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ラジオ批評「逆にラジオ」弟8回

気づきすぎるコラムニストが、虫めがね的観察眼で見いだす小さな大発見『えのきどいちろうの水曜Wanted!!』

 だが、その小学生のような目線で見つけた疑問が、そのまま手前にとどまっているのではなく、いつの間にかはるか遠くまで飛躍していくのがえのきどの真骨頂。「新聞はいつまで『新』聞なのか?」「古新聞という言い方は古いのか新しいのか?」「新幹線はいつまで『新』幹線なのか?」「京成は新京成のことを、『アイツいい気になりやがって!』『いつになったら大人になるんだ』と思ってるはず」などと、この世に蔓延するさまざまな「新」に疑問を投げかけていく。そこまで来ると、聴いているこちらも、「新番組がいつまで新番組かはどうでもいいにしても、新幹線がまだ新幹線なのはなんだか納得いかないぞ」とか、「いくらなんでも新京成にバカにされる京成はかわいそうだ!」(完全にイメージだが)という気分になってくる。実際にリスナーからも、「考えてみれば新宿や新橋も全然新しくない」「みなとみらいはいつか『みなと過去』になるのか?」なんて抜き差しならない疑問が数々噴出してきて、コーナーをいくつか挟みつつも、気づけば「新」に関する話題のみで2時間弱の番組が終わるという、おそらくは史上もっとも小さいテーマから飛躍的な盛り上がりを見せるという稀有な事態が起こっていた。

 そして、先日の4回目の放送(3回目はTBSでは裏送りのため放送がなかったが、Podcastで聴取可能)では、アシスタントの川瀬良子という、これまた文字どおり手前にいる人間にスポットを当て、「川瀬良子が悲しみを受け止めるのだ」というテーマで、リスナーからの悲しい報告をアシスタントにひたすら投げ続ける千本ノックのようなことをやり、川瀬のポテンシャルを見事に引きだしていた。

 リスナーからの「道ばたの黄色いゴミネットが秋田犬に見えた」という疲れきったメールに対し、「それは悲しい。ゆっくり休もう」という優しさあふれる回答の後、突如「犬がネットをかぶっていたのかもしれない」と急角度から新たな可能性を疑う川瀬は、たしかに落ち着いた番組進行能力と天然由来の率直さを兼ね備えた「知的なローラ」とも言うべきキャラクターを感じさせる逸材で、最後にはえのきども「川瀬さんのキャパシティに感動した」「川瀬にぶん投げときゃ間違いない」と半ば降参するように、その予測不可能な能力を確信するほど。わからないことを「わからない」とはっきり言ってしまうその素直さは、何よりもわからないものに興味を抱くえのきどにとってまさにお宝であり、彼女が「わからない」という反応を示したことを突き詰めていけば面白くなる、という試金石でもある。

 わからないことの中に飛び込んでいって、面白さを発見する。それが大事なことは誰もがわかっているはずだが、そのわからなさが、どこか遠くの、目の届かないはるか先のどこかにあるような気がして、面白さを探すことをあきらめてしまう。ネット社会になって以降、あふれる情報の海の前で、漠然と遠くを見つめてやり過ごすことが増えているような気配があるが、実は我々が見落としがちな面白さとは、遠く視野の外にあるものではなくて、目の前の、近すぎてちょうど死角になっているような場所に隠れているのかもしれない。近くを見るというのは、「近視眼的」という言葉もあるように悪い意味で捉えられがちだが、遠い目をしているだけでは何も見つけられない。えのきどいちろうはそんな大事なことを、教える気なんてさらさらないとぼけた口調と鋭い観察眼でこっそり示してくれる。
(文=井上智公<http://arsenal4.blog65.fc2.com/>)

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