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テレビウォッチャー・てれびのスキマの「テレビ裏ガイド」第16回

何が本当の「まとも」なのか――『まほろ駅前番外地』で起こる小さな奇跡

 大根の監督デビューはカラオケビデオだった。その後、1年近くにわたって30本くらいのカラオケビデオを作っていた。当時のカラオケビデオは安価な制作費で、B級、C級モデルを使って1日3本撮りというのがオーソドックスなスタイルだったという。そんな中で、印象的なモデルの子に出会った。おそらく彼女が、この回の女性のモチーフになっているのだろう。

 制作会社などの情報をもとに、その女性を探し当てた多田と行天。彼女はモデルの仕事が低迷し、歌舞伎町のホステスに。しかし芸能界への憧れが捨てきれず、AV女優デビュー。その頃から覚せい剤に手を染め、逮捕。現在はバーを経営していた。

 彼女に幻想を抱いている依頼者には会わせないほうがいいんじゃないかという行天に、「頼まれた仕事は極力引き受ける」と多田は一計を案じつつ、依頼者をそのバーに案内する。そこで依頼者は、ある小さな奇跡のような対面を果たす―――。

 そんなシーンのバックに「この小さい町にも奇跡はありえる」と坂本慎太郎が歌う、エンディングテーマ「まともがわからない」が流れ始めるのだ。

 このドラマを見ていると、ED曲のタイトルの通り、何が本当の「まとも」なのかわからなくなる。生真面目に「まとも」に便利屋稼業を務めようとする多田の周りにいるのは、バディの行天を筆頭に、誰ひとり「まとも」とは言いがたいまほろの住民たちばかり。心に何かを抱えているに違いない多田にしたって、本当に「まとも」なのかどうかは危うい。「まとも」からずれた人々の、おかしみや哀しみが、このドラマからはあふれているのだ。

 彼らのダメさ加減は心地いいし、カッコ悪くてカッコいい。

 そして、そのダメさと優しさが重なり化学反応を起こすことによって、ハッピーエンドともバッドエンドともいえないラストシーンに、小さな奇跡が降りかかる。そうやって、まっとうで「まとも」な深夜ドラマが生み出されるのだ。
(文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>)

「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

最終更新:2019/11/29 18:12
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