のホラー映画ってことで、あちらではかなり評価されたようです。私が聞いた限りでは、映画に対する批評はテンポだったり描写に関することで、そこは日本とは違いますね。日本だとどうしても、「こんな不謹慎な映画を作るなんて」みたいなことになりがちですからね。

■アイドル時代は”洗脳”されていた!?

――裕木さんが出演した米国映画『ホワイト・オン・ライス』(09)、日本のレンタルショップに現在並んでいます。あれも不思議な味わいのコメディーでした。

裕木 デイヴ・ボイル監督は日系のコミュニティで宣教師をしていた方で、とても日本語が堪能なんですよ。米国人から見ると、いい年齢の日本人が仕事を辞めて、「アメリカンドリームだぜ。イエ~イ!」って米国に渡ってくるのが、すごく奇妙に映るみたいですね。デイヴ監督は日本人の彼女もいて、日本文化が大好きで、そういう日本人の不思議な行動を面白がって映画にしたみたいです。

RWWM_2.jpg全編アイスランドでの撮影。夏でもかなり
寒かったそうだ。海に落ちたキャスト、ほんと
に死にそう……。

――女に振られてばかりの放浪癖のある兄としっかり者の妹の物語。いわば、『男はつらいよ』シリーズのかなり意訳された翻訳劇ですよね。山田洋次作品に出演している裕木さんとしては、さくら的な妹役は感慨深かったんじゃないですか?

裕木 そうですね。撮影中に、「あっ、これは寅さんとさくらの関係だ」と気づきました。キャリアが長くなってくると、いろんな役をやるようになりますね(笑)。

――日本では山田洋次監督に三池崇史監督、米国ではデヴィット・リンチ監督にクリント・イーストウッド監督まで。

裕木 それにアイスランドのホラー映画にまで出ちゃいましたからね(笑)。ほんと、女優としては恵まれたプロフィールです。女優として、グルッと一周した感じです。

――現在の活動拠点はLAになるんですか?

裕木 そうでもないんです。日本には年2~3回戻っていますし、今回は映画の宣伝も兼ねて2カ月ほど日本で過ごしています。でもプロモーションで取材を受けると「ハリウッド」とか「凱旋」というような読者の目を引くような見出しをつけて下さるので、日本にいない印象があるかもしれませんね。結構日本に居ますよ(笑)。昨年は伊勢谷友介さんの2作目になる監督作に出させていただきました。久々の日本での撮影は楽しかったですね。なので今はどこがベースってわけではなく、仕事があるところが私の居場所という感じです。20代だったら怖くてできなかったでしょうけれど、30半ばになって始めたチャレンジでしたからね、世界が広がって楽しいです(笑)

――18年前のことを聞いてもいいですか。『ポケベルが鳴らなくて』(93年、日本テレビ系)に出演中、女性週刊誌から理不尽なバッシングに遭いましたよね(女性週刊誌から”嫌いな女”に選ばれた)。あの不可解な事象に対して、ご自身ではどのようにケリをつけたんでしょうか?

RWWM_3.jpg『悪魔のいけにえ』で初代レザーフェイスを
演じた伝説の怪優ガンナー・ハンセンが、あぁ
大変なことに!

裕木 ケリをつけるも何もないです。自分が何かやったわけでもなかったし、私が謝るのも変だし、かといって反論する場もありませんでしたし。事務所としても私としても、「来た仕事をがんばろう」ということしかできませんでしたね。

――女性週刊誌のバカヤロ~! と内心では思った?

