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全っっっっっ然知らない街でおしゃべりしてみたものの……

「赤羽は、僕の創造力をはるかに凌駕している」赤羽漫画家×犯罪ジャーナリストの異色対談【後編】

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■前編はこちらから

丸山 清野さんは先ほど「本当にとんでもないものは、路地裏にある」とおっしゃっていましたが、『知らない街』でも怪人「三本足のサリーちゃん」にまつわる怖い話を描いていますよね。こういう怪奇的な話は好きなんですか?

清野 昔から好きですね。板橋にも、高島平の自殺団地とかそういうことがちょくちょくありますけど、赤羽は本当にそういう話が多いんですよ。雑誌に載るレベルではないのですが、そのへんにいる人からも怖い話が出てきてゾッとするんですよね。

丸山 最近聞いて、怖かった話はありますか?

清野 とある不動産屋さんが匿名で裏事情を書いているサイトがあって、そこでゾッとする記事を見つけました。僕が昔住んでいたアパートでの、ちょっと不幸な事件について書かれていたんですよ。

丸山 えっ……まさかの展開ですね。

清野 確かにそのアパートに住んでいた頃、いろいろあったんですよ。やけに高くて暗いロフトがあったんですけど、そこから物音や人の気配がして。壁が薄かったので隣の部屋かなと思っていたのですが、調べたら、もうとっくに引っ越して空室で。料理している時にも、換気扇から長い髪の毛みたいなものが垂れ出ていて、それを見た時に「髪の毛ではなくて、謎の物体と目が合った」と直感的に思っちゃったんです。その瞬間、髪の毛がニュルニュル~と換気扇に吸い込まれていって。

丸山 まだ漫画家として、あまり売れていない時に住んでいたんですか?

清野 そうです。なぜかいつも家に帰りたくなくて、それが知らない街に繰り出す原因のひとつでもあったんです。当時は無職で、全然お金がなかったにもかかわらず、結局4年で引っ越したんです。まあ、今振り返ると、オバケ的な話は全部僕の妄想でしょうけどね。あの時、ノイローゼ気味でしたし。今振り返ると、実に住み心地のいい、素晴らしいアパートでしたよ。機会があったら、また住みたいです\(^o^)/

丸山 ……そのほかにも、赤羽には根深くて怖いネタがありそうですね。

清野 うーん、赤水門という赤羽で一番有名な心霊スポットがあるのですが、荒川に飛び込んだ人が昔から流れ着いているところなんです。水門の先にあるちょっとした中州は鬱蒼としていて、昼なのに暗くどんよりしている。中州にはベンチが置いてあって、ベンチの横に木があるんですが、そこでよく人が首を吊るんですね。「どうぞ死んでください」という感じで、ベンチに立って首を吊れるように配置してあるんです。僕の知り合いの居酒屋のマスターが早朝散歩しにいくと、ちょくちょく吊られているんですって。

丸山 それは、人が首吊っているってこと?

清野 そうなんです。自殺です。つい最近も赤羽でゲリラ豪雨があったんですが、3人の釣り人が中州で釣りをしていて、雨が降りだしたので一時的にそのいわくつきの木の下に避難したら、その瞬間、雷が落ちた。一人が亡くなり、一人心肺停止で、一人は生き残ったんですけど、あの場所には木がたくさんあるのに、なんであの木に落ちたんだろうと思うんですよね。『赤羽』にも、いくつかそういう心霊的な話も出てきますが、相当オブラートに包んで描いていますね。やっぱり住んでいる人もいるので。

■清野とおる、街取材の極意とは?

丸山 赤羽愛にあふれる清野さんだけに、赤羽のスナックに行ったら、清野さんのサイン色紙がたくさんありそうですね。

清野 あることはありますけど、実際そんなに名乗ることはないので。一人で飲む時はたいてい、スーツ着てビジネスバッグを持って、サラリーマンの体で行くんです。

丸山 潜入取材にしても、相当徹底していますね(笑)。取材中に話を振られた時のための、架空の設定ってあるんですか?

清野 それがまた面白いんですよ。その都度、いろいろな設定を考えているんです。店に若い客がいたら「俺、mixi作ってんだよ」とか言ったりして。

丸山 身分偽装することで、聞き出せる話も多いんですか?

清野 そうですね。あとはちょっと変身願望もあって、私服で普通にスナックに行っても、いつもの低いテンションのままなんですけど、スーツを着て設定を考えて、お酒の勢いでそれを貫き通すと、普段の自分とは全然別の人格が出てくるんですよ。その人格がお店の人たちとうまいこと意気投合して仲良くなれた時の達成感はすごいです。

 『知らない街』では私服で歩きましたが、ほかの取材はたいていスーツですね。カバンの中には一応ノートパソコンを入れています。変身のためのアイテムは、『赤羽』の連載が始まって、ある程度お金に余裕ができた時に買いました。最初は汚い安物のカバンを使っていたんですけど、スナックって意外とそういうところを見るんですよね。なので、そのカバンは燃やして、新宿でブランド物のビジネスバッグを買って(笑)。最初の頃は私服でスナックに行くと、まだ営業時間なのに「ごめんなさい、今日終わっちゃったの」とか「予約で埋まっているの」と断られることが何度もあったんです。初見のペーペーの若者ですから、不審に思ったんでしょうね。でもスーツ着てカバン持って行くようになってからは、100%入れてもらえます。

丸山 出張族かもしれないし、サラリーマンなら継続してお金を落としてくれるかもしれないと思ってもらえる。そこまで客商売に精通したら、いよいよ赤羽でスナックを経営したりとかしないんですか?

清野 いや、接客は僕は無理ですね。一番無理だと思う理由は、「地縛客」と呼んでいるのですが、大してお金を落とさないにもかかわらず、延々といる客。自分のどうでもいい話をマスターに聞かせたりして。僕、それで気が狂っちゃった店主を知ってるんですよ。赤羽駅からちょっと離れた場所にある喫茶店なんですけど、行くたびにおっさんがコーヒー1杯だけ飲んでいて、マスターにずっと話しかけているんです。マスターも「はい、そうですね」「ははは」とか生返事なんですけど、毎日いるんですよ、そのおっさん。開店から閉店まで。それである日行ったら、潰れていた。あんな客の相手してたら、気がいくらあっても狂い足りないですよ。

丸山 それはキツいですね……。

清野 どこの店にも、絶対に常連客がいるんです。この『知らない街』の取材でも、どの店に行っても常連とおぼしき人が必ずいました。寂しくて、居場所が欲しいんでしょうね。

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