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法社会学者・河合幹雄の法痴国家ニッポン

“役に立たない”監視カメラをそれでも警察が推進したいワケ

【サイゾーpremium】より

法と犯罪と司法から、我が国のウラ側が見えてくる!! 治安悪化の嘘を喝破する希代の法社会学者が語る、警察・検察行政のウラにひそむ真の”意図”──。

今月のニュース「監視カメラ」
1995年の地下鉄サリン事件をきっかけとする「体感治安の悪化」を背景に、2000年代以降、日本では監視カメラが爆発的に普及した。社団法人日本防犯設備協会の調査報告書では、映像監視装置(監視カメラ)の国内市場規模は、99年から03年の4年間で2.04倍に急成長している(表を参照)。

1211_houchi2n.jpg監視カメラの国内市場規模は、99年~03年までの4年間で2倍以上に膨れ上がった。(出典:日本防犯設備協会「防犯設備機器に関する統計調査」)

 ビジネスマンに人気のテレビ番組『ガイアの夜明け』(テレビ東京)で去る8月、「真夏の防犯カメラ密着24時~ここまで来ていた ニッポンの技術~」と題し、監視カメラの特集を組んでいました。監視カメラの性能向上を喧伝し、その普及を伝える内容でしたが、では本当に監視カメラは「防犯カメラ」たり得るのでしょうか? 今回は、この問題に迫ってみたいと思います。

 現在監視カメラは、国内に300万台以上設置されているといわれ、顔認証システムの進歩など、確かにその性能は年々飛躍的に向上しています。2003年の長崎男児誘拐殺人事件では、発生からわずか8日で加害少年が補導されましたが、その決め手となったのは、犯行現場近くの商店街に設置された監視カメラの映像でした。また、05年のロンドン同時爆破テロ事件でも、地下鉄の駅改札に設置された監視カメラが、実行犯4名の姿をはっきりととらえており、犯人グループの特定に役立ちました。

 このように、犯罪の捜査において、監視カメラは確かに有用です。しかし、お気づきでしょうが、どちらの事件においても、犯行を未然に防ぐという点ではまったく役に立っていません。カメラに監視されていれば検挙を恐れて犯行を思いとどまるはず、という主張もありますが、その理屈は、「理性を残して実行される」ごく限られた種類の犯罪にしか通用しません。大部分の「犯罪を犯すことを決心している」犯罪者がその考えを実行するまさにその時、それを止めることはカメラにはできないのです。

 実際、監視カメラの防犯効果を調査するため警視庁は、02年に新宿・歌舞伎町に50台の監視カメラを設置し、また、ロンドンではさらに大掛かりな実験が行われましたが、どちらの実験でも、酔っ払いから財布を抜きとるタイプの窃盗など、特定の犯罪以外では抑止効果は認められない、という結果が報告されています。にもかかわらず、なぜ監視カメラはこれほど普及したのでしょうか?

 新聞報道を調べてみると、日本では、95年の地下鉄サリン事件をきっかけとして、「体感治安」という言葉が氾濫するようになり、また、00年初頭には、刑法犯の認知件数(=警察の把握した事件数)が急増し、国民の犯罪不安が一気に高まりました。そうした状況を受けて警察は、「安全・安心まちづくり」という新たな方針を打ち出し、積極的に地域へ入っていくようになりました。実は、この「地域へ入る」というのは、警察にとって長年の大きな課題でした。

 というのも警察は戦前まで、自治会長などの地元の「有力者」と関係を築くことによって、地域住民のおおよその動向を把握していました。ところが戦後、郊外化・団地化による地域コミュニティの衰退により、警察は、地域住民の状況をつかむため、団地や住宅街などの各家庭を個別に訪問する必要に迫られました。しかしそうした行動は、プライバシーを理由に住民に煙たがられる傾向にあり、また、核家族化や単身赴任の増加などによって昼間は完全に留守になる家が急増し、住民と接触すること自体難しくなっていたのです。

 では、そもそも警察は、なぜ多大な労力を費やしてまで地域へ入りたがったのか? それは、警察と地域コミュニティのつながりや地域住民同士の結びつきというものが、犯罪の捜査と抑止に役立つことを、警察は経験則として熟知していたからです。

 ここは肝心な点なので、詳しく説明します。移動手段の限られていた時代においては特に顕著でしたが、実は現代においても犯罪の多くは、地元のワル、すなわち特定の要注意人物によって行われます。とかくメディアでは凶悪犯罪ばかりがクローズアップされるので、「犯罪とは外部のプロによって計画的に行われるもの」あるいは「得体のしれない異常者によって突発的に引き起こされるもの」と考えられがちですが、大多数の犯罪は、コミュニティ内の”隣人”によって行われているのが実情なのです。

