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サッカー北朝鮮代表へ直撃!!

金正日総書記死後も変化なし!? チョン・テセが語る朝鮮とサッカー

 暮れも押し迫った11年12月19日、衝撃的なニュースが舞い込んだ。朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)の朝鮮中央テレビが、国家指導者である金正日総書記が同月17日に死去したことを公表したのだ。日本のマスコミは北朝鮮情勢に関する報道一色に染まったが、そこに映るのは金正日総書記の訃報を受けて泣き崩れる北朝鮮の国民たち。しかしそれが、本当の北朝鮮人の姿だと思っている日本人は少ないはずだ。隣国であり日本とも関係が深いにもかかわらず、我々はこの国のことをよく知らない。一体北朝鮮とはどういう国なのか? 日本で生まれ育ちながら「韓国籍」を持ち、北朝鮮代表になることを選んだチョン・テセ選手に話を聞いた。

1202_tese.jpg11年12月末、家族と正月を過ごすために久しぶりに帰
国したテセ選手は、懐かしい川崎の土地で、握手を求め
るファンにも快く対応していた姿が印象的だった。
(写真/江森康之)

──早速ですが、チョン・テセ選手がなぜ北朝鮮代表を選んだのか、あらためて教えてください。

チョン・テセ(以下、テセ) 小学校の頃から、朝鮮学校に通っていたことが大きいですよね。教育の中で、「自分は何人なのか」というアイデンティティが確立されたからです。

──それは、どのような教育なんでしょうか?

テセ 一番大きいのは、在日の歴史ですね。歴史を掘り下げることで、自分たちの民族に誇りを持てるようになりました。もちろん歴史には二面性があるから、それぞれの国が、それぞれに都合のいいことを教えてしまうのは否めない。けれど自分が受けた教育にはそれなりの理由があるし、その歴史観に対する自分の中での確信もあります。

──逆に日本人は、アイデンティティが薄いようには感じませんか?

テセ それはどの国も同じですよ。僕たちは日本の中で”マイノリティ”として暮らしているから、民族としてのアイデンティティが自然と芽生える。日本人は日本社会の中でそういうことを意識しなくても、なんの問題もなく生きていけますから。ただ、日本人の歴史に対する意識の薄さだけは感じます。例えば、韓国人が竹島について日本人に聞いても、「よく知らない」で終わってしまう。どちらが正しいということではなく、単純に知らないんです。とはいえ最近は、歴史に対する認識の違いを話し合う必要があるのかと、考えたりもします。グローバルな時代には、そのことが足かせになるんじゃないかと。

──以前あるインタビューで「結婚するなら在日」と答えていましたが、ドイツ人女性に興味はないですか?

テセ ないですね。単純に母語が違うと口説くのが面倒なんで(笑)。同じ理由で韓国人とかもあんまりね。朝鮮学校は基本的に朝鮮語で話さないといけないんですが、やっぱり在日は、ボキャブラリーに乏しいんですよ。

 10年に民主党の目玉政策でもあった高校授業料無償化が実施された際、朝鮮学校では、無償化が適用されなかった理由として、偏った教育がなされているというニュースが流れた。だが少なくとも、小中高大16年間にわたって朝鮮学校で教育を受けたテセ選手の考え方は、とてもバランスが取れている。その理由のひとつを、「朝鮮学校も日本社会の一部だから」というテセ選手だが、そんな日本社会で育った彼から見て、北朝鮮の人々はどう映ったのだろうか? また日本のマスコミでは伝えられない、金正日総書記死去に対する在日朝鮮人の本音はどうなのか?

──ワールドカップの代表活動を通じて、北朝鮮の人たちと触れ合って感じたことを教えてください。

テセ 当たり前のことですけど、触れ合ってみて悪い人なんていないですよね。国民は普通に生活しているんです。ただ朝鮮の人は、新しいものを受け入れるキャパはあるのに、それを埋められる環境がない。だからみんな、子どもみたいに好奇心は旺盛ですよ。「日本でどんな生活をしているんだ」とか「どんな車に乗ってるんだ」とか「女は好きか」とか、うざいぐらい聞かれますから(笑)。それと朝鮮は、団体行動が基本なんです。個人に対して、ある意味でデリカシーがない。デリカシーって資本主義社会で生まれる概念で、向こうはプライベートまで共有しているんです。例えば朝鮮の人は写真を見るのが好きで、ずっと僕の携帯電話に保存されている写真を見ている。日本人だったら嫌がりますよね。”国内の常識は海外の非常識”なんて言いますから、これが向こうの文化と考えれば違和感はないですけど。

