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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.229

事件は有名ハンバーガー店で起きた! 従順さが招いた犯罪『コンプライアンス 服従の心理』

compliance02.jpg女性店長のサンドラ(アン・ダウト)は若いスタッフを束ねるだけで頭がいっぱい。そんなとき、警察を名乗る男から電話が掛かってきた。

 その日のマクドナルドはいつもより忙しかった。51歳になる女性店長のサンドラ(アン・ダウト)は朝からトラブル続きで頭がいっぱいだった。前夜、冷蔵庫を開けっ放しで帰った従業員がいたため、食材の一部がダメになっていた。従業員の落ち度は店長の責任でもある。しかも、いつ本部がお忍びで視察に来るか分からない。ギリギリの精神状態で働いていたところへ、警察と名乗る人物・ダニエル(パット・ヒーリー)からの電話が鳴ったのだ。スタッフはアルバイトばかりで、信頼できるのは副店長ぐらい。だが、副店長には自分の代わりに店を切り盛りしてもらわなくてはならない。レジを担当していた18歳の女性アルバイト・ベッキー(ドリーマ・ウォーカー)に掛けられた窃盗の疑いをどうすれば晴らすことができるか。電話の向こうでダニエルは「できるだけ穏便に済ませよう。捜査に協力してほしい。我々が到着するまで君が身体検査をしてくれないか」と言う。まったくの濡れ衣であるベッキーは身の潔白を証明するため、制服だけでなく、下着まで脱ぐことになった。他のスタッフたちはトラブルに巻き込まれないよう、バックヤードに近づかないようにした。

 なぜアイヒマンのような小心そうな男が命令とはいえ、ユダヤ人大虐殺に加担できたのか。アイヒマンの裁判を見て、疑問に感じたのはイェール大学の心理学者スタンリー・ミルグラムだった。アイヒマン裁判と同年、1961年にミルグラム博士は様々な職種、年齢の人たちを集め、ある心理実験を行なった。実験参加者たちは「先生役」と「生徒役」に別れて、テストを行なった。「先生役」が出題した問題を「生徒役」が間違えると、電気ショックが「生徒役」に与えられた。誤答する度に電圧が上げられ、「生徒役」は苦痛を訴えるようになった。実は「生徒役」は事前に仕込んでいたサクラで、高圧電流が流れているふりをしていたのだが、そのことを知らない「先生役」は「大丈夫ですか?」と実験を見守る教授の顔色をうかがった。教授が「テストを続けてください。そうしないと実験が成立しません」と促すと、「先生役」は次々と電圧を上げていった。「生徒役」が絶叫する姿を見ながら、致死量である450ボルトまで電圧を上げていった「先生役」は参加者の62.5%に及んだ。大学教授という権威者から命令されれば、実験参加者の過半数がそれに従うことが証明された。この実験は「ミルグラム実験」、もしくは「アイヒマン・テスト」と呼ばれている。

 レジからベッキーがいなくなり、店内は大わらわだった。警察はなかなか到着しない。店長のサンドラも、裸にしたままのベッキーにずっと付きっきりでいるわけにいかない。電話の向こうからダニエルは「誰か信用できる人物にベッキーの見張りを替わってもらってもいい」と提案してきた。そこでサンドラは婚約者のヴァン(ビル・キャンプ)を呼び出すことにした。友人と宴会中だったヴァンは状況がよく呑み込めないままマクドナルドに駆けつけ、電話の声に忠実に従った。ヴァンは裸エプロン状態だったベッキーのエプロンを脱がせ、後ろ向きで前屈状態にし、お金を体に隠し持っていないか入念に細部までチェックした。もはや身体検査ではなく、明らかな性的虐待だった。密室状態となったバックヤードの扉を開けて、「もうやめろ」と言い出すスタッフは誰もいなかった。

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