 つまり警察は、地域コミュニティとつながりを持ち、普段からそうした各地域のワルの動向さえ押さえておけば、何か事件が起こったとき、効率的に捜査を進められるわけです。たとえ一発で犯人に当たらなくても、彼らの人脈をたどっていけば、最終的に犯人に行き着く可能性が非常に高くなる。

 一方、犯罪の抑止という点でも、地域コミュニティは重要な役割を果たします。例えば、ある者がこれからどこかへ盗みに入ろうとして、あるいは幼児にいたずらしようとして家を出たとします。ちょっと想像していただきたいのですが、そのとき、隣家のオバさんに、「どちらまで?」と声をかけられたら、犯罪を起こす気持ちを持続できるでしょうか? 冒頭に挙げた長崎の事件も、もし加害少年の知り合いが、4歳の子どもを連れて商店街を歩いている彼と出会い、「その子どうしたの?」と声をかけることができれば、犯行を防げたかもしれないのです。

 もちろん地域コミュニティの衰退は歴史の必然であり、以前の状態へ戻すことが可能なのか、そもそも現代の日本人がそこへ戻りたがっているのか、という点については議論の余地はあります。ただ、こと犯罪の捜査と抑止においては、地域コミュニティの再生が、監視カメラの導入などとは比べものにならないほど有益であるのは間違いないことなのです。

 だからこそ警察は、「地域へ入る」ことを切望していた。そして先述の体感治安の悪化によって、戦後長く続いた警察に対する地域住民の拒絶反応は、「警察官が見回ってくれれば安心」というところまで変化し、警察の介入を歓迎する風潮が広まっていました。警察側と住民側の思惑が合致したわけです。

 そうした中、警察が地域にかかわるチャンスとして転がり込んだのが、体感治安の悪化を背景とする監視カメラ導入機運の高まりでした。監視カメラが、商店街や公園など街のいたるところに導入されていった背後には、警察が設置の際のアドバイザーとして関与し、積極的に推進した側面があったのです。

 警察側としては、監視カメラの導入を口実として地域に関与することで、住民との協力関係を再構築できるという直接的な利点だけでなく、地域活動が活発化し、住民同士が知り合うことによって犯罪を抑止できる確率が高まるという間接的なメリットをも享受できます。もちろん、捜査情報を絞る上でも極めて有用です。いわば監視カメラの普及は、警察にとっていいことずくめだったわけです。

 ここで興味深いのは、犯罪の捜査や抑止という実質的な面において警察が、実は監視カメラを重要視していないという点です。冒頭で述べた犯罪の抑止効果については言うに及ばず、捜査に関しても、撮影された大量の映像を多大な時間と労力をかけて「誰が見るのか」という問題があるからです。監視カメラが捜査に役立った印象が強い、去る6月のオウム真理教元幹部・高橋克也容疑者の逮捕においてさえも、実はそのきっかけや逮捕そのものは、菊地直子容疑者の逮捕であったり市民からの通報であったりしたことは、極めて象徴的でしょう。

 しかしながら警察には、「監視カメラの効果は低い」と地域住民に真実を告げる気は毛頭ありません。アドバイザーとして期待され、警察OBも関与できる「安全・安心まちづくり」の盛り上がりに自ら水を差す気はないからです。性能のいい監視カメラはかなり高価であり、それを導入するためには、地域住民は相当話し合う必要があります。その中で警察と住民との、ないし住民同士の人間関係が生まれればしめたもの、というのが警察の本音なのです。

 このように監視カメラは、地域コミュニティの衰退による犯罪不安の高まりを受け、警察の主導によって普及したものの、実は住民の期待とは裏腹に「犯罪の抑止」という実質面ではあまり役に立たず、むしろ地域コミュニティ復活のための道具として機能しつつあるという、なんとも皮肉な運命をたどっているわけですね。

河合幹雄(かわい・みきお)
1960年生まれ。桐蔭横浜大学法学部教授(法社会学)。京都大学大学院法学研究科博士課程修了。社会学の理論を柱に、比較法学的な実証研究、理論的考察を行う。著書『安全神話崩壊のパラドックス』(岩波書店、04年)では、「治安悪化」が誤りであることを指摘して話題となった。その他、『終身刑の死角』(洋泉社新書y、09年)など、多数の著書がある。

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最終更新:2012/11/11 09:30

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