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金融機関には裁判で勝てない!(後編)

沖縄農協から覚えのない借金を背負わされた男の悲劇

jaokinawa.jpg7億円もの不正融資が行われていた沖縄農協名護支店(元やんばる農協)。

■前編はこちらから

 沖縄農協から身に覚えのない多額の借金を背負わされ、しかも裁判でも言い分が認められずに、1,342万円もの支払いを余儀なくされた金城正さん(仮名・名護市在住)の一件については既報の通り(※前編参照)。本サイトでは以前、ゆうちょ銀行のデータ喪失事件(※記事参照)についても報じたばかりだ。経済ジャーナリストの須田慎一郎氏が、「ゆうちょ銀行や農協では昔からその手の話はたくさんある。氷山の一角でしょう」と指摘する通り、金融機関のずさんな業務実態や犯罪行為が、あまりに多く存在することに驚くばかりだ。

 一方、こうした理不尽な事件に巻き込まれた被害者が、裁判で勝つことが難しいのはなぜなのか。前回証言をしてくれた元農協金融担当者のA氏に、金融機関を訴訟する難しさについて話を聞いた。(聞き手/浮島さとし=フリーライター)

――Aさんは長年にわたり農協で融資を担当されてきたわけですが、今回の事件をどうご覧になりますか。

Aさん 金城さんが沖縄農協の不正融資事件に巻き込まれた被害者であることは、訴状と判決文を見る限り間違いないと思います。あの事件では7億円が不正融資されたと報道さ れましたが、それは発覚しているだけの額。金城さんのような被害者はまだ他にもいるんじゃないでしょうか。

――こういうことは農協では頻繁にあることなのでしょうか。

Aさん さすがに頻繁とまではいいませんが、しばしば耳にするのは事実ですね。ただ、農協に限らずゆうちょ銀行や大手の都銀でも似た話は聞きますよ。もっとも、沖縄農協の場合は決裁権のないひとりの課長が7億もいじって誰も気づかないのだから、ずさんの度合いがひどすぎますけどね。

――Aさんが仮に不正融資をして今回のように訴訟を起こされた場合、どう対策を取りますか。

Aさん 今回のような訴訟なら、対策を取らなくても勝てると思います。金融機関相手に素人が裁判で勝つというのは、原理原則を考えるとほとんど無理なんですよ。

――あ、無理なんですか?

Aさん ポイントは立証責任なんですが、借りていた事実を立証するならともかく、「借りてません」ということを立証するのって、ものすごく難しいんですよ。今回でいえば、架空口座を開設したときに金城さんの印鑑が使われていますが、あれ偽造ですよ。でも偽造だということを立証するなんて、ぶっちゃけ犯罪者の自白しかない。でも、民事訴訟で犯罪者が自白するはずがないですよね。裁判官もそれを分かっているから、「気の毒だけど立証できないでしょ、じゃ棄却しますね」となるわけです。

――たしかに今回の判決文を読む限り、裁判官も「不正の可能性は大いにあるけど」というニュアンスの表現をしてくれているんですけどね。

Aさん 裁判官にしても「こりゃ絶対、農協やってるな」と思ってますよ。でも、裁判所は事実を追求する捜査機関ではないですからね。原告の主張だけに絞って、その言い分を立証できているかどうかを判断するのが仕事なわけで。

――となると立証責任を負う方が不利になりますね。

Aさん どんな裁判でも立証責任を押しつけたほうが勝つんですよ。もっといえば、やり方によれば金城さんは勝てた可能性もあるんです。この訴訟と同時に、債務不存在請求確認訴訟を起こす。つまり、「私が融資を受けたという証拠を出しなさい」という、立証責任を農協側に押しつける裁判です。もし私が農協側の担当者だったら、これをされたら負けも覚悟しますね。

――弁護士の戦略ミスということでしょうか。

Aさん そうだと思います。ただ、現実問題として金融に精通した弁護士って、実は日本に数えるほどしかいないんですよ。そういう人たちは皆、金融機関向けの企業弁護士をしてますから、そうなると弁護士同士で利益相反になるので、こういう個人の案件はあまり受けてくれないんですよね。

――同じ”金融ムラ”の弁護士同士ではケンカしないということですか。

Aさん はっきりいうと、そういうことです。仕方ないので被害者は、金融に精通していない、戦い方もよくわからないという弁護士に依頼するしかない。なので、一般人が金融機関と揉めたときにまともな裁判を受けることは、実はほとんど不可能に近いというのが現実なんです。

――監督官庁である金融庁はこういう事態をどう見ているのでしょう。

Aさん 本来こうした案件は司法になじまないわけで、行政が取り締まるべき問題だと私は思います。ところが、コンプライアンスが重視される昨今では、いかに金融庁でも確かな証拠がないと動けないですからね。疑惑だけで討ち入りして証拠が出なければ、こんどは逆に行政が裁判で逆襲されますから。

――いま「証拠」という言葉が出ましたが、金融機関のシステムから証拠をあぶり出すのも相当困難のようですね。本サイトで報じたゆうちょ銀行の事件もまさにそういう話でした。

Aさん 困難というか、ほとんど無理に近いですね。 金融機関は内部資料を開示しないから、立証できないとわかっている弁護士は引き受けてくれない。金融に精通している弁護士であればなおさらです。つまり、個人が金融機関に裁判で勝てない理由をまとめれば、【1】行政(金融庁)が動かない、【2】金融知識のある弁護士が少ない、いても受けてくれない、【3】金融機関が情報開示しない、以上の3点でしょうかね。

――あえて解決策を提示するとすれば。

Aさん 短期的には難しいですが……。まぁ、時間をかけて世論を醸成し、金融機関への監視を細かく厳しくできるような法体系にするしかないんじゃないでしょうか。現時点で決定打となる解決策はないというのが正直なところです。

いまJAの存在価値を考える

ちゃんとしてほしい。

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最終更新:2013/09/11 15:54
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