裕木 いえ、思いませんでした。考えても口にしても、どうしようもないなと思ってましたし。ドラマでの役をリアルに演じたことでバッシングされたんですよね。じゃあ、もっとリアルじゃないように演じれば良かったのかというと、それじゃ私でなくなってしまう。あれは、私なりに一生懸命に演じた結果ですから。ただ、共演させていただいた緒形拳さんはとても素敵な方で、私も私の事務所のみんなも大ファンだったんです。多分、「緒方さんの大ファンです」って顔を私、していたと思うんです。その点は反省しています(苦笑)。刀はちゃんと鞘に収めておけってことですよね。

――昔のことを蒸し返してすみません。もうひとつ、初主演ドラマ『ウーマンドリーム』(92年、関西テレビ系)の頃ですが、雑誌のインタビューで「この世界に入ったからには、普通の幸せを望んじゃいけないと思っています」と答えていたんですが、覚えていますか?

裕木 あぁ、あの頃のインタビューで私の話していることはウソです(笑)。当時の事務所の社長に洗脳されていたんです。私、デビューして2~3年は仕事がなかったんですが、あの頃は本当に忙しくて寝る暇がほとんどない状態でした。もちろん歌手やラジオのお仕事させていただいたり、CMで高倉健さんと共演させていただいたり、すごくいいお仕事もさせていただいていたのですが、同時にプレッシャーでもあったんです。高倉健さんとのCMも山田洋次監督が演出の上に、いきなりの撮影でしたし。すごい不安を抱えながら、仕事に追われて、ほとんど寝てなかったので、事務所の社長に「こんなに恵まれた状況になったんだから、普通の幸せを求めるなんてありえないだろ」としょっちゅう言われて、そのまま信じ込んでしまったんですね。私、当時は20歳前後だったから、「タレントや俳優は幸せになっちゃいけないの?」とは言い返せなかった(苦笑)。いや、でも今は違います(きっぱり)。一人ひとりが幸せになることで、社会は明るくなると思うんです。ひとりでも幸せな人が増えたほうがいいに決まってます。で、幸せになった人のことは妬まないこと。みんなで幸せになりましょうよ(笑)。

 * * *

 『ポケベルが鳴らなくて』の話題に及んだ際、裕木奈江の右目は一瞬潤んだ。名優・緒形拳さんとの思い出が去来したのだろうか。こちらから振っておきながら、インタビューの最後を彼女が笑顔で締めてくれてホッとした。それにしても『レイキャヴィク・ホエール・ウォッチング・マサカー』で裕木奈江が演じたエンドウは、とことんタフだ。生き抜くことに真っすぐだ。彼女のたくましい姿をぜひ観て欲しい。
(取材・文=長野辰次)

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『レイキャヴィク・ホエール・ウォッチング・マサカー』
製作・監督/ジュリアス・ケンプ 脚本/シオン・シガードソン 出演/ピーラ・ヴィターラ、裕木奈江、テレンス・アンダーソン、ミランダ・ヘネシー、ガンナー・ハンセン 配給/アップリンク 6月4日より銀座シネパトス、新宿K’s cinemaほか全国順次公開中 <http://www.uplink.co.jp/rwwm>

●ゆうき・なえ
1970年神奈川県出身。映画『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』(88)で女優デビュー。初主演映画『曖・昧・Me』(90)で注目を集める。92年に人気テレビドラマ『北の国から’92巣立ち』(フジテレビ系)に続いて、小林信彦原作の『ウーマンドリーム』(関西テレビ系)に主演してブレイク。歌手、ラジオDJとしても活躍する。主な映画出演作に磯村一路監督の『あさってDANCE』(91)、山田洋次監督の『学校』(93)、高橋伴明監督の『光の雨』(01)、クリント・イーストウッド監督の『硫黄島からの手紙』(06)、デヴィッド・リンチ監督の『インランド・エンパイア』(06)など。2010年に日本で限定劇場公開された『ホワイト・オン・ライス』(09)もDVD化され、好評リリース中。公開待機作に伊勢谷友介監督、西島秀俊、森山未來が出演する『セイジ 陸の魚』がある。

裕木奈江写真集―La petite escapade de Na´e

懐かしきかな。

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最終更新:2013/09/12 21:26
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