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ラジオ批評「逆にラジオ」第23回

信玄とノムさんを融合させる松村邦洋至高の技が、歴史への扉を開く『DJ日本史』

 これだけでも十分に変則的なスタイルなのだが、問題はニつ目のパターンで、こちらははるかにスタートからゴールまでの経路がねじれている。たとえば松村は野村克也の口調で、武田信玄のマネをする。本人は信玄だと言っているのだが、そのボヤき口調は完全にノムさんのものだ。確かに「智将」というイメージは共通しているが、もちろんノムさんが信玄役をやったことなどない。信玄にボヤく印象もない。しかしその発言内容からは、それぞれの息子の名前が「勝頼」と「克則」で似ていて、ともに同程度に期待外れだったという共通点が、細い糸のように浮かび上がってくる。するとそのボヤき口調までが、不思議と徐々に信玄のものであるように思えてくるのである。これはちょっと異様な体験であり、ある種の発明であるといってもいいだろう。

 松村は同様に、ビートたけしの口調で聖徳太子のマネをし、在原業平に出川哲朗口調で「ヤバイよヤバイよ!」と言わせ、足利義昭の口からは「信長神の子不思議な子」というノムさんが田中将大を評した名ゼリフが飛び出す(つまりノムさんは、信玄にも義昭にもなる)。こうなるともう完全にカオスの様相だが、しかしモノマネにはなぜか、「マネされた本人に突如として親近感が湧く」という効能があるのも事実。おかげでその後、素に戻った松村と堀口によって語られる歴史上のエピソードが、抵抗なくすんなりと入ってくるようになる。

 歴史をエンタテインメントとして楽しむには、キャラクターを入口とするのが最もスムーズであり、大河ドラマや歴史小説、あるいは『信長の野望』や『戦国BASARA』のようなゲームから入る人も多いが、一瞬にしてキャラクターに入り込めるという意味では、この番組で繰り広げられる松村のモノマネ芸は、歴史への入口として最適かもしれない。

 そして実は、この松村のモノマネ芸自体にも興味深い歴史がある。彼はまず、2004年に糸井重里の『ザ・チャノミバ Tea for us.』(TBSラジオ)という番組でこの偉人モノマネ芸を披露。その翌年、糸井の働きかけにより、『ほぼ織田信長のオールナイトニッポン』(ニッポン放送)が実現し、その放送は一部ラジオリスナーの間で伝説化。そしてさらにしばしの時を経て、11年には『JUNK 爆笑問題カーボーイ』(TBSラジオ)内でこの芸が、再び大々的にフィーチャーされることになる。その際、爆笑問題の2人が松村のモノマネに大爆笑し続ける様子が非常に印象的だった。

 そんな紆余曲折の末、いまNHKという場所で、その絶品のモノマネ芸はようやく定位置を得た。さまざまな識者に引き立てられ、計3つの局を渡り歩きながら力をつけてゆくそのプロセスは、まるで主君を替えつつも家を守り抜く戦国武将のようでもある。『DJ日本史』とは、そんなたくましい芸をきっかけに日本史への入口を切り拓いてくれる、斬新な歴史エンタテインメント番組である。
(文=井上智公<http://arsenal4.blog65.fc2.com/>)

「逆にラジオ」過去記事はこちらから

最終更新:2013/06/16 15:00
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