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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.173

“三島割腹事件”を若松孝二監督が映画化!『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』

 自衛隊を武士道精神を受け継ぐ拠り所と考えた三島由紀夫は自衛隊に体験入隊し、自衛官たちと交流を重ねていく。そして、若者たちに呼び掛けて、民兵組織「楯の会」を結成する。運営費や制服代は、三島由紀夫の作家としての収益が当てられた。1960年代の大学を吹き荒れた学園紛争に反感を感じていた民族派の学生・持丸博(渋川清彦)や森田必勝(満島真之介)らが「楯の会」に参加し、麗しき男たちの王国が築かれる。国の未来を憂うことで一心同体となった彼らは、来るべき日のための訓練に汗を流し、酒を酌み交わし、『昭和残侠伝』(65)の主題歌「唐獅子牡丹」を朗々と歌う。三島由紀夫夫人・瑤子(寺島しのぶ)は女の自分が立ち入れない“男だけのユートピア”がちょっぴり羨ましげだ。

mishimayukio_03.jpg多くの若者たちが三島のもとに集まるが、
「楯の会」に入会するには自衛隊で1カ月以上
の軍事訓練を体験しなくてはならなかった。

 三島由紀夫というとアブノーマルな作風からホモセクシャル疑惑がつきまとうが、若松監督はその点に関しては安易にスキャンダラスな描き方をしない。その代わり、三島由紀夫と森田必勝らは一緒にサウナ風呂に入る。タオル一枚で全身から玉のような汗をダラダラと流しながら、男たちは熱く語り合う。三島由紀夫を何よりも崇拝する森田必勝は「先生、ボクは死ぬことは怖くありません!」「この国のために、身を捧げることができるなら本望です!」と大きな目をギラギラさせながら三島に迫る。ついに三島は「楯の会」の中から信頼できるメンバーを率いて、行動に出ることを決意。市ヶ谷駐屯地で自衛官たちの決起を促し、その後“改憲”を訴えて自衛隊と共に国会を包囲するというクーデターを画策する。駐屯地に押し入る際の武器は、日本古来からの武器である日本刀のみ。決起を誓い合った三島由紀夫と若者たちは、今まで感じたことのない究極の恍惚感に酔いしれる。

 みずから若松プロに電話して、『実録・連合赤軍』のオーディションに参加して以来、すっかり若松作品の常連俳優となったARATAこと井浦新。『11.25自決の日』と同時期に撮影した『海燕ホテル・ブルー』の公開時に話を聞いたところ、若松監督から三島由紀夫役を頼まれたのはクランクインの2か月前だったそうだ。

「若松監督からは『実録・連行赤軍』の撮影中に『左の次は右も撮るぞ』と聞いていたんですが、まさか自分が三島役をやるとは思いもしていませんでした。若松監督から頼まれたら断ることはできないんですが、正直なところ、うれしいというよりプレッシャーでしかなかったですよ(苦笑)。役づくりに1年あっても足りないくらいなのに、2か月ですから。でも、若松監督からは『物まね映画にはしない。お前の考える三島由紀夫を演じればいいんだ』と言われ、すごく気が楽になりましたね」と語ってくれた。以前より、1960年~1970年代の文化に興味があり、三島文学もたしなんでいたので、撮影前に慌てて三島由紀夫全集を読み直したりすることはなかったそうだ。三島由紀夫研究読本などに手を伸ばすこともなく、写真集『薔薇刑』などの撮影を通して三島由紀夫と親交のあった写真家・細江英公のエッセイなどを思い出しながら、三島由紀夫役に挑んだという。

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