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元木昌彦の「週刊誌スクープ大賞」第141回

「東電OL殺人事件」再審決定 信頼感を失った司法の世界に風穴が開く?

 クルーグマンはこういっているではないか。この危機を乗り越えるためには、ユーロ諸国、アメリカ、日本などが一斉に大恐慌並みの大胆で積極的な財政・金融政策をとればいいと。

 世界中の先進国が頭を抱えている国債、借金問題などそれほど恐くないとも言っている。

「経済が成長すればそれは返すことができる。イギリスがかつて成長を謳歌していた時代にも、同国は大量の借金を抱えていたという事実をどうして誰も語ろうとしないのか。そうした意味でも、成長のための政策がいま求められているのだ」(クルーグマン)

 政治に求められているのは、消費税を上げることではなく、どうしたら経済を成長させることができるかであろう。週刊誌はやたら危機を煽るだけではなく、そのために何をしなければいけないのかも提示することが求められるはずである。

 さて今週のグランプリは、1997年に起きた「東電OL殺人事件」で逮捕されたネパール人ゴビンダ・プラサド・マイナリ元被告が、一審で無罪だったにもかかわらず、二審で有罪になり2003年に無期懲役が確定したが、これを「冤罪」だとして取材を続けてきたノンフィクション・ライター佐野眞一の怒りの手記である。

 ゴビンダは無罪を訴え続け、再審請求してきたが、8年経ってようやく東京高裁が再審を決定した。

 佐野は、この背景には最新のDNA鑑定、足利事件の菅谷利和の無罪、大阪地検特捜部などの信じられない不祥事の連続が「逆バネ」になって再審への道が開かれたと書く。

 佐野は、ゴビンダが犯人ではないと確信を持つようになった理由をあげている。ゴビンダが働いていた千葉幕張のインド料理店から渋谷まで、同じJRにストップウオッチを持って乗り込んでみたところ、警察が発表した殺害時刻には殺害現場には着けないことがわかった。

 ゴビンダの故郷のネパールへ行き、彼と同じ渋谷の円山町アパートで暮らしていた同室者に話を聞いたところ、一人はゴビンダのアリバイを証言し、一人は警察によって殴る蹴るの暴行を受け、就職の斡旋まで受けてゴビンダを犯人に導く証言したことを告白した。

「一審無罪だったゴビンダは、憲法違反の疑いが濃厚な再拘留決定を受けた上、控訴審の東京高裁で逆転有罪無期懲役の不当判決を言い渡された。そのとき、ゴビンダが日本語で『神様、やってない』『神様、助けてください』と訴えた悲痛な叫び声は、いまでも私の耳にこびりついて離れない」(佐野)

 この判決を言い渡した高木俊夫裁判長は、狭山事件の第二次再審請求を棄却し、足利事件の控訴審を棄却した「札付き裁判官」であること、ゴビンダが欧米や韓国、中国の人間ではなくネパールという最貧国からの出稼ぎ労働者であったから、その背景にレイシズム(民族差別感)があると書いている。

 再審開始の決め手になったのは昨年7月、殺害現場から発見された陰毛と被害者の体内に残されていた精液が、最新のDNA鑑定によって、ゴビンダ以外の第三者のDNAと判明したことである。

「東京高裁がここまで踏み込んだ決定を下した背景に、完全に信頼感を失った司法に対する強い危機感があることを感じた。これは希望を失った司法の世界に大きな風穴を開ける画期的な決定だったと率直に評価したい」(佐野)

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