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韓国企業への"転職のススメ"【1】

サムスン、LG……日本に進出する新興勢力の人気度「あなたは、韓国企業で働きたいですか?」

【プレミアサイゾーより】
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──世界的企業へと成長を遂げた韓国企業。しかし、今後が期待されているわりには、日本人からは「働きたい」という憧れの声がやや少ないように思えるのはなぜなのか? 韓国系有名企業で日本人が働いてみるとどうなるのか、転職業界関係者の声や、韓国経済に詳しい識者の意見から探ってゆく。

1202_kankoku_tobira_n.jpg(絵/河合寛)

 年が明けて間もない1月2日、「サムスン電子が日本のテレビ市場に再参入する予定」と韓国メディアが報じた。日本ではNTTドコモのスマートフォン・GALAXYシリーズで一気に国内での知名度を上げた同社は、韓国の財閥企業・サムスングループ系列の電機メーカーであり、薄型テレビで世界シェア1位を誇るトップ企業だ。テレビ市場では2002年に日本に初参入、売り上げが伸びず07年に一度撤退したが、00年代後半から現在に至るまでの世界市場での成長ぶりをもって、再び日本に挑む格好となった。同じく韓国の電機メーカーで、薄型テレビ世界シェア2位、LED液晶パネルでは1位のLGエレクトロニクスも、10年に日本のテレビ市場に再参入を果たしている。

 サムスン電子とLGエレクトロニクスの2社は、各種経済動向をチェックしている人間であれば知らない者がいないほどその名が響きわたっている。サムスンとアップルのスマホ・タブレットをめぐる一連の訴訟問題など、あまり喜ばしくないニュースも含めて、世界的に注目されている企業だ。

 しかしながら、日本の転職・就職サイトで発表されている各社調べの「人気企業ランキング」などでは、この2社の名前を見ることがない。周囲を見渡しても、欧米の外資系企業とは異なり、「韓国系企業で働きたい!」という人はほとんどいない印象だ。今が伸び盛りの企業であるのに、日本では働く先として人気がなさそうなのはどういうわけだろうか? 外資系の転職エージェントに聞いてみた。

「日本支社での求人に関しては、関連部品や製品の輸出入管理とアフターサービスが主な業務で、やりがいが期待できないためか、あまり人気がありません。本社やその他韓国内の求人に関しては、留学経験があって韓国語が堪能な方や韓国にルーツを持つ方を除けば、サムスンやLGの名前を出しても反応はいまいち。人によっては『絶対嫌だ』という方も。

 両社とも相当な実力主義であることが、敬遠されているゆえんのようですね。今後が期待される会社ではありますが、これまでの成長の過程で相当な数の社員が振り落とされているわけです。結果が出せなければ、すぐ解雇される。サムスン電子の韓国本社では、退職年齢も若く、大体が50代半ばで退職している。能力に自信があり、ステップアップを求める人にとってはいい環境でしょうが、日本的雇用とは真逆。また、一般的な認識としては急に台頭してきた企業なので、この好調がいつまで続くかわからないというのも不安材料のようです」

 これに対し、2社の同業たる日本のメーカーに勤める技術系社員はこう言う。

「知人で、日本の大手メーカーからLGに転職した技術畑の人間などはいます。日本メーカーからの引き抜きは盛んなようですよ。年俸制で、給料はかなり上がったと聞きました。でも今のところ日本には2社とも大きな生産拠点もないので、多くは韓国に行かざるを得ず、言葉の壁が大きいですよね。個人的には、日本ではいわゆる”花形”の開発が広くやれるわけでもなさそうなので、そんなに行きたくはないかな」

 どうやら、日本企業とは大きく異なる働き方が不安、かつ転職したとして、何ができるのかがいまいち不透明で二の足を踏む──というのが、転職市場における主な不人気の理由のようだ。

■オーナー経営に実力主義韓国式経営はここが違う

 日本と韓国の企業で、大きく社風が異なる理由はどこにあるのか? 多摩大学経営情報学部教授で『なぜ韓国企業は世界で勝てるのか』(PHP新書)の著者・金美徳氏に聞いた。

「サムスンやLG、現代(ヒュンダイ)、SKグループ【編注:通信会社・SKテレコムやエネルギー企業・SKエナジーを中核に抱える。両社はそれぞれ韓国内シェア1位を占めている】など、韓国4大財閥系企業と日本企業の一番の違いは、オーナー企業であるかどうかでしょう。韓国企業では、会長であるオーナーの権限が一番強くて、社員もその言葉をよく聞いている。日本と違って、トップの影響力がとても強いんですね。大企業であっても即断即決、上司も曖昧なものの言い方はしません。それには軍隊経験があることも影響していると思います。また、総合職であれば個人の裁量は大きく、代わりに業績不振やトラブルが発生したときの責任の所在も明確です。日本の大企業だと組織、あるいは部署の責任になることが多いですが、韓国ではそういうことはない」