──ただ、ユニフォームを自分で洗ったり、道具を全部自分で用意しなければならないことには苦しんだとか。

テセ 環境は心の底から嫌でしたね。自分が描いていた代表の環境とは、やっぱり日本代表だった。そこまでいかないにせよ、自分が不便を感じない程度のものを想像していたので、非合理に感じましたね。彼らにとっては選手に負担をかけることが罪じゃないし、選手もそれが当たり前だと思っている。それが向こうの常識なのかもしれないけど、外の世界を知っている僕からすると、やっぱりワールドスタンダードを目指さなきゃいけない。用具係ひとり雇うだけでも環境は変わるはずだし、予算だけの問題じゃなく、そういう意識が芽生えていけばいいと思います。

──北朝鮮代表として、初めて日本代表と対戦した08年の東アジア選手権。「君が代」が流れて、号泣するテセ選手がテレビに映し出されていましたが。

テセ 日本で生活しているから、「君が代」に耳なじみがあるじゃないですか。それでなのか、朝鮮の国歌と勘違いしちゃったんです。次に自分たちの本当の国歌が流れてきて、「やっちゃった!」って焦りましたね(笑)。それで、試合が終わったあと、ほかの選手にワーワー言われて、言葉が早くて聞き取れなかったんで、「そうそうそう」と適当に相づちを打ってたんですよ。そしたら同じ在日の選手に、「お前、さっき『日本が自分の国だと思ってんの?』って聞かれてたんだぞ」って言われて。みんな笑ってましたけどね。

──その一方で、11年11月に平壌で行われた日朝戦では、試合前に「君が代」が流れて、北朝鮮の観客側から大ブーイングが起きました。試合終了後、テセ選手はツイッターに「申し訳ない気持ち」と書かれていましたが、どういった心境だったのでしょうか?

テセ あのブーイングは、自分の生き方、自分の目指しているものとは方向性が違うものでした。単純に、スポーツに政治は介入してほしくない。もちろん過去に戦争していた国に、しかも朝鮮のような国に、それを求めるのは少し難しいかもしれない。でもこれから朝鮮代表が成長していくためには、歴史上の国家間の問題よりも、まずは自分たちの技術を見つめないと。「まだまだなんだな」という意味も含めて、悲しかった。

──金正日総書記が死去し、北朝鮮の国民が泣き崩れる映像がテレビで流れましたが、在日社会に変化はありましたか?

テセ 僕はドイツのプロリーグに所属しているので、周囲の変化はわかりませんが、一個人として、ひとりの人が亡くなったことに対する悲しみはあります。とはいえ、行動が制限されているようなことは特にないです。個人的にも、日常を変えたくないと思っています。だから、(報道があった19日に)ミチ【編註:現在ドイツのフィテッセにいる安田理大選手のこと】の誕生会の写真もブログにアップしたし。とにかく僕が望んでいるのは、(北朝鮮の)国民の幸せだけです。ただひとつ言いたいのは、在日の人たちから強引にコメントを取ろうと、メディアの人たちが朝鮮学校に押しかけるのはやめてほしい。テレビ局は数字の勝負なんでしょうけど、政治的問題を過剰に報道して注目を煽るのは、不信感を抱きます。

 テセ選手は、在日である自分の存在を「歴史の生んだ矛盾」という。確かに日本と北朝鮮には、歴史観の問題や拉致問題など、乗り越えなければならない壁が山ほどある。しかし、近くて遠い国・北朝鮮を理解するためにも、今後テセ選手のような在日の人たちが、意義深くなっていくのではないだろうか。次号でも、彼のサッカー選手としての心境の変化に、引き続き追っていきたい。
(構成/大熊信)

チョン・テセ
1984年、愛知県生まれ。サッカー選手。川崎フロンターレでFWとして活躍し、10年にはドイツ・ブンデスリーガ2部のボーフムに移籍。韓国籍を持って日本に生まれながら、ワールドカップでは北朝鮮代表としてプレーする。

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最終更新:2012/01/17 21:00
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