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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.236

もしも『モテキ』の幸世がオラオラ系だったら? 大根仁監督が接写した若者生態大図鑑『恋の渦』

koinouzu_03.jpgこちら女子会の様子。3人は同じ職場に勤めるショップ店員らしいが、ヒョウ柄を着こなすショップ店員ってドンキホーテか?

 それぞれ生々しい演技を見せてくれたのは、実践的ワークショップ「シネマ☆インパクト」(主宰・山本政志)の大根仁クラスに参加した約30名のメンバーから選ばれし若者たち。ワークショップと聞くとカルチャースクールっぽいイメージがあるが、大根監督は舞台版『恋の渦』を長編映画化することを前提に指導。約10日間のワークショップ期間中、前半は誰がどの役を演じるかのオーディション、後半は具体的なリハーサルに徹したそうだ。そして実際の撮影はわずか4日間! 4つの部屋が舞台となっているが、それぞれの部屋を1日ずつで撮り切るという早技だ。映画出演経験の少ない若手キャストたちだけに、4日間の撮影現場は想像を絶するカオス状態だっただろう。物語の最重要キーパーソンといえる“篠田麻理子似”のユウコ役に当初選ばれていた女性は、プレッシャーのせいか撮影の前々日に音信不通に。そこで今泉力哉監督の傑作恋愛コメディ『こっぴどい猫』(12)で好演していた後藤ユウミを緊急招集。キャストの失踪騒ぎと舞台や映画でのキャリアが多少ある後藤ユウミの特別参戦により、撮影現場はバチーンと引き締まったものになったらしい。トラブルさえ作品のクオリティーを高めるスパイスにしてしまうところは、まさにインディーズ映画ならでは。

 撮影日数4日間とは驚きだが、「映画秘宝」9月号(洋泉社)のインタビューで、大根監督は「現場の製作費は10万円」とも明かしている。脚本料やメインスタッフへのギャランティーなどは別にしての撮影現場での雑費代だが、いかに低コストで作られたかが伺える。もちろん深夜ドラマで鍛え上げた大根監督の演出手腕があってこその『恋の渦』だが、人気俳優がブッキングできずとも潤沢な予算がなくとも、企画次第・脚本次第で面白い映画は充分に作れることを大根監督は実証してしまった。「人間の業を描いたおもろい映画」を求めている人はもちろん、映像関係の仕事に興味がある人も観ておくべきエポックメイキングな作品だろう。ただし、映画『恋の渦』の成功は、今でも汲々としたインディーズ映画界にいっそうの低コスト化をもたらしかねない危険な側面も持っている。大根監督が撮り上げた『恋の渦』はとても危険な両刃の剣だ。その切れ味は極めて鋭い。
(文=長野辰次)

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『恋の渦』
原作・脚本/三浦大輔 撮影/高木風太、大根仁、大関泰幸 監督/大根仁 出演/新倉健太、若井尚子、柴田千紘、後藤ユウミ、松澤匠、上田祐揮、澤村大輔、圓谷健太、國武綾、松下貞治 
配給/シネマ☆インパクト 8月31日(土)よりオーディトリウム渋谷ほか全国順次公開 (c)2013シネマ☆インパクト <http://koinouzu.info/>

◆『パンドラ映画館』過去記事はこちらから

最終更新:2013/08/22 18:00
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