 実際、サムスングループでは会長の李健熙(イゴンヒ)氏が全権を握り、グループ会社各社に不正や業績不振が発生した際には、各社社長の即時更迭を含めた大人事異動を行うなど、その影響力は甚大だ。さらに、前出の転職エージェントが述べた通り、韓国企業の実力主義は相当に苛烈なものだという。

「韓国では学校教育の段階からリーダーシップ教育を重視しており、それは企業体でも変わりません。そのあたりも日本との大きな違いでしょう。韓国企業はその分エリート主義がとても強いので、社内での競争に負けたら、どんどん切られていきます。今成長している韓国企業は、世界的に見て早い段階からBRICsなどの新興国での市場開拓に着手しましたが、その過程でも失敗をすれば、どんどん人員を切ってきた。国内でも海外でも、成果が出せなければすぐクビになりますから」(前出・金教授)

 元サムスン電子常務の吉川良三氏も、経済メディアのインタビューで 「サムスン電子では、目標達成のために土日も深夜もなく社員は働いている。目標を超えて利益を出せば、一部が年俸以外の特別ボーナスとして支払われるが、自分の所属する部門が収益を出せないとゼロ。社員にとっては死活問題なので、皆がむしゃらに働く」「成果に応じて、部門だけでなく個人、なかでも幹部を中心に大きな報酬を与え、格差をつける。役員になれば運転手付きの車や自宅と、福利厚生も充実している。あえて差をつけることで、社員を奮起させる狙いがある」という旨を述べている。日本では、富士通やマクドナルドなど、能力給制度を導入した企業が結局うまくいかずに従来の年功序列制に戻したという経緯からも、成果主義はなじまないといわれている。それでは日本的経営に慣れた人材が移動する転職市場で、人気が出ないのも納得だ。

 ちなみに、金教授によれば、学生の間でもあまり人気はないらしい。

「韓国では、4大財閥系企業はものすごく人気があるので、就職の倍率は高いです。ですが例えば日本人の学生に『もし、韓国企業で働くという選択肢があったらどうする?』と尋ねると、彼らは悩んでしまう。なぜかと聞くと、『日本に貢献できない』とか『生きがいを感じられそうにない』と言うんです。でも、日本支社なら日本に法人税を払っているんだから貢献できるし、日本の企業に行ったところで素晴らしい上司やリーダーに恵まれて生きがいを感じられるのかといったら、そんなのわかりませんから、屁理屈だと思いますけどね(苦笑)」(同)

 なお、本誌11年2月号で報じた通り、サムスン、LGも、社内にそれぞれ爆弾を抱えている。サムスンが現在アップルと世界各地で訴訟中であるのと同様に、LGもシャープやソニー、日立といった日本の大手メーカーから特許侵害で複数件の訴訟を起こされている。サムスンはサムスンで、半導体工場で働いていた労働者が相次いで白血病やリンパ腫にかかり、なかには23歳の若さで亡くなった女性もいたことから、工場の労働環境が原因であるとしてデモや訴訟を起こされた。最近では、ブラジルの工場でも労働者の虐待が問題化した。また、こちらも注目企業の現代自動車では、「ストの現代」と呼ばれるほど労働争議が激しく、組合員とホワイトカラーが鉄パイプや火炎瓶を用いて武闘派な応酬を繰り広げている。そうした争議による年間損失額が、1兆ウォンを超えるとする試算もあるほどだ。

 こうした問題は基本的に韓国内において発生していることなので、現段階での日本支社で働こうと思う日本人にとっては直接的に影響はない。しかし、好調が喧伝される各社であれど、スネに傷のひとつやふたつ存在することは、知っておいたほうがいいだろう。

■IT企業はやや人気、芸能関係はからっきし!?

 日韓の企業風土の違いと、日本での就職人気の低さの理由についてここまで見てきた。だが一方で、電機メーカーと同じく韓国企業の得意ジャンルであっても、日本人からそこそこ人気のジャンルもある。それはITだ。

「オンラインゲームコミュニティサイトのハンゲームや検索ポータル・NAVERを運営するNHNジャパンは、IT業界やメディア関係に勤める人の間では、転職先としてそれなりに人気があります。10年にライブドアを完全子会社化し、今年1月1日付で旧ライブドアのポータルサイト運営事業とネイバージャパンを吸収合併して本格的に新体制へ移行するなど上り調子ですし、日本のIT企業とも似た、若くて自由な社風。もともと日本人スタッフのほうが多いようですしね。

 韓国系IT企業への転職については、メーカーの場合に比べて反発が少ないです。理由としては、働く日本人の側の世代が比較的若いこととリベラルな雰囲気が強いこと、そもそも業界的に国内・海外の垣根が低いことが挙げられます」(前出・転職エージェント)

 IT業界に勤める人もこれに同意する。

「11年12月には、韓国オンラインゲーム大手のネクソンが東証1部に上場して話題になっていましたよね。韓国は政策としてIT産業に力を入れているためか、カンファレンスなどで同席すると、優秀な人は多いと感じます。それと、日本語ができる人もかなりの数いるんじゃないかな。だから韓国系IT企業は、日本人にとって働きやすい環境なんじゃないでしょうか」

 ちなみに、これもまた海外進出の成功例としてよく挙げられるKポップ関連企業に関してはどうだろうか? 韓国の芸能事務所各社や、イベント会社と仕事をする日本人に尋ねてみると、どうやら苦労が多い様子である。

「口約束やハッタリが多すぎる。商習慣の違いなのかもしれないが、やりづらくて困ってる。特に最近は、日本に行けばある程度売れると思ってる事務所などもあるから、少しでも条件が折り合わないとすぐヨソに話を持って行ったりして、じっくり仕事するのが難しい」(レコード会社社員)

「撮影のドタキャンや、イベントの急な内容変更が多くて振り回されますね。写真のレタッチや見え方に関する要求も、日本の芸能事務所より細かかったり、無茶なことを言ってきたり。それと、韓国の事務所と日本支社でコンセンサスが取れていないことがあって、そのせいで話が混線したりと、実に厄介です」(韓流雑誌編集者)

 彼らに「韓国の芸能プロやマスコミで働きたくない?」と聞いてみたところ、「取引でも面倒なのだから、一緒に働くなんて無理」「それならいちファンとして見てるだけで十分」との答えが返ってきた。この世界で働きたいと思っているKポップファンの諸兄は、覚えておいて損はないかもしれない。

■日本メーカーがここから巻き返すには?

 あらためて振り返ると、2011年は、フジテレビデモに代表される嫌韓ムードが一部で高まったような年だった。そうした動きは、かねてより存在した大手メディアへの不信感と、サムスンなどのケータイ市場席巻、09年頃から続くKポップブームなど、韓国から出てきたものが日本人の生活に入り込んできていることへの(それ自体を捏造とする向きもあるが)反発が結託して始まっていたといえるだろう。では、韓国の企業が日本をはじめとする諸外国市場へ乗り込むことに積極的なのはなぜだったのだろうか?

「韓国は、人口が約5000万人と国内マーケットが小さく、企業は海外市場を目指さざるを得ないのです。そのため、グローバル意識、さらにいえばアジア圏を意識して商売をしてきた。韓国企業は、国内で儲けたお金を海外に投資します。例えば現代自動車でいうと、海外ではエアバッグは標準装備ですが、国内では高価なオプションになる。そうしたことが可能なのは、同社が国内の自動車市場で8割を占め、圧倒的な影響力を持つ寡占企業だからです。

 そうして得た利益を、海外展開に投資している。日本はずっと逆で、国内に十分な市場があったため、新興国ビジネスに着手するようなグローバル意識は持てなかった。その差が、今のサムスン電子やLGと日本メーカーの差であり、日本メーカーの今後の課題なのではないでしょうか」(前出・金教授)

 確かに、日立やパナソニックはテレビ部門の縮小を発表し、ソニーが4年連続で赤字となるなど、国内メーカーの業績不振が続く今、もはやこれまで通りのビジネスが通用しないのは明白である。

 そして11年は、東レやJX日鉱日石エネルギー、住友化学工業など、韓国に工場や開発拠点を移す企業が増えた年でもあった。もともと法人税が高かったところに加えて、原発事故を受けての電力インフラ不安、輸出業に大打撃を与える超円高と、日本国内に生産拠点を置いておくことのメリットは少なくなっている。韓国であれば、アメリカとのFTAと政府主導のウォン安政策で輸出もしやすく、日本より法人税も安い。インフラ不安も今のところはなく、サムスンやLGなど、部品・素材の買い取り先が見込めることが移転の要因となっている。

「日本は長い間、アジアを軽視してきました。自分たちが教え導いてあげる存在だと思ってきた。それが今の日本の壁になっていると感じますね。だからこれからは、『韓国企業に学ぶ』というわけではありませんが、日本人のやり方でアジアとフラットに付き合っていく方法を模索するしかないでしょう。特にこれからの若い人は、アジアが成長期を迎えたことを前提に生きていくしかないのですから」(同)

 明治初期に「脱亜入欧」が唱えられてから約140年。韓国企業の進出によって日本の労働市場にも動きが生まれてくれば、この呪縛も解ける時が来るのかもしれない。

(文/小宮明洋)

【プレミア関連記事】
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最終更新:2012/01/30 19:40
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